第66話

「団長。

 皇后陛下のおられる時間とそれ以外の時間で配備を変えてください」


「分かりました。

 皇帝陛下と総取締様に話しましょう」


 先ほどまでベン皇子についていた女性魔術師が団長に献策した。

 日に日に増大するベン皇子の魔力に、女性魔術師達の魔力では追いつかなくなり、ベン皇子にいたずらを防げなくなっていたのだ。

 このままでは、ベン皇子が物心をつく前に、人殺しの罪を背負ってしまう可能性があるのだ。


 男性魔術師の助力が得られず、女性魔術師の増員も難しい以上、配備する人員の能力と人数を工夫する事で、限られた人員で役目を果たせるように考えたのだ。

 団長もその献策を認めた。

 団長自身も早急に対応策を考える必要があると思っていたのだ。

 

 だがこの時間帯による配備数の臨機応変増減は、カチュア皇后の予定と連動しており、カチュア皇后の暗殺を警戒する皇帝陛下と総取締の許可が必要不可欠だった。

 カチュア皇后の予定を知らなければ、配備人数の増減を計画できない。

 カチュア皇后の予定を知るという事は、暗殺を成功させることができる可能性が飛躍的に高まるのだ。


「カチュア様、ベン皇子が魔法を暴走させないように、予定の空いている時は側にいてあげていただけますか?」


「当然です。

 子供のためになにかをしてあげるのは、母親の喜びなのです。

 不参加が許される公式行事は全て欠席としてください。

 アンネ様で大丈夫な公式行事は、アンネ様にお願いしてください。

 アンネ様こそ皇后に相応しい方なのですから」


 マリアムのお願いを、カチュアは即答で許可した。

 カチュアにとっては、皇后や女王の地位に対した価値はなかった。

 カチュアにとって大切なのは、温かな家庭だった。

 小さく考えれば、自分とベン皇子とリドル皇子の三人の生活。

 大きく考えれば、自分に仕えてくれている後宮全体だった。


 普通の虎獣人族なら、自分中心に物事を考えるのだが、カチュアは子供中心に考えており、アレサンドは自分に優しい子供達の親でしかない。

 カチュア一筋のアレサンドには可哀想な事なのだが、子供を生んだ女性の大半は、恋した男性よりも子供を優先する。

 極稀に子供を殺してでも恋人を優先する女性もいるが、カチュアは子供が最優先で、アレサンドは苦しい状態から救ってくれた恩人でしかない。


 そしてカチュアには膨大な魔力があり、次々と新しい魔術を覚えている。

 女性魔術師が複数で抑えなければいけないベン皇子の魔力も、カチュアなら楽々と抑えることができた。

 カチュアは公式行事に出席しなくてよくなった。

 ベン皇子は常に母親が側にいてくれて嬉しかった。


 

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