第18話 妖と妖祓い
俺は一人家への帰路を歩きながらスマホをポケットから取り出すと……。
「げっ、着信とメッセージが山ほど」
しかもほとんどはしおんからだった。
内容はやはりソラネとのことである。完全に怪しかったから無理もないが。
でもなぁ、本当のことを言うわけにもいかねえし。
そもそもカテゴリー的には吸血鬼だって妖に入っていると思うし、『妖祓い』についての知識くらいあるかもしれない。
俺はしおんに電話をかけて、一応彼女からの話を聞いておこうと思った。
「もしもし……ろっくん?」
「ほいほい、ろっくんだぞー」
「ろっくん! もう! いきなりソラちゃんに連れていかれたと思ったら、あれから連絡も取れないし心配したんだよ!」
「あー悪い悪い。ちょっと込み入った事情があってな」
「事情? 何か大変なこと?」
「大丈夫大丈夫。ある程度はもう解決したから」
「そうなの? それなら良かったけど、ソラちゃんと何してたの?」
ん~? どことなく言葉の端々に冷たさを感じるけど……怒ってねえよな?
「だからあれだって。アイツの弟と会ってゲームに突き合わされてたんだよ」
「……ほんと?」
「……ああ」
「嘘でしょ? ろっくんって嘘つけない人だって分かってるもん」
あちゃあ……バレて~ら。ていうか俺、そんなに嘘吐くの下手なの? それはそれでショックなんだけど。
「……でも言えないこと、なんでしょう? しかもソラちゃんに関しての」
「……悪いな」
どうせバレてるならこれ以上嘘を吐く必要もない。
「やっぱりそっかぁ。ソラちゃん、何か必死だったもんね。……でも私には相談できないことなんだ……」
二人は友達だし、話してもらえないことが残念なのは分かる。
ただ俺は、ソラネの事情を知っている以上、確かにおいそれと話して良い内容でもないことを知っているので……。
「親友だからこそ話せねえことだってあるだろ? お前ならそれが分かると思うが?」
「! ……そう、だね。はは、私ったら自分のこと棚に上げちゃってた。私だって隠してることあるのにね」
「ソラネには話そうって思わねえのか?」
「う~ん……やっぱり怖い、かな」
「拒絶されるのが?」
「……うん。ろっくんは受け入れてくれたけど、今までにもいろいろあったから」
それはしおんに聞いた。
小学生の頃、ソラネのように仲が良かった友人がいたらしいが、正体がバレた時に怯えられ拒絶された経験をしおんはしている。
だからこそ普通の人間であるソラネに告白できずにいるのだ。
「俺はソラネなら大丈夫だって思うけどな。そんな小さいことなんて気にする必要ないわよって言いそうだ」
「ふふ、それソラちゃんの真似? 似てないよぉ」
実際にソラネならマジで言いそうだ。
ただ問題はソラネが『妖祓い』という仕事をしていること。
ソラネが妖に対して絶対的な討伐対象と考えているなら、しおんの正体は隠しておいた方が良いかもしれないが、ソラネは問答無用で討伐するような人間じゃない。
幽霊相手でも、できれば対話をして自ら成仏をするように促すくらいに優しい奴だ。
だからきっとしおんのことも受け入れてくれるとは思うが……。
「そういや『異種』ってこの街に結構いるもんなのか?」
「ん~どうだろう。そういうことはお姉ちゃんの方が詳しいよ。聞こうか?」
「いや、単なる雑談程度だし別にいいよ。しおんは他の『異種』に会ったことは?」
「そうだね、あまりないかな。ヴァンパイアに限らず『異種』って閉鎖的だから、あまり他種族と交流を持たないんだよ」
「そんなだから世継ぎ問題とか出てくるんじゃねえの」
「はは、多分ろっくんの言う通り。けど……怖いんだと思う。自分たち以外の血族を受け入れるのが。だから受け入れるとしても慎重に慎重を重ねて婚姻相手を選ぶんじゃないかな」
怖い……か。
俺だったらどうだろう。
例えば俺がヴァンパイアで、その血筋を何よりも大事にしているとする。
そこへ他種族の血を入れなければならないとなると…………確かに不安かもしれない。
もしかしたらヴァンパイアの血が、その他の血によって飲み込まれてしまうかもしれないし、そうなればいずれヴァンパイアの立場は弱まり、他種族の支配下に置かれてしまうのでは?
