第24話 天網恢恢
「くっ……うううううっ!」
頭上からのしかかってくる
グリフィンの野郎はそんな俺を
徐々に大きくなり始めているというあの
グリフィンが身を
「くそっ……そんなことをさせるかよ」
俺の頭上は完全に宝玉によって視界を埋め尽くされ、まるで天井が極端に低いフロアに閉じ込められているかのようだ。
『気分はどうだ? 世の中には罪人に苦痛を与えながらこうして体を押しつぶし処刑する部屋が存在するらしいぞ』
いつの間にか
だが、そんなムカつくグリフィンに、悪態のひとつでもかましてやる余裕が今の俺にはない。
すでに宝玉は俺の手だけでは抑えきれなくなっていて、俺はもはやそれを肩に担ぐようにして自分の体をつっかえ棒のように使うしか出来なくなっていた。
情けねえ。
こんな風にしか抵抗できねえのか俺は。
ものの数分で時間切れとなってしまうだろう。
俺のすぐ真下では物言わぬティナが横たわっている。
何も知らずにノンキな小娘だぜ。
のしかかる
そして自分の肩と背中だけで宝玉の落下を押しとどめる。
「ぐっ……」
『ハッハッハ。いいザマだな。バレット。
く……くそったれが。
マジで頭にくるが、もう何も出来やしねえ。
背中がミシミシと音を立て、羽が押し潰されていく。
せ、背骨が砕ける……。
俺は目の前のティナを見た。
ティナは何も知らずに穏やかな顔で横たわっている。
フンッ。
最後にブザマに負ける馬鹿な悪魔の顔でも拝んで笑えば良かったのによ。
まあ……何も知らずに死んだほうがコイツも楽か。
あ~あ。
ちくしょう。
これで終わりか。
シケた人生だったぜ。
視界が真っ暗になっていき、ついに俺は背中から
……はずだった。
「……レットさん……バレットさん」
……人生最後の幻聴か。
脳のプログラムが誤作動を起こしていやがるんだろうよ。
「……バレットさん」
その声と共に何かが俺の
その感触が俺の意識を
目を開けた俺は思わず息を飲んだ。
ティナの奴が……意識もライフもバグで失っていたはずのティナの手が俺の
「……ティナ」
俺が思わず
ティナの目は開かれていたが、意思の光は
だが……俺は見た。
傷つき
元々ティナが俺のレッグ・カバーとして用意したその赤い布はティナの翼と一体化していく。
すると
そしてもう一つの
「ど、どうなってやがる?」
その
思わず俺が背後を振り返ると、燃え盛るティナの両翼は大きく伸びて
奇妙な現象に目を
「バレットさん……」
俺が再びティナを振り返ると、先ほどまで白く生気の無かったティナの
そしてバグで文字化けしていたティナのライフゲージは、いつの間にか正常な状態を取り戻していた。
こ、これは……。
「ティナ……おいティナ」
相変わらず俺の呼びかけには反応しないが、ティナのライフゲージの下に別のゲージが新たに出現しているのを俺は見た。
それは【HARMONY gauge】と表示された桃色のゲージだった。
HARMONY。
俺がレッグ・カバーを通してティナと接続し、
ティナのこのゲージは俺のバーンナップ・ゲージ同様に能力ブーストのためのものに違いない。
そう確信する俺の前でそのハーモニー・ゲージはすでに満タンを迎えて光り
【
ティナのコマンド・ウインドウにそう表示された
その事実に
「バレットさん……」
今度は確かに聞いた。
何だか久しぶりにコイツの声を聞いたような気がするぜ。
「ティナ。ようやくお目覚めかよ」
「……バレットさん」
そう言う俺の言葉にティナはしっかりとした反応を見せて静かに
その目には確かな意思の光が宿っていた。
「私、
ティナの体は元の天使のそれに戻っていたが、翼の色や大きさ以外にも大きく変わった部分がある。
「おまえ……その輪は何だ?」
そう。
見習い天使としてくすんだ色の輪をひとつ頭上に浮かべていただけのティナは今、
それはこの世界でただ1人、天使長イザベラにだけ許された仕様のはずだ。
「自分でも分かりません。恐れ多いことです。だけど……おそらく天使長さまがこの
そう言うとティナはグッと力を込めてさらに翼を上へと押し上げる。
