第13話 死の審判
【システム・エラー:コンティニュー・システム正常機動不能】
赤く染まった俺の視界の中でその文字が浮かんだのは、ほんの数秒間のことだった。
だが俺は自分の身に起きた出来事を正確に
やられた。
アヴァンの体当たりを浴びたダメージによって体が
血にまみれた俺を見るディエゴが
「おっと。おまえが生意気な口をきくもんだから、つい手に力が入っちまった。悪い悪い」
そう言うとディエゴの奴は何を考えたのか、刃を持つ手の力を
俺はディエゴの不可解な行動に顔をしかめた。
「……てめえ。何のつもりだ。遊んでんじゃねえぞ」
「そう死に急ぐな。おまえにはもう審判が下されている。
「なに?」
ディエゴの言葉に俺が
「刑が確定した
上級種どもの口ぶりとその仕草が、俺の脳裏に疑念を浮かび上がらせた。
ケルの話では
「こいつはオリジナルの
ディエゴはそう言うと
そういうことかよ。
どうやら俺は斬られた痛み以上に手痛い一撃を食らっちまったようだ。
「さあ下級種バレット。おまえも悪魔の
そう言うディエゴに続いてアヴァンが俺の眼前で足を止め、俺を見下ろしながら得意気な調子で要求を告げた。
「俺たちはあの見習い天使を捕まえる必要がある。だが、おまえの命を奪う特段の理由はねえ。おまえが邪魔さえしなけりゃな。だから……」
「……あいつを捕らえるのに協力すれば命は助けてやる。そういうことだろ?」
俺の言葉にアヴァンは
俺の背後からディエゴがさらに追い打ちをかけるように言う。
「それだけじゃねえ。
ヘドが出るようなディエゴの猫なで声に、俺は怒りを
「みんなハッピーだと? へっ。それじゃ困るんだよ。俺はてめえらの泣きっツラが見たいんだからな」
俺の言葉にディエゴは笑みを浮かべたまま……
「うぐああああっ! っくうぅぅぅぅ……」
筋肉をえぐられる鋭い痛みが肩から上腕にかけて走り、俺は必死に声を
「バレットォ。ガキみてえな反抗心は捨てろ。悪魔にとって大事なのは自分の損得
そう言いながらディエゴは俺の肩に突き刺した
ぐうっ。
激しい痛みを
そんな俺の耳元でディエゴは
「こんな痛い思いを我慢してまで、意地を張る意味があるのか? あの見習い天使はてめえにとって相当有効な手札のようだが、そんな手札を一枚持ったくらいで下級種のおまえが俺たちを倒せると思ってんなら、そいつは見通しが甘過ぎるぜ。バレット」
くっ……痛みで思考がままならないのをいいことに、俺の心をへし折ろうってのがディエゴの
話術で心の
ナメやがって。
誰がてめえらの手の上で
俺はほとんど動かない両手の拳を震わせながら、声を
「くっ……上級種ともあろう奴らが見習い天使1人にビビッてやがるのか。笑えるぜ」
「……何だと?」
「ゴチャゴチャ言ってねえで、さっさとこの場で俺をぶっ殺して邪魔者を排除すれば、後はあの見習い天使を余裕で捕まえられるだろう? なぜそうしない?」
こいつらは俺を使ってティナを油断させ、捕らえようとしている。
わざわざそんな面倒なことをする理由は一つだ。
こいつらは得体の知れないティナの力を警戒し、恐れているんだ。
それほどこいつらにとってはティナの力が危険なものなんだろう。
だから念には念を入れ、俺という存在を利用しようとしている。
図星を突かれたことに腹を立てたのか、ディエゴの野郎が俺の肩に突き刺した刃をグリグリとねじる様に押し込んでくる。
「フンッ。調子に乗るなよ下級種。おまえは今、そんな
「うぐあああああっ!」
俺は激痛に声を上げながら、必死に頭の中で思考を重ねる。
ここでこいつらの誘いに乗るフリをして一時的に難を逃れ、後で奴らの寝首をかくという手もある。
だが恐らくそんなことをしても、こいつらは
それも織り込み済みで俺を誘ってきたはずだ。
それこそ甘くねえ。
何より、俺はこのクソ野郎どもに一時的にでも
絶対に
こいつらをぶちのめすために今俺はここにいる。
絶対にその信念は
そして不幸中の幸いなのは、肩を貫く痛みのおかげで、
俺はようやく動かせるようになった右手で、右の太ももに思い切り
そこには事前にティナから受け取っておいたあるアイテムが隠されていた。
胴着の裏側に忍ばせておいた小さなそれが破れるのを感じ、同時に俺の右足から
ティナが万が一の時のためにと俺に手渡したその奇妙なカプセルから発せられた光に、俺はあいつの言葉を思い返す。
「目を閉じて呼吸を止めて下さい。光を見るのも粒子を吸い込むのもダメです」
それは緊急避難用にティナから手渡された超高濃度の
プラスチックのカプセルに
「ごあああっ!」
「ぐえええっ!」
あらかじめ息を止めて、目を閉じていた俺と違い、上級種どもはモロにそれを浴びた。
すぐにアヴァンとディエゴの悲鳴が響き渡り、奴らが苦しみにのたうち回る物音が騒々しく聞こえてくる。
強烈な閃光に目を焼かれ、吸い込んだ光の粒子に灰を痛めつけられる。
それは悪魔にとっては耐え難い苦痛だろう。
このクソッたれな状況を打破するチャンスはここしかない!
