第3話 ニワタリとカシマ
「なぁ」
「んん? どうしたんだいニワタリ君~」
「なんであんたがここにいるんだよ」
「あら、僕が来るのにはそれなりの理由があるってことを君はしってるはずだよ」
病院の待合室。天井に吊るされたテレビから流れるニュースを見ながら男二人、並んでソファに座り会話をしている。
「てっきり、いつもみたいな依頼だと思っちまったからよ。必要最低限の道具しかないんだが」
「いや、それで充分」
とカシマは言った。
「にしても、あんたはいつも通りの恰好だな、正直言ってめちゃくちゃ浮いてるぞ。周りの人がめちゃめちゃみてくるんだが」
ニワタリが言うのも仕方がない。カシマはいかにも胡散臭い恰好であった。隣に置いてあるギターケースも彼のものだ。売れないミュージシャン感が強い。
「いや、君の和服姿も相当目立っているよ。ほら、受付のおねーさん見てよ。滅茶苦茶こっち見てる」
2人して、廊下の先の受付の女性を体を倒して見る。そして体を元に戻す。
「いやいや、彼女はこの俺のダンディーな顔にくぎ付けなんだよ。和服の似合うダンディーなオーラを感じ取ってるんだよ」
「あの距離から? だとしたら、彼女の視力はかなりいいな。以前行った異世界に居た平均視力5.0の民族の話をしようか?彼女の出身がそこかもしれない」
「いや、そんな話聞きたくないね。仕事の話をしてくれよ」
「おっけー、じゃあ移動するか。ここにいるおじいさんたちにイベントの出演者だと勘違いされたら、一曲歌わないといけなくなるからな」
2人はソファから立ち上がった。
「なあ、カシマ」
「おうよ」
「薄々感じているんだが。クラウにかかわることか?」
「お察しの通りだよ。また夢に寄生して、よからぬ研究をしているみたいだよ」
「はぁ、あいつか」
2人はエレベーターに乗る。乗り込んだのは、たまたまこの2人だけだった
「奴も懲りないね、前回ぼこぼこにしてやったと思ってたんだが」
「以前、彼に執着された世界は他の異世界に吸収されたらしい。それぐらい、彼の研究は軍事的影響力も強い。彼自身はそう思っていないということは恐ろしい限りだ」
「俺は、地球以外の世界のことを知らないけどよ。はぁ、もっとかわいげのあるやつと知り合いになりたかったぜ」
チーン。エレベーターの扉が開き、目的の階へ。
「さて、クラウさんは今どこにいるんだ?」
「この先の緩和ケアを行う病棟の一室にある異空間のなかだよ。なんと不思議なことに、異空間を作り出した張本人は、現在も失踪しているみたいだよ」
「なるほど、獏ばくのやろうが関係している事件か。前回と同じ手口だな。最近滅多に見かけなくなってたが、まだあったとはな・・・・・・」
「そのとおりだよニワタリ君」
見回りをしている看護師にできるだけ見つからないようにし、患者が失踪した例の部屋へ。
「たまたま、人が入っていなくてよかったよ。さあニワタリ君、仕事の説明をもう一度するね」
「ああ」
ニワタリはずっと懐に突っ込んでいた右手を出す。銃を握ったまま。
「前日に渡した写真を参考に、君は大崎亮太君を探索、保護し、クラウチームから遠ざけてくれ。まあこれだけの大病院だ。時間がかかると思うが焦らず慎重に探してくれ。すでに3回ほどループを繰り返していると考えられるから、あまりにも派手に行動をするとばれる可能性があるから気を付けて。見つけたら電話なりメールなり、SNSなりで知らせてくれ」
「おい、お前、俺がガラケーなの知ってるだろ。SNSなんて使えねーからな。メールだメール。それで、あんたは?」
「相棒からもらった例の薬の効果を試してみようと思っているんだ」
「あぁ、変装するやつか」
「僕は、この地球上で一番の有名人だからね。クラウチームに顔を見られたら即ばれちゃうだろうから、君が亮太君を探している間を利用していい変装相手を探すよ。変装ができしだい君の手伝いをしながらクラウ達を探す。あと、知っていると思うけど、異世界の住人を堂々と殺せるのは僕だけだからね。無理はしないでおくれよ」
「ああ、それだけはよく知ってるよ」
ニワタリはそう返事をし、銃を病室の真ん中に置いてあるベットに向ける。
