唇は奪い奪われ



「旦那っ! そっちにっ!」

「ああ」

 森の中。うっそうと茂る木々のカーテンに隠れて、奴らは踊る。

 牙の代わりに刃を尖らせ、獲物を前によだれを垂らすように、毒を滴らせ。


「グギャアアアアッ!」

 叫び声と共に、俺に飛び掛かる一匹のゴブリン。


「悪いな」

「アギッ!?」

 その手に握ったナイフごと、腕と頭を、一閃。

「主に恵まれなかったことを悔やむがいい」

 お前たちの幕引きは、こうもあっけないのだからな。


 ブルーダラク家の宝剣に引き裂かれるゴブリンに、ほんの少しの同情を残してそう囁いた。


「狼嬢ちゃんっ! そっちは二匹だっ!」

「ああっ!」

 ベーオウの叫びにクーナ達も即座に反応する。ゴブリンの突進も投げナイフも、いとも簡単に捌いて……。


「ガブジュッ!?」

「ウブベアッ!?」

「ガルルルルルルルルルッ!」

 奴らの悲鳴と獰猛な獣のうなり声が重なる。ゴブリンは、あっさりと狩る側から狩られる側へ。その小さな体を、何人ものワーウルフ達の牙に引き裂かれて。


「旦那は、何か感じますかい?」

「いや。クーナ」

「もう奴らの匂いはしないよっ!」

「……なら」

 俺は、直刀を高々と掲げ、告げた。


「我らの、勝利だ」

「おおー!」

「ワオオオオオオオオー!」

 今日の戦闘が終了したことを。


 というわけで、ここはお馴染みバンブラーの森だ。

 ワーウルフ達を魔王軍から助けた場所であり、俺達の狩場であり、そして最近はもっぱら魔王軍の襲撃を受ける場所でもある。


 そう、奴らとのが始まったのだ。


「俺たちゃ今日も全員無事のようでさあ」

「私達も大丈夫だよ!」

「よし……ならこのまま狩りへと移るぞ」

「おおー!」

 意気揚々と声をあげ、俺達はそのまま森を駆け抜ける。


 ワーウルフ達とレッサーオーク達、そして俺を交えた『ハント・チーム』だ。

 その名の通り『獲物を狩る』のが仕事の俺達は、狩猟のみならず魔王軍との戦闘でも日々戦果を挙げていた。


 魔王軍と森で接触したあの日から、俺達は襲撃を受けるようになったのだから。

 それだけ聞くと激しい戦闘を想像するかもしれないが、実際は少しだけ違う。


 毎回、襲ってくるのは十匹前後のゴブリンだけなのだ。


「カイ、この先にエンテーのちょっとおっきいやついるよ」

「よし、俺がやる……ベーオウ、クーナ、回り込め」

「へい」

「うんっ!」

 俺はそう指示し、俺自身も感覚を研ぎ澄ませて先を探る。

 確かに、そこには草木をかき分けて進む、一頭のエンテーの影。


「追い込め」

 俺は小さく囁く。このささやきだけで、離れていても耳のいいワーウルフ達には十分に伝わった。

「ガルルルルルルルルルッ!」

「おらあっ!」

「グブァッ!?」

 やがて彼らに急き立てられ、慌てたように森から飛び出してくる、今日の獲物。俺の背丈ほどもある巨大なイノシシ。


「ああ、いいサイズだ」

「ガッ!?」

 サクッと、苦しまぬように脳天を一突きに。

「我らの糧となれ」

 直刀を突き刺したまま、目を見開いてこちらを見つめるエンテーは、やがて自分の命運が尽きたことを悟り、静かにその瞳を閉じた。


「いよっしゃあ! 流石旦那っ!」

「カイっ、いいぞっ!」

「このサイズでは……まだ足りんな。さらに奥に行く」

「いやカイ、近くにまだ小さいのがいる。これは私達でやる」

 言うが早いか、彼女達ワーウルフはその高い運動能力とチームワークで駆け出し、瞬く間に獲物を追いこんでいく。頼もしい限りだ。


 こうして何事もなかったかのように、奴らの襲撃の後狩りをするのだ。何とも慌ただしいが、実際そうせざるを得ないのだ。


 ゴブリン達は少数ながら、『毎日』奇襲をかけに来るのだから。


 時間はお構いなし。朝だろうが夜だろうが関係なく現れては、厄介な毒ナイフで襲い掛かってくる。襲撃の規模は大したことないが、あの毒ナイフは魔王軍のオークでさえ泡を吹く威力がある。そして気配を消す能力だけはやはり一級品。

