代償

D-JACKS

第1話

一人の少年がいました。その少年に両親はいません。両親は王国に殺されてしまったのです。なぜ少年の両親は殺されたのでしょう。それは、国王の圧政によるものです。その国では収入の半分の納税、長時間の労働などがルールとして決まっており、市民は満足な生活を送ることができませんでした。そして、それらのルールを守れない者、逆らおうとする者たちはみな、何の躊躇いもなく殺されてしまいます。少年の両親もルールを守れずに殺されてしまいした。両親を国に殺された少年は、国を憎んでいます。

 国を恨む少年に対し、国はなぜそこまで残虐な行動を市民にとるのでしょうか。それは王家の人間が裕福な暮らしをするためと、軍事力を上げるためです。長年いろんな国々と戦争を続けた国は、とても厳しい状況でした。戦争には勝ち続けていた国でしたが、それに見合う分だけの損害を受けており、とても戦争に勝った国の状況ではありませんでした。そんな状況が続いた国は、軍事力を上げ、できるだけ戦争での死者を減らす努力を進めることになりました。そのために必要なお金を市民に払わせているのです。そして、残りのお金で王家の人間は裕福な暮らしをしていました。王家の人間たちは「国の強化の為に尽力した褒美」と自分たちに言い訳をして、毎晩お酒や肉を食べていました。それに対して市民は長時間の労働、厳しい納税により、限界が来ていました。これでは国の軍事力が上がっても、守る市民がいなくなってしまいます。そんな状況を知っている少年は国を変えることを考えます。ですが、ただの子供にはどうすることもできずに、ただ国への恨みが膨らむばかりでした。

 そんなある日、少年が町を歩いていると、厳しすぎる税に耐えかねた市民たちが、王国兵に訴えていました。

「こんなに税金を払っていたら私たちは生活ができません。税金を減らしてください。お願いします!」

全市民を代弁するかのような願いだった。しかし王国兵はこう言いました。

「誰のおかげでお前たちのようなゴミが生活できていると思っているんだ。すべては国王様がこの国を維持しているから生きていられるんだ!そんなこともわからない人間など、この国で生きている価値などない!」

そう言い放った王国兵は剣を抜き、市民を殺してしまいました。街中で悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえてきました。それを見た少年は激しい怒りの中、こんなことを思いました。

「こんな国があっていいはずがない。すべての人が幸せに生きていける世の中でなければならない!こんな王国のやつらなんてすべて殺して俺が国を変えてやるんだ!!」

そんなたいそうな理想を掲げる少年には何もすることはできません。理想を掲げることしかできないからです。しかし、感情のまま出ていけば、さっきの市民と同じく殺されてしまいます。ですが少年はもう限界でした。こんな国の状況が続いていることに。

 そんな時、ふと地面を見ると、そこにはきれいな赤い宝石が付いた指輪がありました。少年はそれをとても不思議に思いました。この街に指輪や宝石を買えるほどの裕福な人間などいないからです。指輪をつけたこともない少年にとって、それはとても魅力的に見えました。少年は興味本位で指輪をつけてみることにしました。その瞬間、魔訶不思議な事が起こりました。少年の周りに炎が出現し、炎の中から何かが出てきました。出てきたのは人に似た、でも人でない生き物でした。全身からは炎が出ており、体中が真っ赤の大男のような生き物が出てきたのです。その生き物はどうやら少年以外には見えないようでした。なぜなら街にいる誰もが少年のほうに関心を示さないのです。全身炎まみれの生き物が突然現れたら、さすがに少年のほうを見るはずです。しかし、誰も少年を見る素振りはありません。少年にはなにが起こっているのか理解ができませんでした。少年は「自分は幻でも見ているのだろうか」と思いました。そんな時、炎まみれの生き物は少年に話しかけました。

