知らないフリ

 僕は物心ついた頃から、怖いものが見えた。奴らに気づかれてはいけないと、何も見えないフリをずっと続けている。


 先生が黒板にチョークを走らせている。数学の授業だが、書かれているのは文字だらけ。どうも、授業の内容と板書が噛み合っていない気がした。板書された字を順番に目で追ってみる。


『やつらは字が読めないため、このまま筆記で授業をする。変幻(妖怪、幽霊、怪物の類)が見えているのは、君たちだけではない。全人類が見えている。皆、知らないフリをしているだけだ。

 君たちもそうしてきたはず。でなければ、この場にはいなかっただろう。

 これからも、知らないフリを続けなさい。気づかれてはいけない。

 そして、決して、言葉にしてはいけない。

 奴らは字が読めないが、言葉は理解するからだ。

 常に、聞かれていると思いなさい』


 チャイムが鳴った。

 僕を含め、誰も顔色一つ変えなかった。

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