 加えて朝昼晩と休みなく攻め立てられれば、否応にも緊張や疲労を強いられる。狩猟だって休めない。本来ならばかなり深刻な事態のはずだ。


 ところが、俺達にとってこれはさほど痛くない。


「おっと旦那、今日はまだがあるみてえですぜ」

「分かった……クーナ達、聞こえるか。狩りは一旦中止だ」

 俺の言葉に森のざわめきが止む。再びここは、木々のカーテンが覆い隠す戦場となった。俺達と、魔王軍との戦いの舞台に。


 そう、これが痛くない理由だ。


 まず奴らが現れるのは、このバンブラーの森と城周辺。時間を選ばない襲撃は確かに厄介だが、城は幸いなことに荒野の真ん中に建っている。奇襲するには最も向かない立地だろう。隠れる場所がないから遠くからでもバレバレだ。


 そして森の中。あいつらは俺達の狩場付近でいつも待ち伏せをしている。森を訪れない日が続くとゴブリンの数が増すことから、毎日補充要員がくるのだろう。放っておけばどんどん増えていくから、これも厄介……なはずなんだがな、本来は。


「数は」

「六匹ですぜ」

「よし」

 そう、これだ。

 『同族探知』とでもいうべき、オーク達の持つ特殊能力。


 驚くことに、ベーオウ達レッサーオークには、ゴブリンの気配が分かるのだという。


 俺はモノの動く音や木々のざわめき、風の流れの変化から相対的に相手の位置を探っているが、ベーオウ達は色々なものを通り越して何となくそこにいるのが分かるという。俺がおぼろげながら近くにいるというのが分かるのに対し、ベーオウ達は正確な数まで言い当てるのだから驚きだ。


 ベーオウ達オークはゴブリンと種としては近い。恐らく奴らが発している何らかの信号を嗅ぎとっているのだ。最初魔王軍の襲撃に気付いて逃げられたのも、ベーオウ達のこの感覚があったからこそだ。


