四人はユニーク
そして着替えていくマーブルの姿に、チラリチラリと視線を送ってしまうテトをからかうマガネというのも、いつものことながら、今日は「MARBLE」などという、まるで自らの名前のデザインが施されたキャップをマーブルはかぶると、ランチがてら外に繰り出した三人は、ルネサンスな街並みのなか、アスナに教えてもらったというマガネのナビに誘導されて、アインクランド観光を楽しむのだった。
マーブルは青空を見上げた。一度は通った路だとしても、多少なりとも自らの人造人間の修理が気がかりだった数日前とは違う。ましてや、漸く外に出られたテトが、オープンカフェの店先のテーブルで、慣れない飲み物に、
「ニガイ!!」
などと、コーヒーカップに口をつけたと思ったら、途端に首をひっこめるのだから、それを友と共に笑い合えるというのも、旅らしくていい。
ときに、武骨な格好であったり、ハイテクなものたちも行き交うが、王政の敷かれたその国の都は、馬車に乗った王侯貴族たちが通り過ぎることもあれば、マーブルがテトに読み聞かせたおとぎ話の数々よりも濃厚な世界観、といっていいかもしれない。
風光明媚なロマンを前に、三人が、携帯端末ごしにカメラに収まりたくなることも、自然の流れといっていいだろう。
夕方の時刻となれば、せっかくなので外食にしようなどと話しあっていると、マガネの端末が着信を告げる。手のひらの上で画面をなぞれば、そこに浮かび上がるのは、白と赤のコントラストをした女剣士の立体映像だ。そして、内訳を聞いたアスナが、
「……そういうことなら、わたし、おすすめのレストランがあるよっ。今、情報、送るね」
などと、すっかり鼻の下を長くしたマガネを前にして、地元民というのは心強い。
そして、彼女から送られてきたデーターを元に、マーブル一行は、ガラス窓には手書きふうのローマ字で料理のメニューなどもあちこちデザインされてネオンのように彩光を放っている、レトロな木製のドアの辺りなどで、人混みのなか、会話を楽しんでいると、
「あら、お腹、空いてるでしょー? 先に、入ってくれてたらよかったのに」
などと、長い髪の毛を揺らし、聖騎士のホープは現れるのである。
「せっかくならさー、一緒に、食べたいじゃんっ」
「マガネちゃん……ありがとう」
(…………)
本当は、マーブルが言い出した提案だったのだが、しゃしゃり出るようにしたマガネに、それで、アスナの微笑みが嬉しそうならば、言うこともあるまい。それに、マガネの欲望は、朝日が昇るまでの夜通しであったというのに、その笑みも昨夜と劣らないのは、流石、本人の言った通りの、鍛え方の違いというものか。とりあえず、マーブルは、気を取り直すと、すっかり二人の世界となった眼前に、
「アスナさん、学校、おつかれさまー」
「マーブルちゃん、ありがとう。ただいまっ」
「アスナ、今日モ、マガネト、スキスキゴッコ、スルカ?」
「こーらーっ!!」
そして、タイミングをずらすような展開をぶっ放しなのは、自らが作りし人造人間ではないか。
「えっ? ス、キ?」
「そうそう。なんか、こいつ、起きたときから、へんなんだよー。うちらが壊しちゃったかもなんだってー」
今度は、アスナの肩に自らの腕を乗っけたマガネが話しだし、
「えっ?! たいへんっ! なんで?! マーブルちゃん、ほんと?!」
「ほらー、うちらがさー……」
真剣にマーブルのことを見つめるアスナの長い髪の耳元に顔を落としたマガネが、ささやくようにしはじめれば、「え? あ……!!」などと、ビクッと小さく反応するほど、アスナもすっかりマガネの手中にあったわけだが、
「いいからーっ! 壊れてないからー!」
などと、強く押し切るようにしたのはマーブルなのであった。
「ほ、ほんとに?! マーブルちゃんが一生懸命作ったテトくんに、わたしがなにか迷惑かけちゃったんなら……」
「ダイジョブ! ダイジョブ! そ、それよりさ、学校、どうだった?! アスナさんっ」
「え、普段通りだったけど……お昼時間、寝ちゃったから、お昼、食べ損ねちゃった。学校で、あんなぐっすり寝ちゃったの、はじめてっ」
