第6話城塞都市レヴェン
転移門には、私の移送とは別の宮廷魔導師が先行していた。
恐らく、私がここに到着次第、直ぐに転移作業に移れるよう調整していたのだろう。
移送に同行していた宮廷魔導師と共に四隅に二人づつ、四方から術陣に魔力を流し込んでいくと、地面に彫られ色の付けられた術陣が眩い光を放ち出す。
「準備が整いました。術陣の上にどうぞ……」
魔導師の一人が術陣へ登るよう促す。
レイン・私・グレンドール・移送責任者のルーペンスと騎士団員数名の順で術陣に登り、視界が見えなく成るほど光が放たれると、そこは城塞都市レヴェンの転移門だった。
「……何か……あっという間ね」
回転するような、体の中が捻られたような奇妙な感覚が残りつつも、無事に目的地に辿り着いたことに安堵する。
「……まぁ、転移ですからね」
レインも感慨のない感想を漏らす。
「二人とも、体に異常は有りませんか?」
移送責任者のルーペンスが訊ねてきた。
「多少の違和感は残りますが、概ね問題は有りません」
転移門からは再び馬車で外門を目指す。山間の外門を抜ければ国外になる。
「必要な物は御座いますか?今ならまだ多少は、用立てることも可能ですが……」
ルーペンスがそう訊ねてきたが、私は本格的な徒歩の旅など初めての事で何が必要かは、解らない。
レインやグレンドールに必要そうな物を頼んでもらった。
注文をした品物の中には準備に手間取る物かあったらしく、外門を抜ける頃には日が傾いてしまった為、出立は明日の早朝と言うことになった。
今夜は、外門の駐屯地に宿泊することになり、食堂で夕飯を摂っていた。
レインは、所用があって後から遅れて来る。
「グレンドール…呼び方はグレンで良いかしら?」
「……ええ、構いませんよ」
おもむろに私が訊ねると、グレンドール…グレンは快諾してくれた。
「私の事は、アディーと呼んで頂戴。それから私は、国外追放の身だから、身分なんてもう関係無いのだから敬語も要らないわよ?」
「……承知しました」
「だから、敬語は要らないって!」
「……急には変えられませんよ?でも、善処…し、……する…よ?」
「…ふふっ。まぁ、頑張って頂戴ね?…………ところでグレン、貴方は貴族の出だっだりする?」
急な話の方向転換に着いていけないのだろう。
「……?まぁ、そうですね。伯爵家の次男ですが、それがなにか?」
「所作が丁寧だからちょっと気になっただけよ。伯爵家……て事は、領地持ちよね?どの辺りなの?」
何気ない話をしているフリで相手の内情を探る……貴族の駆け引きとは、実は頭脳戦でもある。自分が何を知りたいのかを相手には悟らせず、欲しい情報を相手から掠めとる。
「……王都の北東部ですが……それが?」
国外追放される身の人間が、聞く無いようでも無かったかもしれない。物凄く不穏な目で見られている自覚は合ったけど、これだけは確認しなくては気がすまなかった。
「貴方、任務とはいえ……私と共に国外なんで出てよかったの?」
真っ直ぐ彼の瞳を覗く。『神眼』の開かれた視線を向ければきっと、彼には心の中―過去の出来事まで視られている感覚を覚えるだろう。
――実際、見られるのだけど…今は見ていない。
「……!!?何を…いや、これも……任務ですから」
何かを隠している。瞳に僅かな動揺も見え、視線を逸らされた。やっぱり国外に出て人目につかないところでスパンかしら?……う~怖!!きっと王太子の差し金ね。
「…………そう」
その後は、一言も発することなく食事を済ませ、充てがわれた部屋に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋へ戻ったグレンは、肺に詰まっていた物を吐き出すように息を吐いた。
後ろ手に閉ざしたドアを背もたれに、先程の公爵令嬢アデレードから向けられた視線を思い起こす。
背筋がゾッと凍り付く感覚だった。真っ直ぐとした視線を向けられたとき、心の内側を全て視られている、全て識られている、そんな感覚だった。
隠し事の出来ない相手……強制的に視られてしまう、決して敵にしては成らない、仇なしてはいけない……絶対的な存在だ。
頭の中で警鐘が鳴り響く様だった。
「……何なんだ……あの女は……」
あまりにも恐ろしすぎて、王太子からの勅令を実効出来そうにない。
『アデレード・ルシア・ファルファーレンを国外にて、密かに処断せよ』
出立の二日前、王太子の執務室に密かに呼び出された俺は、そこで王太子から直々に
勅令を受けた。
その場には、王太子の取り巻きと件の令嬢が居た。
『……クスクス。国外追放だけでは、安心できませんもの。父君の…公爵家の力を持ってすれば、直ぐ様戻って来るに決まっているわ。……でも、帰ってこれる体が無かったら流石に無理よね?』
この女は、そんな事を 愉しそうに、謡うように話す。
恐ろしい言葉を平気で吐く、天使のように愛らしい悪魔のような女―。
『二日よ、二日で片を付けなさい!そうでなくては、あの女は戻って来てしまう。恐いのよ、次は何をされるか解らないもの……』
弱々しく話すその姿は、本当に何かに怯えているようで、男として『騎士』として何とかしなくてはと、思ってしまいそうになる。
直前の真逆の言葉と声音、余りの違い…なのに、ここに居る男達は、その不自然さに気付きもしないのか?
そんな疑念を抱きながら、グレンはその部屋に居た。
『あぁ、リアーナ可哀想に、あの女を思い出してこんなにも震えて……。そう言うことだから、確実に仕留めろよ?』
大切な女を抱擁して甘く囁き、冷酷な声で王太子は命を下す――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋に入ろうとしてレインに呼び止められる。
「……なぁ、ちょっと良いか?」
さっき、私とグレンと食事をしながら会話をしていた時、丁度ルーペンスに呼ばれてレインは席を外していた。
戻ってきたときの食卓の雰囲気が凍てついたものに変わっていたことに不審を抱いたのだろうか?
「何かしら?」
雰囲気的な問題を何と切り出すべきか悩んでいるようだった。
「……う~ん、何て言えばいいのか…。さっきの、グレンとの間に何かあったか?」
「……さぁ?私には解らないけれど?」
私は何も解らないと、とぼけて答える。
「そうか?なら、良いんだけど、仲良くしろとは言わないけど、一緒に行くことになるんだから上手くやれよ」
「ウフフフ……大丈夫よ。『貧乏籤さん』には、ちゃんとフォローはしてあげるから」
「……???そうか??」
何の話か全く読めていないレインは間抜けに返事をしていた。
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