「クーナ」

「……いる。やれる」

 音を立てず、静かにゴブリンのいない場所を通って傍に来たクーナが答える。


 いることが分かれば、匂いを嗅ぎとることもできる。


 前にワーウルフ達が追い詰められていたのは、ゴブリンの数が多くて匂いが広範囲に分散してしまっていたからだ。加えて開けた場所でオークに追い詰められていた。

 だがそれが無ければ、彼女たちだって互角以上に渡り合える。血以外では吸血鬼をもしのぐ嗅覚と、はるか遠くのささやきさえ聞き取る耳で。


 そして奴らは、気配を消すのは一級品でも、気配を探る方まで特化しているわけじゃない。

 肉食獣が獲物を狙うように、気づかれずに近寄れば……。


「やれ」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「グギャアッ!?」

 襲撃は、攻める側と攻められる側が逆転するのだ。

 木々のカーテンの中、幕は静かに上がり、降りる。俺達は毎日襲撃され、けれどその襲撃を先んじて潰している。被害は今のところゼロ。


「旦那っ!? 三匹がそっちにっ!」

「分かっている」

 俺もこいつらの気配には慣れた。

 呼吸のタイミング、襲い来るリズム。訓練されているのだろう。その動きはいつも同じ流れでやってくる。そんなもの一度つかんでさえしまえば……。


「恐れるに足らずだ」

「ガッ!?」

「ゴベッ!?」

 直刀の一振りで二匹のゴブリンの首を跳ねる。緑色の頭が、血の弧を描いて地に落ちる。残った一匹は……。


「ガッ、ア、アアアアッ!?」

「お前には聞きたいことがある」

 俺はまだ武器を持ったまま、しかし俺の前で完全に戦意を喪失した一匹のゴブリンに向かって、語りかける。


「お前が来た方向を教えろ。そうすれば、カイ・ブルーダラクの名の下、お前の命を保証してやる」

 ゴブリンは尻もちをついた姿勢で、俺の言葉に息をのんだ。話せはしないが、言葉はちゃんと理解しているらしい。

「指さすか、来た方を向け。それだけでいい」

 俺の言葉に、ゴブリンはハアハアと息を荒くし……そして。

「グギャアアアアアアアッ!」


 自らの喉を、その手のナイフで掻き切った。

 そう、


「……今度もダメでしたかい?」

「ああ。訓練されているというより、恐らくこれはそういう呪い……『契約』だ」

 残念ながら、これも一度や二度ではない。

 初めは忠誠心で自ら口を閉じたのかと思えば、どうやらそうではないらしい。彼らは情報を『伝えられない』よう契約されているのだ。


「喋らずにジェスチャーならと思ったが、これも無理とは」

「完全に、こいつらは使い捨てですね」

 そう、これが俺達と魔王軍の小競り合いの現状だ。


 俺達は無数の白星を重ね、けれど奴らは何一つ尻尾を出さない。舞台の幕は上がっているはずなのに、俺達は暗闇の中で踊る。互いが見えずに……。


――


「先に踊り疲れるのはどちらか、ですか?」

「詩的な言い回しだな」

 城に帰ってきて、部屋で妹の淹れてくれた紅茶を飲みながら、俺は正面に座る妹を見る。


「でもそういう事でしょう? 奴らは私たちが疲弊するのを待っている。こちらが尻尾を掴んで攻め込むのが先か、奴らの時間という毒が回るのが先かの勝負」

 まあ、そういうことだ。


「おかげでこっちは二十四時間の監視体制と常備軍の設置を余儀なくされました。まあ、これから魔王軍と戦う上では好都合でしょうか」

「そういう言い方はするな」

 俺達の生活スタイルも変わった。具体的には交代で見張りを置いたり、戦いに備えて訓練する程度だが、あののびのびと暮らしていた日々が既にもう懐かしくなっている。


 勝利を重ねこそすれ、絶えずの戦闘と緊張は、心を疲労させるから。


「相変わらず兄さんは甘いですね。下々のものなど使い潰せばいいんですよ」

「マリエ……お前」

「あら怖い」

 俺の視線も何のその。マリエはふふふとほほ笑んで、自分のカップに口を付ける。

 形の良い唇が、赤い紅茶に濡れて艶を出す。


「俺はまだ、お前が目覚めた日の行動の理由わけを聞いていないのだが」

「あら? 兄さんも随分無粋な事を。女心が分からなくなりましたか?」

「はぐらかすな。お前は、俺に特別な感情など持っていなかっただろう」

 女心、などと言っても誤魔化されたりはしない。


 俺の妹は、俺に恋心など抱いてはいなかった。


 仲の悪い兄妹、という訳ではないが、かといって仲の良い兄妹ともいえなかっただろう。


 妹はかつての一件で心を病み、誰かと積極的に関わることを避けていた。

 笑顔の仮面をかぶり、心に壁を作って、誰に対しても警戒を置くようになる。俺とは公の場でこそ普通に接していたが、その言葉や態度には丁寧さはあっても俺を遠ざけるようなよそよそしさが隠れていた。


 今だって、俺との間に壁を一枚作って接しているような感じだ。

 それでもまあ、以前と違って本音に近い言葉が聞けている気はするが……。


「兄さんとえっちしたいんです」

「ぐぶっ!?」

「ちょ、ちょっと兄さん、大丈夫ですか?」

 いや、だ、だいじょばないぞ妹よ!


