第5話
「兄上、そろそろ騎士団に復帰された方がいいのではないですか?」
「ダメだ!
またいつ刺客が襲いかかってくるか分からない。
ジュリアを無防備にはできん!」
「しかしそれでは兄上の出世にかかわります。
もう私は大丈夫です。
家臣たちも護ってくれますから」
「ダメだ!
絶対にダメだ!
家臣たちに任せる事はできん!」
困りました。
兄上が騎士団に行ってくれません。
今はまだ休暇扱いになっていますが、これ以上休むと首になってしまいます。
私を溺愛してくださっている兄上が、私の側から離れないのは、私を恨むモノが幾度も刺客を送り込んできたからです。
恐らくコータウン伯爵が逆恨みしたのでしょう。
溺愛していたドミニクを殺された恨みです。
まず間違いないですが、証拠が全くありません。
刺客も選び抜かれたプロなのでしょう。
兄上に返り討ちにされた刺客は、証拠を一切残しませんでした。
わずかでも証拠があれば、兄上なら間違いなくコータウン伯爵の王都屋敷に斬り込んで、コータウン伯爵の首をとっています。
もしかしたら、騎士団にいかずにずっと私の側にいられるように、わざとコータウン伯爵を生かしているのかもしれない、そう思う事もありますが、さすがにそれはないと心で否定しました。
「また来たようだな。
金に飽かして性懲りもなく刺客を雇う。
懲りない奴だ」
兄がふらりと立ち上がります。
私には全く分かりませんが、刺客の気配を感じられたようです。
まだ庭を警備している家臣たちも番犬たちも反応していないのに……
これだから、つい兄上に甘えてしまいます。
口では騎士団に出仕するように言っても、心の中では兄上に側にいて欲しいと願っているのを、兄上は分かっていてくださるのです。
私は卑怯者ですね。
「ラッキー、後は頼んだぞ」
「ワン!」
常に私の側にいて、私を護ってくれる番犬のラッキーが、兄上に返事をします。
私は思わず数歩駆け寄り、ラッキーを抱きしめてしまいました。
ラッキーがいなければ、側を離れないでくださいと、兄上に泣いて縋りついていたかもしれません。
本心はそれくらい怯えていたのです。
兄上が窓を開けて飛び出していきます。
刺客に不意を突かれないように、私は居室を三階に移しているのですが、兄上はその高さを楽々と飛び降りてしまわれるのです。
本当に人間離れされています。
私は急いで鎧戸を下ろし、窓を閉めます。
普通なら部屋が真っ黒になってしまいますが、ランプをつけるので大丈夫です。
ラッキーがまだ警戒を解きません。
まだ兄上が刺客を撃退されていないのです。
どうか、どうか、どうかご無事で!
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