4+1の少女 前編

 よく晴れた、二つの太陽も浮かぶ青空の下、モモ、クー、ルーシーは廃墟のコロニーを快適に住みやすくするために、片づけに、改装に、キャッキャッ、キャッキャッとはしゃぎながらも、きびきびと動き回れるところも女子らしく、一連の作業を楽しんでいるところであった。くたびれた色の外壁は、カラフルなペンキで生まれ変わっていき、各自、箒に塵取りも手にとって、顔をもバンダナなどで覆っては、三人よればなんとやら、力を合わせたテレキネシスは、男手に頼らずとも物の出し入れすら容易であったし、では、皆で引っ越し業者でもはじめるか、などという冗談も飛び交えば、尚も愉快に笑い声は響いた。そして、この乙女たちには頼れるスーパーAI、テオが付いていたのである。本人持ち前のハイスペックを駆使すれば、既に設えられていたソーラーシステムの復旧、修理なども、次々に易々と施され、とうとうキッチンに火など灯れば、三人娘は、一際にキャッキャッと喜んだものだが、なんだかんだで祖父母に甘やかされて育ったモモを筆頭に、花より団子ではあるクー、そして新たな仲間の猫娘、ルーシーの、各自の料理スキルの腕前は未だ未知数だ。


 生活とは、なにかと物入りである。それでは、近所の星のいづこかの国の生活用品店に皆で赴こうかなどと、宇宙船の前で話しあっていた時の事であった。

「…………っ!」

 既に、三人共に、ただならぬ気配には、持ち前の超能力でも敏感になりはじめていた乙女たちは、なにかが周囲から急速にやってきている事を感じると、クーは既にカンフーの構えを形作り、モモは、家の壁面に立てかけていた聖剣を手にしようとし、ルーシーは腿にぐるりとまかれた、レッグホルスターにあるレーザー銃に手を置いているところであった。


「グルルル…………!」

 やがて周りの木陰から漏れる唸り声と共に現れたのは、まるで、野犬のような野生の獣たちであったのだが、その眼のあるはずの部分は、毛並みのみで、まったく何もなく、まるで盲のような異形をしている!


「ガウガウ…………!」

 尚も徐々に近づいてくる群れから、尚更いきり立った者は、よだれも跳ねて威嚇し、吠えた! すると、そのベロの先には、血走った目が、ギョロリと一つ、生え出ていたりするではないか!


「……皆様、情報ニヨリマスト、極メテ人体ニ危険ナ、ウイルス性ノ感染症ノ細菌キャリアノ現地生物種 ト、出テイマス。彼ラノ犬歯ニ要注意デス」

 宇宙船に取り付いていたテオも離れ、スコープの一つ目で周囲を見渡しながら、自らもレーザー砲を起動させつつ、説明をする。

「噛まれたりしたら、あいや~な感じアルか?」

「Yes、miss。敵意サエナケレバ、ソノ脅威モナイソウナノデスガ……」

「なら、モモとクーはあまり手を出さない方がいいよ~。テオ~、ワタシとがんばろ~。あっちゃ~。ケド、数、多いな~」


 各自が身構え、語りあう中、モモ自体も、すっかり自分の愛剣となった武器を、鞘から抜き放ち、当初は獣たちを睨んではいた。ただ、レーザー銃使いの仲間たちが、今にも呼吸を合わすように引き金をひこうとしていたところで、

「待って…………!」

 と、思わず、叫んでいたのだ。そして、今度はカチャリ……などと納刀すると、徒手空拳とすらなり、やがて一歩、二歩と、異形の野犬たちの群れの中に歩み寄っていこうとするではないか!


「ガルルルル……!!」

「ガウ! ガウガウ!!」

 口からギョロリとした目の出し入れを繰り返し、獣たちは、今にも襲い掛かってくる体勢だ!

「あいやっ……モモっ?!」

「御嬢様?!」

 

 仲間はみんな大慌てしたが、モモは、それを制するように、手を広げ、尚も彼らの事を見つめるのみであった! そうして、最早、毒牙も眼前の距離となったところで、なんと、モモは、膝もおり、じっと彼らの事を見渡して心の底から思った事と言えば、

『みんな……怖がらせて、ごめんねっ!……ここは大昔からあなたたちのお家だったのね……。けど、わたしたち、お家がないの……。ここを、使わせてください。わたしたちは怖くないわ。大丈夫……。約束する。決してあなたたちの分まで食べたりもしない……』

 などという、言わば、思念伝達だったのだ!