「お、前っ!……本当に何を言って」

「何を言ってって……別にいいじゃないですか。ここは異世界です。かつてのしがらみも何もないこの場所で、好きなように生きる。それの何が悪いんですか?」

 かつてのしがらみの無い世界……。


「い、いやっ! だからといってお前は、俺のことなど」

「女に性欲がないとでも思ったんですか? そんなもの兄さんなら血の味で分かるでしょう?」

 あ、うん、それはまあ、分かるが……。


「兄さんも自覚してください。そんな綺麗な顔して女にモテないとでもいうつもりですか?」

「……その言葉なら、そっくり返すぞ」

 お前こそ、小柄で整った容姿とその愛らしい笑みで、多くの吸血鬼を虜にしていただろうが。

 立場が立場だし、そもそも人を寄せ付けないような内面の棘こそあれど、それがまたなつかない猫みたいで一層男の欲をかきたてることを、俺はよく知っている。


「部下達の間でお前が『木陰の姫』なんて呼ばれてたのを知ってるんだからな」

「あら、そうなんですか? それはそれは」

 マリエは微笑みながら紅茶に再び口を付ける。この態度は知っててとぼけているな。


「なら、姫と君主でお似合いですね、私達」

「……何度も言うが、兄妹、なんだぞ、俺達は」

「それなら私も言いましたよ。私はブルーダラク家の血を残すために作られたホムンクルス。あなたの妹を模した偽物だと」

 カップを口から話すと、その妖艶な笑みの下、首から下がる血のフラスコがその存在を主張するように赤く輝く。


 作られた命……元となったマリエと同じ記憶を持つ、ホムンクルス。


「だから兄さんは、何の気兼ねもなく私の体を」

「はーいっ! カイさん、迎えに来ましたよー!」

 そんなマリエの声を遮って、バーンと開かれる俺の部屋の扉。現れたのは存分に尻尾を振り回すティキュラ。


 ああ、今日も威嚇モード全開だな。


「アンリ達が今日も鍛えて欲しいみたいです」

「……はあ、お邪魔虫」

「えへへー、何か言いましたか?」

 そう言ってシュルシュルと入ってくるティキュラに辛辣な言葉を投げるも、彼女はニコニコした笑みを絶やさず言葉を返す。この火花散らす光景もすっかりおなじみになったな。


「いい雰囲気を邪魔しないでと言ったんです。今兄さんが私の事を『姫』なんて言って口説こうとしてたんですよ」

 してません。

「それってあなたがカイさんの部下にそう呼ばれてたって話でしたよね? ねつ造しないでもらえます?」

 いや何でティキュラは話の内容知ってるんだよ。


「どっちでもいいじゃないですか。それより毎回毎回ムキになって邪魔するのは、自分に自信がないからですか?」

「なっ!? あなたに負けない自信はありますっ! 特に胸とか!」

「……喧嘩売ってます?」

 だいたいいつもこんな流れで二人とも笑顔の仮面をかなぐり捨てる。やれやれ、ここまでくるともう仲がいいんじゃないかとさえ思えるんだが。


「そこまでだ。アンリの所へ行こう」

「兄さん? どうしてこんな子供を抱けて妹は抱けないんですか?」

「妹は普通抱きませんっ!」

 あ、いや……一般常識的にはティキュラの外見もアウトなんだが。


「……胸ですか?」

「そ、そういうことじゃないぞマリエ」

「まあいいでしょう」

 一瞬ジトっとした目を向けたマリエははあと一つため息。そしてすっくと立ちあがると自然な所作で近づいて……。


「あっ!?」

「んっ」

 ティキュラに対するけん制、の、つもりなのか。


「行ってらっしゃい、兄さん」

 まるで当たり前のように……自然な動作で俺が抵抗する間もなく。

 唇を、奪っていった。


「あら、兄さんでもキスで照れたりするんですね」


 なんて、悪びれずに微笑んで。


――


「……」

 で、今ティキュラと一緒に階段を降りていっているわけだが。

「……」

 き、気まずい。


 ティキュラはさっきの不意打ちからすっかり黙りこくってしまった。真剣な顔つきで、ずっと下ばかり見ている。


 ああ、ティキュラに一発お見舞いするという意味ではかなり効いているようだぞ、マイシスター。


「ティキュラ」

「っ!? え、あ、は、はいっ!」

 俺の声にびくりと反応して立ち止まる。そのどこか取り繕ったような笑みが、ふと以前の、心に壁を作っていた妹の姿と重なる。


 はあ、全く。俺の方にも結構なダメージだな、これ。


「目をつぶれ」

「えっ、あ……」

 言うが早いか、俺も少女の唇を、さっとさらっていく。


「……ん」

 初め驚いていたティキュラも、その表情に今度こそいつもの笑みを取り戻して、それを俺へと向けてくれる。