「ウラアッ!」
俺は目を閉じて無呼吸のまま背後に回し蹴りを放った。
すぐ背後で苦しみ
そして目の前にいるであろうアヴァンの位置をその悲鳴とのたうち回る物音とで予測し、そのすぐ脇をすり抜けて俺は駆け出した。
肩に
「待ちやがれバレット!」
ようやく晴れてきた光の
俺はとにかく奴らを振り切るべく全力で走り続けた。
奴らもいつまでも苦しんでばかりじゃない。
じきに復活して追って来やがるはずだ。
かなり深刻なダメージを体に受けた俺のライフはもう残り少なくなっていたが、回復アイテムを使う間も惜しい。
一秒でも早くティナを見つけて奴らを迎え撃つ態勢を整えねえとならねえ。
幸いなことに俺が通路を1分も走らねえうちにティナの姿が見えてきた。
「ティナ!」
「バレットさん!」
ティナの奴は前方の通路を今まさに正常化し終えたところだった。
そのティナの数メートル先には曲がり角があり、そこを曲がればすぐにドレイクの隠し部屋がある。
後方からはアヴァンがようやく身動きを取れるようになったのか、怒りの声を上げて追ってくる様子が伝わってきた。
思ったより復活が早い。
そう思ったその時、ふいにティナの奴が表情を固くして叫んだ。
「
「チッ。またかよ」
ティナの言葉に俺は
俺とティナとの間を
不正プログラムだ。
床、壁、天井と全てが
まるで不正プログラムが
そしてその空間からディエゴの野郎が首だけを現しやがったんだ。
ディエゴはその猿顔を怒りに
「無駄足だったなバレット。せっかくの俺の親切な提案を無下にしやがって」
こいつももう復活して先回りしやがったか。
だが
こんなところで足止めを食ってたまるか。
「
「おっと!」
俺が素早く繰り出した
「ティナ!」
その瞬間、俺は声を張り上げてティナに目配せをした。
ティナは
「
ティナの体から桃色の光が発生し、それが人型となって宙を舞い、そのまま不正プログラムの
同時に俺も駆け出し、反対側から
それはまるで空間の裏側に入り込むような感覚だったが、すぐにその奇妙な感覚を打ち破る光が飛び込んできた。
ティナの放った
すぐに俺は元の通路の上に投げ出され、地面に転がって受け身を取る。
「ぐうっ……」
そんな俺の手を誰かが握る。
ハッとして顔を上げると、そこには決死の
「行きますよバレットさん!」
そう言うとティナは俺の手を思い切り引っ張って駆け出す。
情けないことに俺は息も絶え絶えになりながら歯を食いしばり、足を踏み出した。
後方からは地響きのような足音を響かせながらアヴァンが猛然と追ってくる。
ディエゴの奴はどうやら不正プログラムの
ティナは俺の手を引いて走り、俺たちは突き当たりの角を曲がった。
曲がってすぐのところには隠し
ドレイクの隠し部屋への唯一の出入口だ。
ただの壁にしか見えないこの隠し
俺は壁に手を置き、手慣れた動作で
そして後ろ手で即座に
その直後、巨漢のアヴァンが壁の前を通り過ぎていく音が聞こえてきた。
俺とティナは身じろぎせずにその場でそれをやり過ごし、物音が聞こえなくなると、静かに目の前の階段を降り始めた。
情けねえことに一歩階段を降りるごとに体中がミシミシと痛む。
アヴァンの体当たりが相当こたえていた。
ディエゴに刺された傷も深い。
俺のライフはもう残り20%ほどまで減少していて、かなりのダメージが体に
階段を降り切ると俺はたまらずその場にドサッと座り込む。
上級種との戦いが相当に無謀なものであることは分かっていたつもりだった。
しかし実際に奴らの攻撃をこの身に受けると、その圧倒的な力の差に
たった一発の攻撃でも当たりどころが悪けりゃ致命傷になっちまう。
そしてこっちの攻撃では大してダメージを与えることが出来ない。
ティナの隠しアイテムである
力なく座り込んだ俺の
「バレットさん。まずはそのケガを……」
そう言ってティナが俺の肩に刺さったままの小刀に触れようとしたため、俺はそれを手で制した。
「この刃に触れるな。こいつは
「えっ?」
青ざめるティナをよそに俺は肩に刺さったままの
見るも
その光は俺の命の根幹に
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