第52話

「アレサンランド連合皇国皇帝、セントウィン大王国大王、ウィントン大公国大公、サヴィル王国王配、マクリンナット公爵家公配、アレサンド陛下のご入場!

 アレサンランド連合皇国皇妃、セントウィン大王国大王妃、サヴィル王国女王、ウィントン大公国大公妃、マクリンナット公爵家公主、カチュア陛下のご入場。

 アレサンランド連合皇国皇子、セントウィン大王国大王子、マクリンナット王国国王、サヴィル王国王子、ウィントン大公国大公子、マクリンナット公爵家公子、ベン陛下のご入場。

 アレサンランド連合皇国皇子、セントウィン大王国大王子、マクリンナット王国国弟、サヴィル王国王子、ウィントン大公国大公子、リドランド公爵家当主、マクリンナット公爵家公子、リドル殿下のご入場」


 今度もまた家族そろっての入場だった。

 前代未聞だったのは、アレサンド皇帝がベン皇子を抱いている事だった。

 この状況は、会場にいる全王侯貴族に衝撃を与えた。

 まだ皇太子に立太子されたわけではないが、それでも、皇帝陛下が直々に抱くというのは、特別な意味があると想像するのが普通だった。


 悪意を持たず、深読みしなければ、次男のリドル皇子をカチュア皇妃が抱いているので、長男のベンをアレサンド皇帝が抱いていると思える。

 だが、普通は、アレサンド皇帝もカチュア皇妃も子供を抱いたりしない。

 子供を抱くのは、乳母の仕事だった。

 それをわざわざ抱いて臣下の王侯貴族の前に出るのは、とても大きな意味があると考えるのが、臣下が生き延びる道でもあった。


 だが、それでも、安心材料もあった。

 生れたばかりのリドル皇子が得た爵位は公爵位でしかなく、領地も公爵にふさわしい広さと豊かさだ。

 カチュア皇妃の子供だからといって、無条件に王位が与えられるわけではない。

 

 今回のリドル皇子のお披露目は、前回のような惨劇は起きなかった。

 残っている傍系王族と譜代功臣家が粛清される事はなかった。

 表向きは、不忠にも皇帝陛下の暗殺を謀り、それを憂いた一族や家臣に殺されたことになっているが、実際には皇帝陛下に謀叛に走るように誘導されたというのは、王侯貴族には明白な事実と考えられていた。


 この状況で、王侯貴族は幾つかの派閥に別れようとしていた。

 カチュア皇妃系の皇子達がどう処遇されるのか、戦々恐々として見守り、いざという時は兵を挙げなければならないと考える虎獣人族の高位貴族。

 カチュア皇妃系の皇子が皇帝位を継いで欲しいと願う、人族系王侯貴族。

 皇位継承争いに巻き込まれないように、できるだけ距離をとろうとする、中立の人族系王侯貴族と草食獣人系の高位貴族。

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