第64話皇帝の妻妾

 各皇子付きの乳母と戦闘侍女は真剣だった。

 皇子達の戯れやじゃれ合いが、本気の殺し合いに発展しないように、ピリピリと神経を張り詰めていた。

 特に実母が介入してきて、自分と血の繋がらない皇子を殺してしまうような、大惨劇が起きないように、事前に動けるように注意深く観察していた。


 子供部屋とも保育室とも呼ばれるようになった、皇子を集めて遊ばせたり勉強を教えたりする大部屋は、いつも喧騒に満ちていた。

 二百人を超える皇子達が、本能的に順位付けを行っていた。

 完全な獣なら、子供自身の個体強弱で順位が確定する。

 だが獣人は、これに人の要素が加わるのが問題だ。

 母親の地位や実力が子供の順位付けに影響を与えてしまうのだ。


 保育室では、母親と祖母の地位と実力が如実に表れてしまった。

 他の子供達の母親が、答応の地位しか与えられていないのに対して、皇帝の乳妹アンネは貴妃の位を授かっていた。

 アンネの実母マリアムは、皇帝の乳母で後宮総取締だ。

 皇帝からの信頼は絶大なモノがある

 アンネの腹から生まれた皇子と他の皇子には、圧倒的な差が存在してたのだ。


 皇帝のつがいがカチュアであることは、皇国中の誰もが知っている事で、皇后の地位が揺るがない事は、虎獣人族も理解していた。

 だが、次期皇帝の地位は別だった。

 側近忠臣重臣だけでなく、アンネも自分の子が皇帝の地位を継ぐのだと、徐々に思い始めていた。

 傍系皇族や譜代功臣貴族家の大半が滅び、皇帝が士族以下の家からしか妻妾を集めなかった事から、そう思うようになってしまっていた。


 だが、母親のマリアムは楽観していなかった。

 後継者争いに皇子自身の能力以外が加わる事を、皇帝アレサンドが極端に嫌っている事を、乳母であったマリアムは嫌というほど知っていた。

 だから、その事を、口が酸っぱくなるほど、アンネに繰り返し諭した。

 アレサンドが大公の位を得るまでに体験してきた、嫌な実例と共に諭した。


 母親のマリアムだけでなく、元傅役のエリック卿も手紙で伝えた。

 ベン皇子に魔力がある事が判明してからは、特に親身になっていた。

 マリアムもエリックも、アレサンドの事を最優先に考えていた。

 虎獣人族には稀有な事なのだが、マリアムとエリックは忠誠無比の、アレサンドの事を実子以上に大切にする股肱之臣なのだ。

 アレサンドはカチュアとは対極の、とても恵まれた環境で育っていたのだ。


「皇帝の妻妾の地位」

皇后 :正室(定員一人)

貴妃 :側室最高位(定員二人)

妃  :(定員四人)

嬪  :(定員六人)

貴人 :(定員なし)

常在 :(定員なし)

答応 :(定員なし)「戦闘侍女一人と侍女一人と乳母一人」

官女子:(定員なし)「戦闘侍女一人と乳母一人」

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