第71話

「上手よ、ベン。

 とても奇麗にできているわ」


「本当でございますよ、ベン殿下。

 次はこの絵のように創れますか?」


「創れる」


 ベン皇子が芸術に目覚めたというのは大袈裟だが、階段を創りだすのに慣れてきたカチュアが、階段の壁を滑らかな仕上がりから彫刻に変化させているのを見て、ベンも壁に凹凸を創りだすようにした。

 その凹凸は、最初は母親であるカチュアの創りだす壁を真似たものであったが、徐々に後宮に置かれている絵画や彫刻を模したモノになっていった。


 ある意味子供のお絵描きであり、泥んこ遊びでもある階段創りは、ベンを更に熱中させ、破壊攻撃的な魔術に興味があったベンを一変させた。

 ベンは陰陽五行の魔法をバランスよく覚え、土に色を付けたり、宝石や金属を結晶化させたりして、色鮮やかで光り輝く壁画を創りだそうとした。


 最初は思い通りの色がだせなかった。

 元の絵画や彫刻と同じ造形に出来なかった。

 思うような輝きを放つ金属や宝石を創りだすことができなかった。

 癇癪を起して潰してしまう事も度々だった。

 だが決して諦めなかった。


 カチュアはベンをほめた。

 ベン本人が納得できずに潰してやり直すようなところでも、よい所をほめた。

 濁りがあり輝きが足らなくても、宝石を創り出した事をほめた。

 その影響か、ベンは壁画にたくさんの宝石を埋めだした。

 

 宝石を創れば創るほど、その精度は上手くなっていった。

 中に含まれる異物が少なくなり、濁りがなくなり、色も鮮やかになる。

 誰も見ない地下階段の壁画に埋め込むには惜しいくらい、美しい宝石が創れるようになっていたが、それはカチュアも同じだった。


 女性魔術師団は方針を修正した。

 魔術師の魔力量が足らずに使われる事がなくなり、歴史に埋もれた大魔術再現する基本方針は同じだが、宝石や魔晶石を創りだし備蓄することにした。

 理由は簡単で、魔術の研究にはとてもお金が必要だった。

 埋もれた魔術書を探し出すのにも費用がかかる上に、その魔術を再現するために用意しなければいけない素材も、貴重で高価だったからだ。


 カチュア皇后陛下直属の魔術師団となり、潤沢な費用を使えるようになった今でも、長年の習性は変わらないモノだった。

 私的に横領するような事はなかったが、研究資金として宝石や魔晶石を備蓄しておきたいという意識に変わりはなかった。


 特に目立ったのが、非常時のために魔力を備蓄できる、魔晶石を肌身離さずに身につけている事だった。

 その魔晶石を身につけている女性魔術師を、ベンが美しいと感じ、次々と魔晶石や宝石を創りだして、飾り立てて行った。


 

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