第38話
「アレサンド。
多くの王国や大公国が連合皇国に参加すると聞きました。
実質は属国なのでしょうが、少し羨ましいです。
リングストン王国の人達が、何かあれば助けを求められる国が欲しいです。
領地が増えなくても構いません。
マクリンナット公爵家を王家にはできませんか?」
他意のない、弱い人族を憂うカチュアの純粋な言葉だった。
でも、つがいの呪縛に縛られるアレサンドには、命令以外の何物でもありません。
しかし、それを、純粋な人族を憂う優しい想いと受け取らないのが、国のかじ取りを担う有力貴族なのだ。
どうしても、何か裏に陰謀があるのではないかと思ってしまう。
いや、思わなければいけない責任ある立場なのだ。
特に虎獣人族からすれば、虎獣人族の皇国を、人族が乗っ取ろうとしていると勘ぐってしまうのだ。
そして実際、人族の王国の興亡史には、王妃や王妃の外戚が、国を乗っ取ったり乗っ取る途中で争いになって、滅んだ国があるのだ。
「シャノン侯。
朕にはカチュアの言葉に他意はないと思う。
だから願いをかなえてやりたいと思うのだが、どう思う?」
「私の陛下のお言葉通りだと思います。
ですが、そう思わない貴族がいるのは間違いありません。
タイミングと理由が大切になります。
皇国の建国宣言前でよかったです。
領地を増やす必要がないのなら、それほど難しくないと思われます」
「そうか!
それはよかった!
シャノン侯を朕の傅役にしてくれた父上に感謝せねばならん。
これまで何百何千と感謝してきたが、また感謝だな。
それで具体的な理由はどうするのだ?」
「カチュア様のお腹の中にいる御子を、王に封じるのです。
すでに領地と公爵位はお与えになっておられますが、それは陛下がセントウィン王国の国王であられた時の事です。
皇帝を宣言されるのなら、御子達を同姓諸侯王に封じるのに、なんの問題もありません。
むしろ人族の属国が王を名乗っているのに、皇帝陛下の御子が公爵や大公の位のままの方が大問題です。
まして虎獣人族の有力貴族や傍系王族が大侯や大公を名乗るです。
彼らの叙勲にあわせれば何の問題もありません」
「なるほど、それなら奴らも異論をさしはさむ事はできないな」
「それと、皇帝陛下とカチュア様の御子に新領地を与えない事で、有力貴族に褒美の領地を与えずにすみます。
彼らが領地が増えない事に不平を言ったら、適当な領地を与える時に、カチュア様と御子にも新領地をお与えになればいいのです」
アレサンドとシャノン侯は細々とした事も話し合って詰め、その後で側近忠臣だけを集めて再度の検討をし、万全を期してから有力貴族からなる重臣団を集めてカチュアの希望をかなえようとした。
そして大した反対もなしにカチュアの望みをかなえることができた。
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