 想いの力は強烈だった。つい、先ほどまでいきり立っていた群れという群れは、やがて嘘のように静まっていき、とうとう一匹、一匹と、森の中に消えていくではないか! 中には、愛想よくちかづいてきて、ハァハァと笑う口を開けると、そのベロのある舌で、モモにすり寄ってから去っていくものまで現れた。

「ありがとう……」

 心の通じ合ったもの同士、その犬たちの頭や背を撫でてやったりしながら、モモは穏やかに答えている。やがて、さきほどの襲撃が嘘のように、森並みは静かな日和を取り戻す頃、

「Wow! すっごい! モモ! なにかのヒロインみたい!」

「あいや~。『格別』ではあったケド、今のは一際、輝いて見えたネ~。そんなことまでできるアルか~?」

 ルーシーは思いっきり感動し、クーは、あまりの突飛な事に肩をすくめ、モモに問うのであった。


 黒髪の乙女はゆっくりと立ち上がり、

「ううんっ……。わたしも最初は、たたかわなきゃって事しか頭になかったんだケド、なんだか、あの子たちが、実は、怖がってるだけだ、って……だんだん、伝わってきて……」

 説明は続けるが、何故、こんな事ができると確信がもてたのか、そして実際できたのかは、ニュアンスとして、伝える事ももどかしい。ただ、べコべコ星でギュウマを相手にした辺りからの旅の過程で、「兆し」はあった。あくまで推論にすぎないが、

「……なんだか、わたしの『パワー』、強まってる、みたい?」

 と、モモが呟くと、

「……あ~。ワタシも~。二人と組むまでは、頼りはこの耳だけだったから~、一気に便利になった気がする~」

 などと、人よりもはるかに聴覚の発達した猫耳をくるりとさせ、ルーシーは、それに頼らずとも、気づけば、超能力で相手の気配を感じるとる事もできるようになった、自分の新たな才能の事を語り、

「ふむ……」


 クーは、少し、なにやら考えるふうにもしたが、やがて、「ふん……っ!」と、地を蹴ると、瞬間には、はるか彼方の青空の果てへと消えていった。やがて、ヒュンヒュンヒュンヒュン……! とした大回転と共に、ド派手に着地をすれば、

「確かに、二人とも『気』の使い手。鍛えられて、強くもなるネ。けど、うちが、いずれ教えてあげようと思ってた事も、自然とできてタっ。とても不思議……そして、うちも……最近、なんだか、やけにキレ、いいネっ!」

 赤毛のチャイナドレスは、尚も、カンフーを舞いつつ、技の一つ一つを確認するようにして語り続けたのだが、結局三人娘の顔は各自、クエスチョンとした顔で、結論はでないままに、話の時と場所は、すこしばかり、遡る事とする。


 聖トーハー女子高等学校には、モモと並んで「二大美女」とうたわれた、サクヤという、モモと同じクラスの、学級委員長の美少女がいたのは前述した。モモに負けず劣らずの長く綺麗な黒髪を、本人はカチューシャやリボンなので飾るお洒落を好み、抜群のプロポーションも相俟っていれば、それは同性ゆえの憧れから、性的指向の欲望の目つきまで、校内関係者の多くを虜にしたものであった。ただ、元々、サクヤ自体も、モモのように、運命の白馬の王子を夢見る方の女の子のはずだったのだ。ましてや、夕暮れの教室で、まるで生首のように顔しかない上に、その下はうねうねと触手だらけの異形のクラスメートが、顔も青白くクラゲのように漂い、その想いを告げてきても、美女の心の優しさ故、言葉は選ぶが、どう断るかという事が大前提で、戸惑っていたくらいなのである。


 それが、何故に、ほぼ、毎日のように、異形な相手の性的な欲望の全てを受け入れては、体中を弄られ、時にその食料となる事まで厭わない関係に至ったか、はここでは語るまい。


 猛鬼、襲来のその日、避難したはずのシェルターのドアはとうとう強引にこじ開けられ、鬼たちは一気になだれこんできた。ひ弱な女たちしかいない教師や生徒、クラスメートたちは次々に殺され、犯されていった。サクヤはヒルコを守るように、うずくまり、その胸の中に抱きながら、震える事しかできないでいると、とうとう鬼の影は彼女たちの前にも立ちはだかったのだ。二人は最早、これまでと目を瞑ったが、その影はしばし動かずにいたのである。恐る恐る二人が見上げると、煌々と光る鬼の眼は、何やら値踏みするように、サクヤを眺めているではないか。そして、死体の山となったシェルターから連れ出され、鬼たちの乗ってきた宇宙船内に連行された挙句、サクヤたちは牢屋に収容されてしまったのだ。


