第5話

「もう逃げられないぞ、我が婚約者殿。

 いやカチュア公女。

 お前にはアメリア女大公殿下の生贄になってもらう。

 アメリア女大公殿下の永遠の美貌、不老不死のために来てもらおうか」


 私の婚約者、あれほど恋い焦がれたフレッド様が、醜く顔を歪めています。

 私が恋した清潔感漂う笑顔はどこにもありません。

 あるのは、欲望に歪む顔と教信者の眼をしたフレッド様です。

 彼の周りには、百を超える騎士が同じ表情を浮かべています。

 全員義母上の虜になっているのでしょう。


「待ってもらおうか。

 私を無視してもらっちゃ困るね。

 私は食人の悪行を絶対に許さない。

 君達も騎士ならば、心を入れ替えてアメリアを退治してはどうか?」


「おのれ下郎!

 アメリア女大公殿下を呼び捨てにするなど絶対に許さん。

 私達を今迄のような手下と同じだと思うなよ。

 私達はアメリア女大公殿下に特に選ばれ、眷属となったのだ。

 アメリア女大公殿下の眷属が、聖騎士ごときに負けるか!」


 眼にも止まらぬ速さとはこの事でした。

 バーツの城下で戦いぶりにも驚きましたが、それを超える速さです。

 バーツが驚きと後悔の浮かぶ顔をしています。

 負けてしまうのでしょうか?

 私は義母上に喰い殺されるのでしょうか?

 それも、婚約者に裏切られて。


 ギャァァアァ


 また、ハクに助けられました。

 ハクがフレッドに治癒魔法を放ってくれました。

 ハクの治癒魔法を受けたフレッドは、地を転げ回って苦しんでいます。


「いやああああああ!」


 バーツが叫びながら斬り込んでいいきます。

 城下での戦いでは余裕綽々だったバーツが、戦神のような、死を覚悟した騎士のような、真剣な表情で敵に突っ込んでいきます。

 百を越える敵は、人間ではないのでしょうか?

 バーツ様に腹を突かれ、手足を斬られても、全く怯むことなく戦いを続けます。

 正確に心臓を貫かれた者と、首を断たれた者だけが動きを止めます。


「いと高き天空におわす聖なる神よ、我に加護を与えたまえ」


 バーツが最高神に加護を願っています。

 いつの間にか満身創痍の状態です。

 義母上の眷属となった者達は、人とは違ってしまっているのでしょう。

 王太子バーツの装備は、聖騎士に選ばれたバーツの装備は、フレンチ王国でも最高の装備のはずです。


 国一番の鎧が破壊され、鎖帷子を越えて鎧下の分厚い肌着すら破っています。

 破壊された鎧の下で、血が流れているのが分かります。

 このままでは嬲り殺しにされると、バーツは判断したのでしょう。

 それが最高神に祈り願うと言う事になったのでしょう。

 その効果は直ぐに現れました。

 明らかにバーツの動きがよくなったのです。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る