街雨

 時々、街が降ってくることがある。

 ビルや車や人が、空から雨のように降ってくる。それは次元を隔て、崩壊した世界のもので、この世界にはないものだ。

 今も、私の目の前で街が降ってきている。雲を引き裂いて、巨大なビルが捻じ切れたように落ちてくる。根元は向こうの世界に置いてきたのだろう。鉄骨や割れたガラスの破片も米粒みたいな大きさで、一緒に降ってくる。

 ビルは海に衝突すると、大きな水しぶきをあげた。轟音は数秒遅れて届いた。海全体が揺れているようだ。潮の匂いが強くなって、私は慌てて海岸から離れようとしたけれど、間に合わなかった。

 私は海に呑まれた。

 

 気づけば、空にいた。

 遥か下に街があった。

 空の色は青ではなくて、白かった。海は赤色だった。

 そこは、隣の世界だった。


 どうやら、私の世界も崩壊したらしかった。

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