 やがて食事も出されたが、それがサクヤのみの為である事は一目瞭然であった。とても食べられる心境ではなかったが、ヒルコを思えば、彼女は少しでも口にする事を選び、元々、特殊な食事が必須であったヒルコも、サクヤの股の中にもぐりこめば、生きるために舌を這わせた。こうして二人が打ちひしがれていた矢先、間もなくして、猛鬼は、焦土と化したクマソの廃港で、サクヤを異星人に売りつけたのである。買いにきた童話のオークのような宇宙人も、ヒルコにはあからさまに変な顔しかしなかったものの、舌なめずりでサクヤを見ると鬼の言い値で買い、そのペット程度の扱いで全く無視されていたにしろ、ヒルコは、パートナーとして、虫唾が走った表情となったのは言うまでもなかった。


 飛び地のオノゴロ領となった太陽系を飛び出すと、ヒルコとサクヤの眼前には、二人が今まで見た事もない程の星空以上の星である宇宙空間の美しい光景も広がったが、決して、彼女たちの心が晴れる事などなかった。自らの母星へと帰る道中、操縦席の豚男は、なにかといやらし気に助手席のサクヤを眺めては、舌なめずりを繰り返し、サクヤが唇を噛みしめては俯く中、漂うヒルコは恋人として強く睨み返すも、それには全く気にもされなかった。ただ、事件というものは唐突に起きるものである。突然、船は揺れると、豚の大慌ても虚しく、宇宙船は急速に、ある星に向けて墜落していったのだ!そして既に、サクヤは気を失っていたりするではないか!


 ここにヒルコの、試される試練がはじまった。


 彼女の触手は、その全てが、今、目をつぶり、力なく項垂れてしまっている恋人の体中を這っていく。ただ、それは、いつものような、自らの性的欲求の餌食とするためのいやらしさなどは一切なく、ただ、想う人を守りたいという力だけで満ち満ちていた。そして、とうとう墜落の瞬間、ヒルコが目を瞑り力を振り絞れば、二人の周囲にはバリヤーが生まれ、気づけば隣では丸焦げとなった豚の丸焼きもある中、彼女たちは助かったのだ。だが、このままでも危ない。ヒルコは未だ座席にて、意識のないサクヤを安全な場所に移そうと、その触手に力をこめた。 「…………っ!」無論、その作業は、人類よりも遥かに非力な種族であるヒルコにとって、人類よりも少ない数なれど、正に火事場の馬鹿力のように、歯を食いしばるような作業であった事は、言うまでもない。


 漸く、燻る船から恋人を離す事に成功したヒルコは周囲を見渡してみた。辿り着いたその星は、鬱蒼としたジャングルに囲まれていて、何やら聞いた事もない宇宙生物の鳴き声もすれば、ビクリともしてしまう。今日日、銀河系連合加盟地域内に、こんな手づかずになってる星がある事にも、ヒルコは驚いたが、丁度、眼前には、塩梅のいい洞穴が覗いているではないか。「…………っ!」もうひと踏ん張りと、サクヤを包み込み、手足を兼ねた自らの何本もの器官を鼓舞し、異形の少女は洞穴を目指した。


 恋人を無事に洞穴の奥に寝かせた後も、ヒルコの仕事は続く。既に難破した船内であったが、目ざといヒルコは、いかにも大食らいの豚が、大量の食料や飲料を持ち込んでいたのを確認していたのだ。炎上する船の残骸からそれらを発見した時の表情は、その青白さも晴れるかのようであった。あまりそういった事に適して作られていない触手たちは、最早、過剰な労働に悲鳴をあげていたが、尚も抱えこむその汗まみれの表情は必死であり、地球に残してきた自分の家族たちの事を思えば、もう、これ以上、大事なものなど何一つ失ってなるものかと、ギョロリとした眼も、視界はぼやけたのである。


 そして、息も絶え絶えに何往復かし、あと少しというところだった。


「ガルルルル………!」

 恐ろしい鳴き声がし、フラフラと漂う異形の背後を大きな影が覆うようにした時、恐る恐るヒルコが振り向けば、巨大な宇宙生物が、凶暴そうな牙を剥き出しに、睨みつけているではないか!