「え、えへへへっ!」

 ぎゅっと抱き着いて巻き付いてくるティキュラ。幸せそうな、その心の底から安心したような顔を見て、その頭を撫でながら俺は思う。


 マリエにも、同じことをしてやるべきなのだろうか、と。


「あ、あの……カイさん」

「ん?」

「その、カイさんは妹さんの事、どう思ってるんですか? その……血のつながった妹さん、なんですよね」

 ティキュラは慎重に言葉を選ぶようにそう口にする。

 恐らくは外で話を聞いていたのだろうに。それでも妹を模した偽物、などとは言わない。そういう子だ。


「……そうだな。血の繋がりは半分しかないが、それでもマリエは俺の妹だ」

「え、はん、ぶん?」

「俺とマリエは、腹違いの兄妹だ」

 父親は同じだが、母親は違う。俺は歩みを再開しながら続ける。


「俺の母様は俺を生んですぐに死んでしまった。マリエは、父様と再婚したマキエ母様との子だ」

 周りからよく似ていると言われていたが、実際は俺達の間には父親が同じという所しか繋がりはないのだ。


「それでも兄妹な事には違いないがな」

「そ、そうだったんですか……」

 ティキュラは俺に歩みを合わせながら、ラミアの足でシュルシュルと器用に階段を降りていく。


「そ、それでその……前からあんな感じなんですか? そ、その、カイさんの子供が、欲しいって」

「いやそれは絶対にない」

 あんなこと、まさか妹から言われるなんて想像すらしていなかった。


「前はもっとどす黒い感じというか……顔は笑顔なんだが心の中では敵意むき出しみたいな、世の中全て敵だみたいな、そんな感じの少女だった」

「今と変わらないですね」

 い、いやちょっとティキュラさん?


「本当だ。小さい頃はお兄ちゃんお兄ちゃんと甘えん坊だったんだが、ある時を境に心に壁を作ってしまって。俺の前でも随分とよそよそしくなってしまった」

 父様達が生きていた頃は本当に可愛くて。大きくなったらお兄ちゃんと結婚するー、なんて言ったりしてだな。


「……何となくですけれど、カイさんのせいだと思います」

「えっ」

 その言葉に思わずティキュラを見る。な、何? 俺のせい?


「多分カイさんが格好いいのがいけないんだと思います。女のカンです」

 そ、そんな無茶苦茶な。

「とにかく気を付けないといけませんね。今の妹さんは危険なキス魔なんですから」

「キス魔……いや、まあ、そうかもしれんが」

「そこは流石にカイさんの妹さんですね」

 それ俺のことまで批判してない?


「……私になら、いいんですよ?」

 と、ここまではスムーズに進んでいたティキュラの歩みは、ちょっぴり蛇行するように不規則になって。


「どんどんさらってください。キス魔さん」

 いつもの湖畔のような瞳をこちらに向けて。ほんのりと、その頬を染めて。


「ああ、そうしよう」

 そうして城の入り口まできて、再び愛しい少女の唇をさらおうとして……。


「あっ! カイっ! やっと来たっ!」

「ん? クーナ、んぶっ!?」

「えええっ!?」

 バアンと開かれた玄関の扉から、まさに飛び掛かるように現れたクーナに……。


 あっさりと俺が唇をさらわれた。


「んー! どこ行ってたんだよ! 他の女の匂いがするぞ、ここ」

「ちょ、ちょっと待てクーナ!? んんっ!?」

 ベロベロと、キスというより舌で顔を思うさま舐め回される。その勢いたるや……愛犬に容赦なく舐め回されるのを想像して欲しい。


「あっ、リーダー!」

「あー! 顔舐めなめされてるー!」

「今日はぺろぺろしていいんだーっ!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待てお前らっ!? んんんんんんっ!?」

 あっという間に群がってきたワーウルフ達に、俺の顔は蹂躙される。い、いやこれ、その、ちょ、あっ、やめっ!


「んんんんんんんんんんんんんっー!?」

「だああああああああー! 何でカイさんはそうあっちこっちに好かれるんですかっ!」

 ワーウルフ達を引きはがそうと躍起になるティキュラの声を聞きながら、俺はなすすべなくワーウルフ達のおもちゃにされるのだった。



<現在の勢力状況>

部下:古ゴート族82名、レッサーオーク51名、ギガントオーク67名、ワーウルフ25名

従者:ベーオウ

同盟:大魔王と交渉中

従属:なし

備考:魔王軍との戦闘、継続中





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