「私を召喚したのはそなたか。」

その生き物は、今起きていることが当たり前のことのような口調で話します。

「私は火の精霊、そなたの願い、私の炎で解決しよう。」

火の精霊と言ったその生き物は少年の願いを叶えると言いました。少年は問いかけました。

「どんな願いもお前は叶えてくれるのか?」

火の精霊は言います。

「左様、しかし私の炎でできることだけだがね。さあ、そなたの願いは何だい?」

精霊は不気味な笑みを浮かべて少年に問いかけました。少年はその笑みを見て、背筋が凍りつきそうになりましたが、自分の願いを話しました。

「俺は王国の人間たちすべてを殺したい!!そしてこの国を変え、市民が国に怯えることなく幸せな生活を送れる国を作りたい!!」

少年は自分の願いを精霊に言いました。すると精霊は

「そうか、ならば私の炎で城を燃やし、王家の人間、国王兵を全て燃やし尽くしてあげよう。そうすればそなたらを虐げる者どもはすべて消えるだろう。それでいいかい?」

精霊は案を提示してきました。国を憎んでいる少年は快諾しました。それを見た精霊は言いました。

「決まりだね。じゃあ今夜やろうか。夜は炎が綺麗に見えるからね。素敵な景色と声が聴けるはずだよ。」

そういって精霊はまたも不気味な笑みをしました。ですが少年は気にしません。ついに国を変えることができるのだからそんな事は少年にとってはどうでもいいことです。

少年は問いかけました。

「俺は何をやればいいんだ?」

精霊は言いました。

「簡単さ。指輪をつけて自分の思いを念じればいいんだよ。それだけさ。簡単だろ?ではまた夜に会おう。」

そういって精霊は消えてしまいました。消えた後の街ではまだ、市民の泣き叫ぶ声が響いていました。

 夜になり、少年は城を全貌できる丘の上にいました。そこで少年は精霊の言われたとおりに念じました。これまで国がやってきたことへの恨み、両親の復讐、国を変えたい気持ちを全て指輪にぶつけるように念じました。すると再び精霊は現れました。

「そなたの思い、すべて理解した。願い叶えよう。」

そう言った瞬間、城に火が付き、城が燃えていきました。そして外にいた王国兵や王家の人間にも突然火が付き、燃えていきました。それを見た少年は、驚きました。あの精霊の言っていたことが本当に起こったからです。街は混沌と化していました。燃える王国兵の断末魔、それを見た市民たちの叫び声、何が起こったかもわからずに、ただただ泣きじゃくる子供たち。それは少年の見てきた光景の中で最も残酷な景色でした。少年の感情は驚きから恐怖へと変わっていきました。

「俺はなんてことを望んでしまったんだ。」

思わず出てきた少年の言葉でした。ですが横にいた精霊は言いました。

「大丈夫さ。燃えているのはすべて王国の関係者だけだよ。君の大切は市民は誰一人として死んでいないよ。これも国を変えるためだよ。」

精霊はとても嬉しそうでした。少年には理解ができませんでした。精霊は何を見てそんなに喜んでいるのかが。

「さあ。もうすぐすべてが終わるよ。そしたら君が国を立て直すんだ。いいね??」

そういって精霊は消えていきました。


それ以降精霊が現れることはありませんでした。

 

 城が燃え尽き、王国の人間がすべて灰になった後、少年は革命を起こした英雄として新しい国の国王になりました。はじめは少年に疑問を持つ市民も多かったですが、少年のやり方を知っていくうちに市民は少年を信じるようになりました。そして、新しい国が安定してきた時に、精霊が現れました。

「久しぶりだな少年よ。元気だったかい?」

少年は精霊との再会に心が躍りました。あの夜以降、まったく姿を現さなかったからです。

「久しぶりじゃないか!元気だったさ!見てくれよ!私は新たな国王になったんだ!市民はみんな幸せに暮らしている。すべて君のおかげさ!」

成長した少年の口調は少し大人びていました。しかし、少年は自分の功績を褒めてほしいかのように精霊に話しました。そこで精霊はこう言いました。

「そうかそうか。そなたの願いが叶って私は何よりだよ。でもね、今日はそんな事を話しに来たわけではないのだよ」

精霊は少年の思いを突き放すように言いました。

「今日はね、代償を払ってもらいために来たんだよ。」

精霊は初めて会った時のような不気味な笑みを浮かべてきました。

「そなたは私の力を使って願いを叶えた。次は私の番だとは思わないかい?」

精霊の顔はどんどんと醜くなり、少年は鳥肌が立ちました。

「私は何をすればいい?」

怯えながらも少年は答えました。そして精霊は言いました。

「そなたの命だよ。私は城と大勢の人間を燃やし尽くした。それに見合った代償を払ってもらわなければならないんだよ!!さあ、そなたの命を味わわせておくれよ!」

すると少年はたちまち灰となって消えてしまった。


「これだから人間は大好きなんだ。絶望に満ちたあの顔を見るのは最高さ。なんで無償で願いを叶えてくれると思った?そんなわけないだろう。さあ、次は誰の願いを叶えてあげようかなあ!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

代償 D-JACKS @D-JACKS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