「………………っ!」

 青白い顔は、更に蒼白となったであろうか。しかも、異形とは言えヒルコも女の子である。喧嘩らしい喧嘩すらした事もない、元来が穏やかな種族でもあれば、異形の少女の心は揺れた。だが、すぐ目の前には、守りたい命があった。腹をくくってしまえば、少女の迷いの解決もそんなに時間はかからなかったのだ。


 ビビ……ビビビッ…………!

 今やヒルコの触手は、みるみるどれもこれもが激しく音を立て、電光を帯びていったのだ。それは、彼女がこれまで決して何者にも向けた事がない、「暴力」を「発動」しようとしていた事を意味していた。

「………………」

 そして、もう一度、振り向いて敵を睨み付けたその顔は、異形ながらも凛々しさそのものであった。


 意識を失ったサクヤは、在りし日の夢を見ていた。ヒルコを自宅に招き、親に紹介した時、無条件に受け入れてくれたサクヤの母親の隣では、父親は、取り繕いながらも、物凄く複雑な顔をしていたものだった。

(……けど、この後、お父さんも、『サクヤの人生だ。がんばりなさい。』って言ってくれた……)


 こうして親公認の仲となった二人だったが、ある日、自室で、つい盛り上がってしまい、すっかり全てを脱がされながら、ヒルコの切ない愛撫に、いよいよ声をこらえるのも必死となっていた矢先、茶菓子を運んできた母親にドアは開けられ、「サクヤ~、ヒルコさ~ん、お茶……あっ」などと察しられては、二人共に大慌てした事もあったが、

(……お母さんたら、『ごめんね~!ちゃんとノックするねっ!』って…………っ)

 ただ、その何もかもが愛おしく、懐かしい日々で、正に夢のようである。

(……私、夢を、見ているのかしら……)

 そして、頬を伝う感触と共に、ゆっくりと目をあけていくと、周囲は土塊に囲まれ、すぐ目の前には、量の減ったペットボトルが置かれていたりしている。


「…………つっ」

 やがて起き上がろうとしたサクヤであったが、一瞬、頭痛を感じると、こめかみをおさえ、頭に飾ったリボンが揺れた。連れ去られる船内が、まるで、強烈な力にでも引っ張られるかのように星へと落ちる頃、なにか、頭に強打を感じたが、そこから先の記憶がまるでない。


「…………」

 更に見渡してみると、当分は困らない程の量の食糧が、灯るランプの中に映えてもいる。と、弱々しく自分の名を呼ぶ声にハッとして見れば、そこには愛おしい者の姿があり、既に干からびかけたりしているではないか!

「ヒルコちゃん……!!」

 その名を呼び、慌ててサクヤが駆け寄れば、ヒルコは震える触手で、その長い髪を撫で、彼女の回復に安堵と喜びを口にしていた。


「ヒルコちゃん…………!」

 サクヤは改めて見渡し、異形のパートナーが自分の為にこれまで何を成してくれたかを察すると、南国美人の睫毛長き大きな瞳は、再び、涙も溢れるというものだった。

(……こんな無理して……!)

 情感は、今や、頬を伝わんとする程だ。ただ、その雫をも触手は拭き取ってやりながら、そろそろ自身の命の限界な事と、自分がいなくなった後のサクヤの安否などを口走るものだから、

「ヒルコちゃん?!」

 サクヤにとってみれば、思わず、もう一度、その名を呼び、問いだたしたくもなるものだった。


 だが、尚、弱々しくも穏やかな笑みでサクヤを見つめていたヒルコは、抑留されていた時から、無理矢理に申し訳ないと思っていた。などなどと次々に謝罪なんて口にもし始めるものだから、その時には、気づけば零れていた異形の涙の方を、今度はサクヤが拭いてやると、しまいにはキスでその口を塞いでやってしまう始末であった。


 驚いたヒルコの瞳が、ギョロリとサクヤを見つめる頃、フッ……とサクヤは穏やかな笑みをし、しばらくヒルコの事をジッと見つめていたりもしたが、やがて、静かに立ち上がると、着込んでいた制服に手をかけ一枚、一枚と脱いでいくではないか。とうとうヒルコの目の前で、全てを露とした、ランプの穏やかな灯にも映える、サクヤの肌は、いつものようにどこまでも美しく、

「ちょっと……汚いかも、だケド……」

 生まれたままの姿で、ヒルコの前に立つサクヤは、ためらい、恥じらう素振りもみせたが、ついには膝を折り、

「少し、寒いナ……ヒルコちゃん……暖めて、くれる……?」

 大きな瞳、潤ませ、頬を赤らめて囁かれてしまえば、魔法にかかったかのように、ヒルコの触手もズルズルと動き出し、滑らかな肌に這わしていくのも時間の問題であり、すっかり調教された美女の体は、今や吐息と共に、その何もかもを受け入れる体勢を、自然と形作っていくのであった。