なるほど。悪いことを考えれば考えるほど怖くなるのも分かる。
身内だけで事を為すことができれば、やはりそれが一番良いと判断するだろう。
血族の問題というのは、俺が思っている以上に深刻なのかもしれない。
「じゃあもしかしたら俺たちが通ってる学校にも、しおん以外の『異種』がいたりって可能性もあるか?」
「その可能性もあると思うよ」
「そういう『異種』同士って気配とかで分かったりしねえの?」
「普段はそういう気配は隠してると思うよ? ほら、私だってそうだし」
「あーそういえば、しおんがヴァンパイアの力を使う時って、何か呪文みたいなもんを唱えるんだよな?」
「うん。〝ヴァンデ〟って言うの。これで力を解放し、普段抑えていたヴァンパイアの血を目覚めさせるんだよ」
「他の『異種』も、普段はしおんと似たように力を封印してるってわけか」
「そうしないと余計な争いや問題が発生しちゃうからね」
まあ、しおんの場合は牙が伸びるし目の色も変わるので、確かに他人が見たらビックリしてしまうだろう。
その他にも単純に力が上がったり、強い吸血衝動なんかも起こるそうだ。
他の『異種』も、そうした本能が暴走しないように通常は力を封印しているらしい。
「それに私たちみたいな存在を捕まえたり、やっつけようっていう人もいるから」
やっつけようという言葉に俺は反応した。
「ふぅん。あれか? 漫画みたいな幽霊や妖怪を退治したりする連中がいるってか?」
「うん、そういうことを仕事にしてる人たちもいるしね。『妖祓い』っていうんだよ」
――ビンゴ。
ようやく彼女からその言葉を引き出せた。しかしやっぱり『妖祓い』のことを知ってたか。
「そんな連中もいるんだな。つまりはしおんたちの敵……ってことか?」
「そう……だね。あまり関わり合いになりたくない人たちかも」
あちゃあ……こりゃ益々今日のことは言えねぇや。
「ということは、しおんたちって『妖』ってカテゴリーに入るのか?」
「世間一般的には『異種』って呼んでるけど、昔は『妖』とか『妖怪』とか『妖魔』なんて呼ばれてたみたいだよ?」
「妖怪ねぇ……じゃあ一反木綿とか座敷童とかいるんかねぇ」
「お姉ちゃんはいるって言ってたけど」
「マジか……座敷童にはちょっと会ってみてえな」
基本的に可愛らしい童子として描かれているので、本当にそうなのか見てみたい。
「あ、でも気をつけてね、ろっくん」
「ん? 何をだ?」
「『異種』……『妖』にもその……人間が嫌いなタイプもいるから。もし襲われたら……」
「おう、その時はサクッと返り討ちに遭ってもらうわ」
「に、逃げてって言おうと思ったのに……。でもろっくんなら大丈夫そうなのも事実なんだよね」
たとえ鬼やドラゴンが現れても討伐できる自信はある。
何と言っても俺は世界を滅亡させようとしていた災厄を討ち倒した男なのだから。
「まあでも、そんな奴とは一生会わないで平和に過ごすことが一番だけどな」
「ふふ、わたしもそう思う。あ、今、お姉ちゃんにお風呂入るように言われたから切るね」
「おう、湯冷めしないようにちゃんとあったまれよ」
「分かってるよ。じゃあまた明日ね、ろっくん。おやすみなさい」
「おやすみ、しおん」
電話を切ると「ふぅ~」と溜息を吐きながら天を仰ぐ。
「マジでどうすっかなぁ……」
親父、お袋……俺の傍に『妖』と『妖祓い』がいるんだけど、どうしたらいい?
何だか二人して、天国で「「ドンマイッ!」」ってグーサインを向けているような気がしてイラっとした。
「ま、なるようにしかならねえか」
どうか二人が今後とも仲の良い友人同士でいられるようにと俺は願った。
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