貰いたいのは君からだけ

@山氏

チョコをください

「御門くん。これ、受けとってください!」

 目の前の女の子は恥ずかしそうに俺の目を見ながら、可愛らしいリボンの装飾のついた箱を俺に差し出した。

「ん、ありがとね」

 俺は笑ってその箱を受け取る。女の子は嬉しそうに笑うと、俺の前から走って去ってしまった。

 今日はバレンタイン。俺は今日、何個も女の子からチョコだったりクッキーだったりをもらっていた。中には、告白と一緒にチョコをくれた子もいる。

 自分で言うのもなんだが、俺はモテる。カバンの中にはチョコが大量に入っていて、これ以上入らないくらいだ。今となっては閉めることもできずにチョコの包みがはみ出している。

「今年もいっぱい貰ったみたいね」

 俺が昇降口で靴を履き替えていると、後ろから声がかかる。振り向くと、長髪の女の子が呆れた顔で俺のことを見ていた。

「美里か。羨ましいだろ」

「別に。私、甘いもの苦手だし」

 興味なさそうに美里は言うと、靴を履き替えた。

「なあ、美里はチョコくれないのか?」

「なんであんたに渡さなきゃいけないのよ」

「そうだけどさぁ……」

 俺は今まで、美里からチョコを貰ったことは一度もなかった。

「それに、そんだけ貰ってるんだから私から貰わなくてもいいじゃないの」

 それは美里の言う通りなんだが……。

「俺は美里からのチョコが欲しいんだよ……」

「バカなこと言ってないで帰るわよ」

 ため息交じりに美里は呟いて歩き出す。俺も美里を追うように歩き出した。

「あんた、そんなにモテるんだから、彼女くらい作ったら? 私が付き合ってるって思われてるみたいで女子に絡まれるんだけど」

「いいじゃん、俺、美里のこと好きだし」

「はぁ……」

「なんでため息吐くんだよ! ずっと言ってんだろ?」

「軽いのよね、告白が。なんであんたがモテてるのか意味わかんない」

「てか、お前に絡んでくる女子って誰だよ。なんなら俺から言っとくけど」

「別にいいわよ。気にしてないし」

「嫌じゃないのか?」

「嫌に決まってるでしょ」

「そうだよなぁ……」

 俺はため息を吐いた。美里が嫌な目に遭っているなら、これからは一緒に帰らない方がいいのだろうか。

「チョコ、落ちたわよ」

 言われて美里の方を見ると、美里は持っていたチョコの包みを俺のカバンの中に突っ込んだ。

「ありがと」

 美里からチョコを貰ったみたいで少しだけ嬉しくなる。

「ちゃんとお返ししてあげなさいよ?」

「もちろん。毎年全員にお返ししてるよ」

「ふーん?」

 美里は訝し気に俺の顔を見たかと思うと、前に向き直った。

「なんだよその顔……」

「まあお返ししてるならいいけど。じゃあね」

 気が付けば美里との別れ道に到着していた。俺は手を振ったが、美里はそのまま歩いて行ってしまった。

「……あれ?」

 カバンの中に、見慣れない包みが入っていた。

「こんなの貰ったっけな……」

 他の包みの貰った相手はちゃんと覚えているのだが、一つだけ貰った覚えがない。

 毎年、お返しはちゃんとしているのだが、相手がわからなければ返すこともできない。俺は悩んだ末、食べることにした。

「この味……なんか懐かしい感じだ」

 そういえば、毎年カバンの中に見慣れないチョコが入っていた。毎年、帰って確認すると、一つだけ貰った覚えのないチョコが入っている。

「お返し、したいのにな……」

 俺は呟いて、見慣れないチョコを食べた。

 

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