「ここだな」
ニワタリはトリガーを引く。銃には弾が込められていなかったが、バリバリと音を立てつつ時空の裂け目ができ、青い光がその隙間から放たれる。
「正直言って、奴がなにをしようとしているかはわからないから、もし作戦の変更とかがあったらLI〇Eで送るよ」
「いや、それならメールで送れよ。俺、LI〇Eできねーからな」
「ふーんふーん」
病室から抜け出し勝手に病院を歩き回る病人が一人、点滴スタンドを持ち歩いてはいるものの、その針は腕に刺さっていなかった。初老を迎えた60から70代ほどのおじいさん。顔色はよさそうで、青色の患者衣から除く腕や首は細いものの、肩幅は縮こまっておらず、頼りがいがありそうな印象を受けた。
「さーてここはなんじゃろなーい」
人気のいない廊下に入り込んでいき、4つの電子番号でロックされた部屋の前に立つ。
「さすがに3日もあれば、番号はひねりだせるわーい」
ぴっぴっぴっぴ ピー。 ロックか解除される。
老人はそのまま中へ。
部屋の奥にさらに扉があり、半開きになっていた。その扉の隙間から会話が聞こえてくる。
「なぁ、聞いたか?」
「なにが?」
「なんで研究を早めに取りやめて、出ていこうとしてる理由さ」
「具体的には知らないな」
「あいつだよ。地球の番人。カシマってやつが来てるんじゃないかってクラウさんが気づいたからだってさ」
「なんとなくだけど、クラウさんの勘違いじゃねえの?あの人心配性だからさ」
「確かにそうかもしれないけどよ。もしこんな化け物育ててるってばれたら絶体俺たちカシマに殺されちまうぜ」
『アハハハハハッ~』
男性二人の笑い声。老人はじりじりと近づいていくが。誤って点滴スタンドを倒してしまう。
ガシャーン!
その勢いで、半開きのドアを全開きにしてしまう。
「うおおおおっ!」
「誰だぁ!?」
「すっすまん。盗み聞きしとったわけではないのじゃあぁぁぁぁ」
老人は土下座のポーズ。
「なっなんだ。驚かせんなよじいさん」
「ここはスタッフ専用だぞ。入っちゃだめだろう」
「すまんかった。好奇心が勝ってしもうて・・・・・・うわぁ!」
老人はまるで閻魔を見たかのような悲鳴を上げた。理由は簡単、顔を起こした瞬間、檻の中に閉じ込められているあのネズミのような化け物が眠っているのを見てしまったからだ。
『あっやべ』
研究員の声がハモる。
「化け物じゃあぁぁぁぁ」
老人は倒れていた点滴スタンドを掴み、全力ダッシュで部屋を出ようとした。
「待ってくれじいさん!違うんだこれはペットだよ。最近の犬はこんなんなんだよ!」
研究員Aは引き留めようと先行してじいさんを追いかける。
しかし、全力ダッシュで逃げていたはずの老人は、逆走し研究員Aに強烈なドロップキックをくらわす。
ドゴッ!!
「うっぐっ!」
研究員Aは吹き飛ばされ、ドアの横の壁にたたきつけられた。壁に掛かっていた絵などが落ちる。研究員Aは当たり所が悪かったらしく、動けない。
「だっ大丈夫か?」
研究員Aの声と物音を聴き、研究員Bはドアを勢いよく通過した。その瞬間、ドア横で待機していた老人が点滴のカテーテルを研究員Bの首に巻き付ける。
「うっ!」
そのまま、老人は研究員Bの背後に周り、研究員Bの首を絞め続ける。
「あっあんた・・・・・・何もんだぁ・・・・・・」
研究員Bは薄れていく意識の中でかすれた声で聴く。
「どうも、わしがカシマじゃよ」
研究員Bは意識を失った。
「さてと」
トイレの天井裏に隠しておいたギターケースを一旦回収しに戻り、再び化け物がいる部屋へ。
すでに、変身は解いており、いつもの胡散臭い恰好。決してう〇こ臭い恰好ではない。
檻の中にいる化け物は眠らされているらしく、グーグーと大きないびきを立てている。
「できる限り、痛くないようにしてやりますか」
カシマはギターケースをガバッと開いた。中にあるのは古びたギターなどではなく、白く輝く太刀が一振り。カシマは、ゆっくりとその刀をケースから取り出し、化け物の顔へ近づける。
「おまえは、本来この夢の中にいてはいけないものだ。そう思うよな?
