第2話 女神降臨

俺が次に目にしたのは、青い髪で露出度の高い衣装を着た美しい女性であった。

「きゃっー…… 嘘! 本当に⁉ やだ……こんな日が来るなんて……諦めなくてよかった〜」

青い髪のボブショートの女性は俺を見ると、テンション高めで何か騒ぎ始めた。

「……なんだ、お前は……」

冷たい表情でそう聞くと、彼女は騒いで乱れた衣服を直してこう返答した。

「私は女神リンシャンテンです、この世界、ラーフィアの案内人をやっています」

どうやらゲームのサポートNPCのようだ。


「そうか──それじゃ、俺はいつになったら案内されるんだ」

「すっ……すみません! そうですよね、職務を怠慢してました! なにしろ五千年ぶりのプレイヤー様でしたので興奮してしまって……」

「……五千年?」

「あっ、えーと……現実世界と、このラーフィアでは、一千倍の時間感覚の差異があるんです……ですから現実世界では、えーと……五年となりますかね」

「ほほう──と言うことはこのゲームに千日いても、現実世界では一日しかたってないってことだな、すげーな、サボり放題じゃねえか」

「そうなんですけど、実際は安全の為に、一回のアクセスで現実世界の一時間しかこの世界にはいられない仕様になっています」

「ゲームは一日一時間って、昔の偉人が言ってたからな、まあ、いいんじゃねえか」

「ご理解ありがとうございます、それではこの世界、ラーフィアのご案内をいたしますね、ラーフィアは、創造神アクメティアフルによって作られた世界で……──」

「あっ、面倒くさいのでそんな説明はいいや、さっさとその辺案内してくれ」

「へぇ? いや……世界観といいますか……このゲームを楽しむうえで大事な情報ですよ?」

「そんなの聞いても覚える気ねえからいいんだよ、なんかほら、景色のいい場所とか連れてけよ」

「しかし……プレイ方法の説明とかも……キャラメイキングもまだですし……」

「なんだよ、それ、あまり面倒くさいとゲームやらねえでログアウトするぞ」

「わっかりました! そうですよね、ゲームは楽しむものですからね、それではとっておきのビュースポットにお連れします」

そう言うと、女神なんたらはボソボソと一人呟いた。

周りの景色がカタカタとモザイク画のような変化を見せる、それは視界いっぱいに広がり、気が付くと俺は湖の畔に立っていた。


「ほほう、中々いい景色じゃないか」

早朝の湖の設定なのか、朝靄の中に、湖の中心に浮かぶ島が幻想的でかなり良い感じだ。

「そうなんですよ! 私もこの時間設定のこの場所の景色が好きで、よく見に来るんです。

「なんだ、お前、NPCのくせにそんな感傷に浸ったりするのか」

「私はこの世界でも12ユニットしかいない、最高レベルのAIを搭載したNPCなんです、なのでゲームに関係すること以外でも人と同じように思考するようになっていまして……」

「そうか、だったら五千年もプレイヤー来なかったのって相当辛かったんじゃないか」

俺のその言葉は女神なんたらの感情を直撃したのか、すごい勢いで何かの思いを俺にぶつけてきた。

「そうなんです! 辛かったんです! 五千年──五千年ですよ! 誰もこないんですよ! 前はポンポン新規ユーザーがやってきてくれて充実した女神ライフを送っていたのに……だからすっごく嬉しいんです! 今日、あなたがやってきてくれて! 本当にありがとうございます!」

なんか面倒くさい奴だな……


「まあ、それは良かったな、それより、景色を堪能したし、次は美味い物が食いたい、用意してくれ」

SVRは五感を体感できる、実体に栄養がいくわけではないが、味覚は感じることができるので普通に食事を楽しむことができる。

「あっ、わっかりました! それでは私の行きつけの料理屋に案内します」

「女神のくせに行きつけの店とかあるのかよ、お前」

「もちろんです、女神のお仕事以外では、普通に生活してますので──」

なんとも人間臭いNPCだな……まあ、それが最高レベルのAIってことなんだろうけど──


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