足跡

 午後9時。私は残業から解放されて、やっと自宅のアパートに帰ってきた。

 今日は一段と蒸し暑い。ネクタイを解きながらアパートの階段を登る。

 登りきって、ふと足元を見る。

 そこには足跡がついていた。昼間雨が降ったから、その時に誰かが帰ってきたんだろうと思った。水分でできた足跡は、スニーカーのように見える。

 私は自室の、一番奥の部屋へと向かう。

 足跡も、私の部屋の前まで続いていた。


 私は鍵を鍵穴に差し込みながら、首を捻る。私に用があったのだろうか? セールスマンかな?


 がちゃり、と鍵穴が回る。


 足跡は扉の前で気をつけをしたまま、途絶えている。

 錆び付いた音がしてドアが開くと、いつもの、真っ暗な自分の部屋。

 

「開けてくれてありがとう」

 

 突然、耳元で声がした。

 そして私は気づいた。


 そうか、ずっとそこで待ってたんだ。

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