 こうして二人のサバイバルな暮らしははじまった。何はともあれ、そこは地球によく似た、素晴らしい自然の宝庫だったのだ。見た目は大人っぽさすらあるとは言え、少女時代は野山を駆け回った、サクヤも根はクマソ育ちの野生児である。おっかなびっくりと慎重なヒルコよりも、適応は早かった。やがて、エメラルドグリーンに煌めく川遊びでは、時を忘れるように共にはしゃぎ、体を洗うのを手伝ってやるなどと、怪しくヒルコの触手が伸びれば、口ではやんわり拒みながらも、結局、その全てを受け入れ、挙句に性的絶頂をサクヤが存分に叫んでも、澄み渡る青空の下、そこにはなに一つ阻むものもない自由があった。


 墜落した宇宙船では、豚の死体がどんどん腐りゆく中、尚、生活に使えそうなものを、共に引っ張り出しては、今や、愛の城と化した洞穴へと、二人は運んでいく。やがて、電光を発生する能力と、もう一つあった、とある超能力をも駆使し、ヒルコは試しに手ごろな獲物をとらえると、念力でもって運び込んでみたりして、洞穴では、それを待つサクヤが調理してみる、といった試行錯誤もやってみた。


 こうした暮らしが、二人の絆を更に強くしていった事は言うまでもない。その上に、今の二人には昼夜を問わず、愛し愛される自由があったのだ。ただ、その日は、ヒルコの激しく、切ない愛撫が、もしかしたら、いつにもまして、サクヤの奥の奥まで届かんとしたのかもしれない。その絶頂の瞬間の快感は、いつにもまして、サクヤの体の中を、まるで稲妻でも走ったかのように心地よく貫き、歓喜と共に美女は絶叫したのだ。


 瞬間、驚くべき事が起きた。


 何かが光った、とは、二人同時に思った。そして、DOOOOOOON…………と、鈍い音がした。すると気づけば、まるで、二人が暮らしてきた洞穴の生活圏の秘密を白日の元に晒すかのように、その周囲のみだけが円を描くように綺麗に残され、それ以外は遥か彼方までの土塊も森並みも、綺麗に吹き飛ばされているではないか。未だ突き出されたサクヤの尻に顔を埋め、搾取したままに固まったヒルコは、下側に垂れていても尚、形のいい豊かな乳房をも搾り取るように触手たちも這わしたままであったが、燦々と降り注ぐ太陽を感じれば、眩しさに表情をしかめ、未だ、その全てを受け入れる体勢のままに、少しピクピクと波打ちながら、吐息と共にトロンとした表情のサクヤの頬の桃色具合も、思い切りに解るほどに、そこは日だまりと化していた。


 漸く互いに体をほどき、尚、呆然としていると、ふと、目の前には先端に三日月の形のデザインが施された杖が突き刺さっており、

『……皆が己が役目を果たした。……私も動かずしてなんとしよう……これは、君たちの力を制御し、且つ、効率的に打ち出す事のできる物だ。……この杖を君たちにさずけよう』

 などという謎の男の声が、ヒルコとサクヤの、まるで脳内に響いたりしたのだが、その現象自体には、二人はあまり驚く事なく、なんだか不思議な魅力を感じるその杖に、互いの手が触れる頃、それは、サクヤの体が生まれたままに裸体である事も相俟い、まるで二人の姿は、神からの贈呈に触れる、新世紀のアダムとイヴのようであった。


 そして、暫しの時は過ぎたのである。その日、モモたち三人が乗る宇宙船は、自分達の秘密基地の所用のために、気ままなドライブがてら、その星を通り過ぎようとしてたのは強烈すぎる偶然であった。途端にテオ以外の三人は言い知れぬ 何か を感じる事となるのである。

「……あの星、……何か、あるよね!」

 後部座席にてモモが呟けば、

「そうアルネ……!」

「OK! レッツゴー!」

 クーが同意した途端に、操縦席のルーシーは舵を切ったのだ。


 森深き星の中に広がった草原に着陸し、降り立つと、眼前に見えた小さな丘には、丁度、人影らしきものも見える頃であった。モモたちが仰げば、逆光で思わず顔もしかめたが、影は、何やら杖らしきものを手に、肩には 何か を浮かばしている、長い髪、揺らめく女の子の姿であるようだ。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る