第2話 次なる指令
俺が首輪の力で無力化されている間にティナによってこの腕に巻かれたドレイクの腕章は、まるで俺の
そして驚いたことに腕章の赤い
俺のステータス上は腕章を装備したままになっているが、これならば腕章を身に着けてるようには見えない。
それを見たティナはなぜだか感動したような
「こ、これは多分……ドレイクへの
なるほどな。
魔力を通せる
「すみません。突然変なことして。でも腕章を見ていたら、これはバレットさんが身に着けるべきなんじゃないかって、そんな気がして……」
「とにかく、そんなことはどうでもいいから早くこの状態をなんとか……」
俺がそう言いかけたその時、俺の視界に再びティナのコマンド・ウインドウが浮かび上がる。
【敵意認定解除】
途端に俺の体は息を吹き返したように動き出した。
俺はムクリと上半身を起こすと、目の前のティナを
「くそっ。明日解除だってのに最後の最後で腹立たしい。おまえはもう俺に近づくな」
「バレットさんが私に敵意を向けなければ済む話です。もっと
「
「わ、分かってますけど! 分かって……ますってば」
何やら顔を真っ赤にして
「ふえっ? な、何を……」
目を白黒させるティナに構わず、俺は軽くその
こうして触ってみても今は何も起こらない。
「ったく。何をもって敵意認定してるんだか知らねえが、おまえはつくづく変な奴だ」
「へ、変なのはお互い様です。もうっ!」
そう言って俺の手を払いのけ、そっぽを向くティナだが、
本当に……変な奴だ。
その時、肩をすくめる俺の目の前でティナのコマンド・ウィンドウが再び開き、ある通知が表示された。
【
それは
その内容を確かめたティナの顔がパッと明るくなる。
「これは……バレットさんが待ちに待った朗報ですよ」
そしてティナは海の
「バレットさん。先日、リジーさんと話していましたよね? この海を越えて
「島? ああ。フーシェ島のことか。それがどうした?」
目の前に広がるこの海は
だが、この海の沖にはどちらの国にも属していない中立の島、フーシェ島がある。
俺は訪れたことはないが、それほど大きくはない無人島だ。
つい先日、リジーが持ちかけてきた話の目的地でもある。
アヴァンやディエゴがそこで何やら
俺がリジーと話していた間、
「
ようやくか。
その話に俺は
それも面倒くせえな。
「プログラムは電送させろ。フーシェ島くんだりまで何で俺が出向かなきゃならねえんだ」
「いや、別にバレットさんは来なくてもいいですよ。私1人で取って来ますから」
「おまえはアホか。そうしたらおまえは俺の首輪の解除もせずに労せずして逃げおおせるだろうが。そんな勝手を俺が許すと思うか? ねえよ。万にひとつもな」
「い、今さら逃げませんよ。人を疑うその
ゲンナリとした顔でそう言うティナだが、いよいよ明日が首輪の解除ってときにこいつに逃げられたりしたら俺はとんだマヌケだ。
そんなリスクのある選択をするわけねえだろうが。
「うるせえ
「ハァ。そういうことを言うからバレットさんを連れて行きたくないんですよ」
ため息をつきながらそう言うとティナは仕方ないといった感じで肩をすくめた。
「それなら一緒についてきて下さい。わざわざ来て下さる先輩に対して電送してほしいなんて私は言えません。ご好意を無にする非礼な振る舞いですから。でもバレットさん。お願いですから先輩や私の同胞たちと絶対にケンカをしないで下さいね」
「そりゃ保証できねえな。俺は天使どもが大っ嫌いだからよ」
「もう!」
先ほどティナに言ったが、俺はこの辺境を離れて旅に出る。
これ以上この辺境にいても成長は見込めねえだろうから、どこか別の場所へと移住したいところだ。
かといって
それは考えただけでムカついてハラワタが煮えくり返る。
ゾーランの野郎。
いつか必ずぶっ飛ばしてやるからな。
だが、アヴァンやディエゴにやったように策を
ゾーランと戦うなら真正面から1対1のタイマン勝負で倒したい。
らしくねえかもしれねえが、そうしてこそ俺は本当の満足感を得られるような気がする。
だが、今まで通りのまともな
俺のステータスはすでに下級種として上限値に達している。
何かもっと別の角度からアプローチをしなければ、俺は今のまま変われねえ。
そのための一つの方法が今リジーに制作を依頼している特殊な手甲の装着だ。
戦闘時に拳から発する高熱のせいでまともに武器を装備できない俺だが、リジーの作る耐熱性の手甲を装備すれば単純に戦闘能力が上がる。
もちろんそれだけじゃダメだ。
今の環境を大きく変える必要がある。
俺は目の前で
こいつは敵地であるこの
この際だから俺も敵地である
周りは敵だらけの地にこの身を置き、俺の知らない知識や技術に触れれば、そうしたものが俺に新たな化学反応をもたらすってことはないだろうか。
そんな期待の火が俺の胸に
「ミシェル先輩にお会いするのは久しぶりです」