そう言い、勢いよくネズミの首元を刺し、一気に首を斬る。
「ギュッ!オオオオオォォォ・・・・・・」
この
「ふう、これで一安心だな、あとはクラウだな・・・・・・」
カシマはニワタリに連絡しようとし、スマホを取り出すが、あることに気づく。
ネズミの化け物のおなかが膨らんでいたのだ。
「まさか・・・・・・」
カシマは刀を使い、おなかを切り開く。思った通りだ。
「子どもか・・・。なるほど、繁殖機能もあるのか・・・・・・」
実際に、今回は6回目だと推測でき、このネズミはサンプルとして持ち帰るつもりだったのだろう。
これが意味すること・・・・・・それは。
その時、スピーカーから奴の声が。
「あぁ、どうも。私のいるところにやってくるのはカシマさん、ニワタリさんであろうと推測してお話します。現段階で、獏との契約者である亮太君を確保しています。これから、彼と交渉して本来の夢に戻してあげようと考えています。それに乗じて私たちもここから去ります。はっきりいいますと、あなた方と争いたくはありませんからね」
スピーカーから聞こえるクラウの声に集中していたとき、部屋のそとから悲鳴が聞こえる。
「キャー!化け物!」
カシマの予測が現実になる。
「私たちはここから去ります。ですがせっかくの機会です。カシマさん、ニワタリさんが私の研究によって作られた彼らに対し、どれほど抵抗できるかを試してみたいと思います」
世にも恐ろしい生物の鳴き声が聞こえ始める。一体だけではない。
「彼らはネズミをベースに改良したモンスターです。成長スピードと繁殖力はすさまじく、少ない期間で何十体にも増加してくれました。ちなみに、私自身がやりたいと思ったことではなく、上からの指示があって始めたことでした。ですので、万人にとってすばらしいもの、面白いものであっても自身にとってすれば価値がない、つまらないもであるという意味がある日本語を引用して、
ブツッ、放送が切れる。
「なんてこった・・・・・・」
カシマは、ニワタリに電話。
「カシマ!すまない。亮太君が捕まっちまった!今追いかけてる、説教はあとにしてくれ!」
そしてババババババババという銃声
「知ってます・・・。クラウが放送して伝えてくれました・・・・・・とりあえず、ニワタリ君はそのまま亮太君を迎えにいってください。こっちは少し時間がかかりそうです。終わったらまた連絡します。sky〇eで連絡しますね」
「だぁぁかぁらぁ! メーr」
ブツッ、電話を切る。
さて、こっちはこっちの仕事ですね・・・・・・。
病院内に響き渡る悲鳴と化け物の鳴き声が反響している。
夢の出来事ではあり、現実に起きていることではない。しかし、悲惨な光景であることには変わりはない。
「ギュイイイイイ!」「嫌ぁ!助けて!」
グシャァ。
恐らく、彼女がこのフロアの最後の人間。このフロアにいる約40体もの
カン!カン!
「みなさーん。ごはんのお時間でーす」
カシマの声がフロアに反響し、40体の
そして、鳴き声を上げながらカシマのほうへ一斉に駆け寄ってくる!
「うわぁ、こう見ると怖いなぁ。でも・・・・・・」
ズバッ!ズバッ!飛び込んできた
「一度、ゾンビ映画みたいなことしたかったんだ。ミュージックスタート!」
カシマは
敵に囲まれそうになった時、
カシマは、壁と化け物の首に刺さった刀を壁に右足をつけ、踏ん張りながらひっこ抜き、そのひっこ抜く勢いで背後から近づく化け物を同時に4体斬る。飛び込んでくる化け物に対しては、後ずさりながらタイミングよく刀を振り首を斬る。そうこうしているうちに、
「うへぃ、キッツいなー」
ちなみに、ミュージックはカシマの頭に流れているだけ、実際には流れていない。
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