第22話

「おめでとうございます。

 これで目的は達成です。

 よく頑張りましたね。

 王族専用ダンジョンに一カ月間潜りっぱなしなんて、過去誰もいませんよ」


 ジルベスタ王太子殿下が、最初に心からの称賛の言葉をくれます。

 少々キザな言い回しに聞こえてしまいますが、言葉遣いと違って心根が優しく真面目な方なのは、肩を並べて戦い、時に命を預けて背中を任せた戦友ですから、もう十分理解しています。


「団長、おめでとうございます!

 これで団長も聖女になれます!」


 アンゲリカが心から褒めてくれています!

 心底うれしいです。

 限られたレベル、ノルマを達成した誉め言葉ではないのです。

 護るべき対象を労わる誉め言葉ではないのです。

 戦友として共に戦い、共に狩りに行く、同格のパーティーメンバーとして褒めてくれていると理解できます。

 これほどうれしいことはありません。


「本当に凄いよ、聖女オードリー。

 君の治癒魔法がなければ、負傷した者たちのために、王家の秘宝を使わなければいけないところだったよ。

 だがこれでこれからは楽ができるよ。

 ダンジョン主のドロップ品を手に入れた上に、それまでに手に入れたドロップ品を蓄えることができる」


 ランハルト第二王子が身勝手な言い方をします。

 まるでこれからずっと私がこのダンジョンを回るような言い方です。

 まさか本気ではないでしょうね?

 アンゲリカと私は、ジルべリア王家のダンジョン奴隷扱いなのですか?!


「それはこれからの話だよランハルト。

 王族会議であらゆる可能性を探り、国王陛下が裁可をくだされる。

 国王陛下の決定には、王太子の私であろうと異議は言えないのだ」


「分かっていますよ、兄上。

 私の考えは一面の利益だと言われるのでしょ?

 兄上には別の利益が見えておられる。

 でも兄上も、私に見えている利益を否定はされないのですよね?」


「ああ、認めるよ。

 分かりやすい利益だね。

 だがその利益を得るために失うモノも多い。

 ランハルトはその計算が甘すぎると思うよ」


「私には逆に思えますね。

 兄上は損害を高く見積もり過ぎです。

 そして目に見えない利益を高く評価し過ぎです」


 兄弟で口論を始めてしまいました。

 非常に気になります。

 アンゲリカと私の将来を決定する口論のようです。

 どう考えてもジルベスタ王太子殿下が勝ってくれないと、アンゲリカと私はダンジョン奴隷にされてしまいます。


 問題は話題に出た王族会議でしょうね。

 ここでジルベスタ王太子殿下が負ければ私たちはお終いです。

 今まで誰にも負けることがないと思っていたアンゲリカでも、正々堂々戦えばジルベスタ王太子殿下に負けると思います。

 ランハルト殿下や他の王族には勝てると思いますが、二人以上が相手だと確実に勝てるとは断言できません……

 


 

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