思案する俺をよそにティナの奴はノンキにヘラヘラしていやがる。
旧知の天使に会えるのが相当嬉しいらしい。
まったくお気楽な小娘だぜ。
「どうでもいいがフーシェ島にはアヴァンたちのアジトがあったんだろう? なら今も奴らの部下が残党として残ってんじゃねえのか?」
アヴァンとディエゴはすでに運営本部に
ならばフーシェ島にあるという奴らのアジトは今どうなっているんだろうか。
「それが島の
なるほどな。
ゆうべ
アヴァンもディエゴも上級種とはいえランクはBだった。
ゾーランのようなAランクと違って自分の
だからケルのところのような下級種の集団を取り込んで兵隊として使おうと考えたんだろう。
「今のフーシェ島は平静で人の気配のない場所になっているようですね。ただ、あの不正プログラムを使うディエゴが先日まで
「そんな場所を待ち合わせに使うのは
ティナの話によればディエゴ本人がゲームオーバーになったとしても、奴がこの世界に
あの
「はい。ですから本部から私に指令が下りました。今日のうちにフーシェ島に入島して事前調査を行うようにとのことです。不正プログラムの兆候が見られたら正常化して島の安全を保つのが私の役目です」
「
「はい。島の安全を確保した後、現地で我が同胞たちと合流することになります。私が逃げないか心配なら、バレットさんも同行して下さい」
俺は自分がその場に同席している光景を想像して思わず顔をしかめた。
「天使どもが少しでも俺に敵対行動を示すようなら、俺は
俺の言葉にティナはため息をついた。
「またそんな
「ほう。連中は大騒ぎだっただろう。悪魔なんかとなぜ行動を共にしているのかと」
ムカつく天使どもの顔が目に浮かぶ。
だが、ティナは首を横に降った。
「多少は驚いていましたけど、ゾーラン隊長のおかげで悪魔に対して一定の理解を持つ天使も増えているのですよ」
ゾーランは悪魔の身でありながら、天樹での戦いで天使側に加勢して堕天使ともと戦った。
そのことが天使たちの悪魔に対する印象を少しばかり変えたってことか?
ケッ。
馬鹿馬鹿しい。
「ただ、バレットさんが嫌なら明日は島のどこかに身を潜めていらしても……」
「フンッ。俺がコソコソ隠れなきゃならん理由はねえ。おまえが逃げねえか見張ってねえといけねえしな」
そう言う俺にティナの奴はため息混じりに
「分かりました。とにかくバレットさんの方から同胞たちを刺激するような言動は控えて下さいね」
そう言うとティナはフーシェ島に向かうための
フーシェ島までは海風に逆らいながら飛ぶために速度は出ないが、それでも半日もあれば到着するだろう。
夕方になる前には現地入り出来る。
目的だった上級種
フーシェ島で首輪の解除を終えたら、ようやくティナとオサラバだ。
俺はその後そのまま
「その前にリジーの奴に
手甲の制作を依頼したリジーから
崩壊して
そして焼き付け文字でリジーへのメッセージを残す。
【I'll head for Foucher island.】
使い魔は文字が読める。
これを残しておけば俺の行き先がフーシェ島だとリジーに伝わるだろう。
俺がその作業を終えると、座ってアイテム・ストックの整理を行っていたティナが立ち上がる。
作業中にティナのアイテム・ストックをチラッと見たが、その数百種類に及ぶアイテムは内容を確認するだけでもひと苦労だ。
「それだけのアイテムのストックがあるのに、まだ補給の必要があんのかよ」
「ええ。私のアイテム・ストックは確かにラインナップは豊富ですが、それでも個々のアイテムの在庫数は無限ではありませんから。定期的に補給を受ける必要があるんです」
個々のキャラクターが持つアイテム・ストックはかなり多くのアイテムを入れることが出来るが、それだけのアイテムを用意するには資金も手間も必要になる。
こいつがあれだけのアイテムを用意できるのは、
「しかしカラシヨモギだの双眼鏡だのと、そのラインナップは誰が選んでんだよ」
「えへへ。私です。目のつけどころがセンシブルでしょ。こんなのもあるんですよ」
そう言ってティナが取り出したのは目薬だった。
それから5分後。
岸壁に立った俺は
太陽の光が海面に反射して
さっきティナに渡された目薬の効果が出ているようだ。
「どうですか? あの目薬を使えば海の上でも視界良好でしょ?」
ティナは得意気にそう言った。
そのため光から目を保護して視界を保つ特殊な目薬をティナが用意した。
さらには強風の中の連続飛行による疲労を軽減するため、筋肉の疲れを
「行きましょう。バレットさん」
そう言うとティナは白い翼を広げて
「ドーピング剤があるからって飛ばし過ぎるなよ」
俺も羽を広げて岸壁から飛び立った。
風は強いが、バランスを
俺は力強く羽ばたいて海の上を進み始めた。
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