すると翼はどんどん伸びて、
おかげで圧力から解放された俺はようやく立ち上がることが出来た。
ただし背中側のそこかしこの骨が損傷しているようで、少しでも動くと激痛が走る。
俺は
「フンッ。天使長でも何でもいいさ。使えるものは全部使え。俺もそうやって今この時まで
そう言うと俺はティナの手を
するとティナは起き上がりざま、俺の胸に手を当てて神聖魔法を唱える。
「
体中に温かさが
ティナの回復魔法は以前とは比べ物にならない
だが……。
「ティナ!」
俺の視線の先、ティナの復活に気が付いたグリフィンが手持ちの槍をティナ目がけて鋭く投げつけてきた。
俺は即座にティナと体を入れ替えようとしたが、それよりもティナの動きのほうが早かった。
「ハッ!」
ティナは気合いの声を発して素早く体を反転させると同時に飛んできた槍を
ど、どうなってんだ……この身体能力の強化っぷりは。
俺は海辺の
『くっ……天使長の力か』
苦虫を噛み
すると頭上から再び
ティナは腰を落として燃え盛る両翼を広げ、その翼で宝玉の降下を食い止めながら俺を見上げた。
「バレットさん。私、ずっと見ていました。この体の中から。だから状況は分かっています。あの
そう言うティナと視線を交わし合い、俺は
「分かってる。グリフィンの野郎は俺が始末をつける」
ティナはすぐに力を込めて両手を広げると、上方に伸びる両翼で
「
その手から放たれたそれはティナの姿をした桃色の炎の
すると目玉の化け物が大きく揺らいでさらに上へと押し上げられた。
あれならいけるはずだ。
だが、ティナのハーモニー・ゲージにも限りがある。
神聖魔法を放つごとに着実にそれは減っていく。
モタモタしているヒマはねえ。
一方の俺もまだ
持って後1分ってところだろう。
俺はティナが地面に突き立てた槍を引き抜くと、それを手に矢のように走り出した。
「グリフィン!」
グリフィンは
グリフィンは
『邪魔をするな!』
「ハッ! もうてめえを守ってくれる魔物どもも堕天使も
『フンッ。どうでもよい。1人で己が身を守れずどうする。これから私は
「残念ながらその旅はキャンセルだ。俺がここでてめえを討つ!」
グリフィンは連続で
今、奴は俺とティナの両方を同時に相手にする必要に迫られているんだ。
必ず
刻々とバーンナップ・ゲージが減っていく中、ジリジリと
背後からはティナが連続で
今のあいつなら必ずあの目玉の化け物をどうにか始末するだろう。
俺は不思議な高揚感を覚えていた。
誰かに背中を任せられるってのはこんな気分なのかもしれない。
ゾーラン隊に所属している時でさえ、こんな気持ちになったことはなかった。
弱くてガキだったティナの奴が今は
そこに至るまでのあいつの苦難の道を知っているからかもな。
『あと少し……もう少しだというのに』
グリフィンの野郎はすでに頭の大きさくらいに広がった
一秒でも早く脱出口を確保したいという奴の
そうはいくかよ。
俺は
思わず目を
今まで一体どこに行っていたのか……ん?
アイツ何をやっているんだ?
リジーはこちらを見ながら何やら自分の二の腕の辺りを指差し、そこをゴシゴシと
あの女……どういうことだ?
ジェスチャーで俺に何かを伝えようとしている。
俺は
そこには当然のように、リジーが製作した俺専用の手甲・
これを
そして心なしか、腕にピッタリとフィットしていた手甲が緩んだような気がした。
何だこりゃ?
驚く俺にリジーはそれを投げつけるような動作をして見せた。
そこで俺は思い出した。
リジーがこの手甲を持ってこの場に駆けつけた時のことを。
あいつは周囲をバグの魔物で
その際にこの手甲がまるで
まさか……。
「奴の
俺は半信半疑ながらもタイミングを計り、グリフィンが
いけっ!
俺が両手を左右から鋭く振り抜くと、手甲は意外なほどあっさりとこの手から抜けて、グリフィン目掛けて火を噴きながら超高速で飛んでいった。
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