第2話

「兄上よろこんでください!

 わたくし、ドミニクと婚約を解消することができました!」


「なに?

 いったい何事が起ったのだ?!

 これほどかわいいジュリアとの婚約を解消すなど、絶対に許さん!」


「兄上!

 落ち着いてください、兄上!

 わたくしは、うれしいのです!

 よろこんでいるのです!

 ちゃんと話を聞いてくださいませ!」


 ダメでした。

 全然話を聞いてくださいませんでした。

 兄上は怒りに何も聞こえず、何も見えないようなのです。

 兄上がわたくしを大切にしてくださっていたのは、よく知っていました。

 ですが、これほどお怒りになるとは思ってもいませんでした。


 わたくしがどれほど止めてもダメでした。

 父上が叱責しながら止めてもダメでした。

 母上が優しく教え諭してくだしましたが、ダメでした。

 兄上はわたくしを無理矢理王太子宮に引きずって行ったのです。


「ジャスパー王太子殿下!

 かわいいジュリアが!

 これほどかわいいジュリアが!

 ドミニクの糞野郎に婚約を解消されてしまいました!

 これほどの屈辱はありません!

 私に決闘させてください!

 ドミニクの糞野郎をこの手でぶち殺してやります!」


「サヴィル子爵家令息アーロン殿。

 殿下の友情を得ておられるとはいえ、あまりに礼儀を失していますぞ。

 約束のない急な謁見願い。

 乱暴ガサツな言葉遣い。

 今少し礼儀を弁えられていただきたい」


 王太子殿下の侍従長が苦言を呈しています。

 これでも侍従長は大目に見てくれているのです。

 兄上が殿下の友人でなければ、厳しい処分を受けていたでしょう。

 わたくしは心配で胸がドキドキしてしまいます。

 どうか兄上、これ以上無礼な真似は止めてください!


「アーロン。

 決闘でドミニクを殺すと言っているが、ドミニクは間違いなく代闘人を立てくる。

 それではドミニクは殺せんぞ。

 それに話を聞いていると、ジュリアはこの婚約解消をよろこんでいるぞ。

 アーロンはジュリアの嫌がることを無理矢理押し付けるのか?

 この決闘にアーロンが勝てば、ジュリアはドミニクと結婚しないといけないぞ。

 それでいいのか?

 ジュリアがドミニクの妻になり、ドミニクに抱かれるのだぞ?

 お前はそのような事をさせたいのか?」


「嫌です!

 ぜったいに嫌です!

 ジュリアのような天使を、ドミニクの妻になどさせません」


「だったら決闘は全く逆効果だぞ」


「殿下がお考え下さい。

 ジュリアの名誉が守られて、ドミニクと決婚しなくていい方法。

 私がドミニクをぶち殺せる方法。

 恥をかかされて今も苦しんでいる令嬢方の、哀しみや苦しみを晴らしてあげられる方法を、殿下の知恵でお考えください!」


 兄上らしいですね。

 表面的には、わたくしの事で怒ってくださっていましたが、内心はドミニクに踏みつけにされた令嬢方の事も考えておられたのですね。

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