第5話 クエストしませう

「想像以上に遊ぶ場所がないな」

「だから言ってるじゃないですか、ゲームを進行すればいける場所が増えて、娯楽施設も解放されるって──」

「面倒くさいな……仕方ない、少しだけゲームを進めてやろう」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「で、最初は何をするんだ」

「はい! 最初は、宿屋の女将さんの大事な髪飾りを、ゴブリンから取り戻すクエストがいいですね、これをクリアーすると宿屋に安く泊まれるようになりますから」

「俺は宿屋に泊まるのか?」

「将来的に余裕ができれば家を買ったりもできますけど、最初は宿屋に泊まるのが普通ですよ」

「いや、お前の家に泊まる気だったんだけど」

「私の家ですか! だ……ダメですよ! 汚いですし、狭いですから……」

「確かに汚そうだな……まあ、いい、泊るとこは後で考えよう、それでそのクエストはどう進めるのだ」

そう言うとリンシャンテンは心底ホッとしたような表情をした。


「それでは宿屋に移動しましょう」

そう言うと、リンシャンテンはどこかへ歩き出した。

「歩いていくのか?」

「あっ、はい、すぐ近くですので──」

「おい……お前は自分が言った言葉も忘れているのか? 面倒な作業は省略すると言っていたではないか、瞬間移動でパッといけばいいだろう」

「ええ~! 歩いても五分くらいのとこですよ」

「馬鹿者! 五分もあればカップ麺ができる、そんな貴重な時間をただ歩くだけで消費するつもりか?」

「わかりましたよ……それでは瞬間移動しますね」

あきらかに不満そうな顔のリンシャンテンは、嫌々にブツブツと何かを唱えた──


そして、瞬間移動でやってきたのは古い木造二階建ての建物だった──失礼な言い方をすると年季の入ったボロ宿である。

「ここは風鳥の宿です、一階は酒場になっているので食事もできますよ」

「うむ、なるほど、これはお前の家に泊まるのが濃厚になったな」

「え! いや……ちょっと待ってくださいよ! 見た目はあれですが清潔な宿ですし、一階の酒場の食事は絶品なんですよ! その絶品の料理が、宿泊者には割引で食べれるサービスがあるので絶対ここに泊まった方がいいですよ!」

「ほほう──本当に絶品なのか? 嘘ついてないよな?」

俺が少しドスを聞かせてそう聞くと、リンシャンテンはしどろもどろに訂正した。

「──い……いえ……本当は普通です……」

「ペナルティー1だな」

「ええ! なんですかそのペナルティーって!」

「お前が嘘をついたり、俺を不快にさせる度に加算されるポイントだ」

「ど……どんな意味があるんですか?」

「10ポイント貯まると大変なことになる」

「どうなっちゃうんですか‼」

「それはなってからのお楽しみだ」

「うわっ……」

未知の罰に対する恐怖なのか、リンシャンテンは頭を抱えて狼狽えた。


クエストを始める為に、とりあえず宿屋に入った──女将さんは一階の酒場のカウンターに寂しそうに立っていた。

「いらっしゃい、食事ですか、それとも宿泊──」

女将さんは俺たちを見ると表情を切り替え、そう話しかけてきた。リンシャンテンが俺に小声でこう助言する。

「随分悲しそうなお顔でしたが、何かあったんですかと聞いてください……」

どうやらクエストスタートのキーになる文言を教えてくれたようだ。

「随分悲しそうなお顔でしたが何かあったんですか」

棒読みな感じではあるけど、俺はリンシャンテンの助言通りに女将さんに話しかけた。

それを聞いた女将さんは、ううっ……と顔を覆って泣き出した──そして静かに話し始める。

「実は……」

女将さんの話は、このシナリオを書いたライターのセンスを疑うほどに単純なものであった、森に山菜を獲りにでかけた女将さんは、ゴブリンの群れに囲まれた、命からがら逃げだすことには成功したが、後で亡くなった夫から貰った大事な髪飾りをなくしていることに気が付いたと……まあ、ゴブリンに囲まれて、女の足でどうやって逃げ切れたのかも疑問だが、ゴブリンがそんな髪飾りなんかを後生大事に保管している設定にも疑問が残る。

「女将さんその髪飾り俺がゴブリンから取り戻してきますよ」

これまた棒読みでそう言う。

「ほ……本当ですか! ありがとうございます……」

こうしてクエストを受注した俺は宿を後にした。


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