アニマメア・クレーモァー成り上がり剣士冒険記ー

@Lyuh

第1話 「弱いから悪いんだ」

「化け物め….」


革鎧を着た男が目の前の光景に釘付けになりながら、半ば放心状態のまま呟く。

その男の真後ろにいる他の者たちも同じ状況で、誰もが時が止まったかのように体を動かさない、


嫌、正確には動かせないでいた。


ここは「戦場」だ。


戦場とは万と武装する男たちが罵声や叫び声を上げながら剣と剣をぶつけ合い、片方が死ぬまで殺し合う、人間の欲望がこれでもかと詰まったような醜い場所だ。


だが、革鎧の男はとても「戦場」にあってはならない光景を目のあたりにしていた。

その光景を一言で表すなら、誰でも同じこと言うであろう。


「地獄」


男達の目に映ったのは紅に染まった死骸の山。

そして、その山の頂上には美しい銀色の鞘を肩に担いだ男。

信じられないことに、その山の中には母国が誇る精鋭騎士団や飛竜特殊部隊の紋章が至る所にある。

誰がこんな大軍を葬ったのかは一目瞭然だった。


それだけで、男達は悟った。

その武力で大陸に名を轟かせた自分たちの味方が束になって相手になろうと、山の頂上に君臨するあの「死神」に傷一つ負わすことができずに全滅させられたのだと。


そして、そんな非常識なことをやり遂げた男は戦場中にもかかわらず、呑気に寝ているのか分からないが、目を瞑ったまま動かない。

誰もがそんな今が「死神」を仕留める絶好な機会だと思った。

だが、残念なことにそんな命を投げ出すような勇気を用いる勇者はこの中にはいなかった。

男達は唯、隣国を侵略し、好き勝手に略奪をしたい下っ端の兵士達であり少心者である。

そんな者たちが自分達より強い敵を相手に勇気を持ち合わせているわけがない。

それに男たちの中にはあの日残な光景を見た途端、逃げだそうとしたものもいた。

しかし、「死神」から常時放たれている威圧と存在感が男たちを神縛りにかけたのかのように地面に縛り付けている為、逃走は不可能に近かった。


誰もが思った。


―何故、こうなった?

男たちはさっきまで数の暴力で敵を蹴散らしながら隣国の王都まで向かっていたのだ。

だが、そんな中、自軍の首脳陣が攻撃されていると報告があった為、急いで向かってみればこの光景である。

―こんなのは戦争や戦いなんてものじゃない。唯の


一方的な抹殺だ


男の背中から冷たい汗がゆっくりと流れ落ちる。

略奪を目的で参加した戦争どころではない、どうにかこの状況から脱出する為に懸命に体を動かそうとするが、体中に錘が乗っかったかのようにビクとも動かない。

剣を持つ手は時間が経つごとに目に見えるほど震えが増していき、男達の中には失神してしまった者たちも出てきた。


もう、そこには絶望しかなかった。


「もう、そろそろだな」


そんな中、山の頂上で血で染まった紅の「死神」が立ち上がる。

そして、男達はさらなる絶望を予感する.......


次は自分達だと、


「<ボルテックス>」


そして、血だらけの柄に手を掛けた死神の姿がぶれたと思った瞬間、


シュバッ!

そんな音と共に死神は男達の目の前に唐突に現れ、次の瞬間、革鎧の男は首に激しい衝撃を受ける。


「ぐほっ!」


気が付いた時には、男は空を飛んでいた。

そして一回転した後、視線が捕らえたのは首から下の自分の体と首なしの仲間たちの死体。

―あまりにも理不尽だ、卑怯だ、個人がこんな力を持っていてはいけない!


「弱いから悪いんだ」


それが頭だけとなった男が闇の奥深くまで沈んでいく直前に聞こえた最後の言葉だった。

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