そして、アスナはペロリと小さな舌も出して微笑んだが、それみたことかと、マーブルなどはちらりとマガネの方を見、すると、マガネは、視線をそらして口笛など吹いてみせたりする。
「だから、わたしもお腹、ペコペコなんだ。なんの問題もないなら、いこっ」
「うん。そうだねー。お先、どーぞーっ」
マーブルは、入店は、とりあえず、アスナと、そしてマガネに優先させた。それから、背伸びまでして、ずっと、その大きな口を覆ってた両の手を放すと、巨人をキッと睨み上げ、
「いーい?! テト! スキスキゴッコのことは、言うの、メっ」
「…………ガウ」
こういったときの主従関係もマーブルの設定通りである。その姿は耳ペタの犬といった具合に俯いていたが、とりあえず、ひとつ、ため息もつくと、「……わかったなら、いいこ。じゃあ、ほら、いこ」と、優しく促してやるのもマーブルであった。
美味しいものも堪能し、宿に戻れば、年ごろのガールズナイトも更に華やぐというのは古今東西、変わらない風景、といったところか。
歓談のなか、椅子に腰かけたアスナは、「……けど、嬉しいな。このトルバナのこと、みんなが気にいってくれて」と、自分の故郷の街の名を噛みしめたりしていたが、「そうだっ」などとも閃くようにすると、
「トルバナ名物の巨大プール、まだ、いってないでしょ?!」
「プール?!」
そして、ベッドに各自、座っていたマーブルとマガネが同時にオウム返しをすれば、「ちょっと、まっててねー」などと、自らの携帯端末を取り出したアスナが、その画面の上で指をなぞらせ、しばらくすれば、そこには、皆が憩うプールのホログラムが映し出されるではないか。
「ここも、今、夏なの。夏といったら、プールでしょ?! 今度、わたしの休みの日に、みんなでいこ?! テトくんも、きっと、気にいるんじゃないかなっ」
「……プール、かぁ」
「あーっ! それ、いいかもっ! そうだーテト―、あんた、まだ、泳ぎのチェックしてないじゃーん」
「ガウ……オヨグ?」
「うんっ。とっても、きもちのいいことよーっ」
マガネが、「……まぁ、いっかー」などと呟くなか、アスナとマーブルは、「じゃあ、決まりねっ!」、「決まりー決まり―っ」などと盛り上がり、笑い声のなか、夜は更けていく。
頃合ともいえる刻、「……じゃあー、うちらー、そろそろー」などと、マガネがアスナの肩を抱き、マーブルにニヤリとすれば、ポッとアスナの頬も染まるなか、「お、オッケー」などとマーブルは応じ、地べたに座っていたテトに、「……テトー。もう、寝る時間、こっちきなさーい」と、促す。
「ガウッ」と、専用ベッドでケーブルに繋がれた姿を見届けるようにすると、マガネとアスナは立ち、そして操作をしながら、マーブルは部屋から出ていく二人を見送る。
こうして、ガチャリとドアが閉まったときには、「強制睡眠」は作動していて、テトの眼は途端に真っ暗となった。
「……ふぅ」
と、完全な静寂のなか、天才少女が一息ついて、しばらくすれば、早速、壁向こうからは、アスナの嬌声とともに、マガネの貪欲な音まで聞こえてきそうな勢いだ。途端に、眉間もピクリなマーブル、といったところだが、これら一連の流れが、つい、先刻、レストランにて、「ウマイ! ウマイ!」と、テトが夢中になるなか、女子同士各自がそれに応じながらも、互いの携帯端末同士の文字情報でやりとりして決定した、言わば、マーブルの苦肉の策の、「取り決め」だったのだ。
古今東西のガールズナイトより少しユニークといったら、この一点だろうか。ただ、尚、保守的な価値観があるにせよ、少なくとも女性同士の出産もとっくに可能なこの時代、友であれば尚更、理解もしてやりたいのがマーブルといったところである。ただ、それにしても、静寂なのは、この部屋だけなのではないか、なんて錯覚にもとらわれていくと、マーブルだって年頃だ。ベッドに突っ伏した乙女はボソリと、女同士ではないにせよ、
「どんな、なんだろ……」
などと、思わず、完全沈黙のテトの横顔などを眺めてしまった。
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