第17話

「一番の目標はネーラだ!

 ネーラだけは絶対に許すわけにはいかん!

 ネーラを捕え、カチュアが味わった苦痛を味合わせてやる。

 舌を切り取り、四肢を切り落とし、身体中を傷つけてやる。

 二番目の目標はカチュアの治療だ。

 カチュアの舌を取り戻す。

 そのためには、どのような魔道具でどんな呪いをかけたかが分かるモノを手に入れなければならない。

 人族の皆殺しは三番目だ」


「では大公殿下。

 隠形して侵攻していただかねばなりません。

 卑怯下劣なネーラの事です。

 殿下が侵攻したと知れば、何をおいても逃げ出します。

 それこそ地の果てまで逃げていきます。

 ネーラに知られるような侵攻は、殿下の目標であるネーラを取り逃がします」


「うぬぬぬぬ!

 腹立たしい事だ!

 仕方あるまい。

 隠形でリングストン王国に入る。

 ネーラがどこにいるのか分かっているのか?」


「王都でございます。

 密偵の話では、ノエル国王と不義密通を繰り返し、王妃や側室を毒殺し、まるで王妃のように振舞っております」


「なんたる外道!

 許し難い極悪夫人だな。

 夫のマクリンナット公爵は気がついていないのか?」


「さて、その辺は確証のある報告はございません」


「マクリンナット公爵を毒殺し、正式な王妃になる、許し難い野望を持っているのではないのか?」


「さて、その辺は何とも申し上げられません。

 そこまでやれば、マクリンナット公爵家の中にも異論を唱える者が現れ、カチュア様を旗頭に、叛旗を翻すこともあり得ます。

 それよりは愚かなマクリンナット公爵と国王を操り、王家の力と公爵家の力、その両方を振るう方を選ぶことでしょう。

 マクリンナット公爵を殺して王妃の座に就くのは、全ての家臣を籠絡し、自分が女公爵として力を振るえるようになってからと想像いたします」


「……エリックの言う通りであろう。

 許し難い悪女だな。

 だが、そのような者に誑かされる公爵と王が、そもそも度し難い。

 そのような者に領主や王を務める資格はない」


 ウィントン大公アレサンドの言葉に、幾人かの廷臣が僅かに表情を歪めた。

 つがいの呪縛に囚われた大公に、愚王や愚公爵を重ねてしまったのだ。

 そのように想像したのが、顔を歪めた者だけとは限らない。

 鉄の精神力で全く表情を変えなかった者もいるかもしれない。

 そのような者が、カチュアの排除に動く可能性が、また高まった。


 同時に、敬愛する大公殿下ならば、つがいの呪縛を乗り越えてくださるかもしれないと、期待している廷臣もいた。

 カチュアを警戒する者達が作り上げたネットワークを駆使して、毎日詳細な報告を受けているので、大公殿下が呪縛を抑え込んだことも知っていた。

 皆がギリギリの状態で次の手段を模索していた。

 

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