第13話

「今から話す事は、思いついた僕自身が、荒唐無稽でありえないと思うような内容なので、信じてもらえなくて当然だと思います。

 ですが、思いついた後で何度も考え直しても、他に可能性が思いつきません。

 この話をしないで、もしその通りの事が現実に起こっていて、団長や団員が殺されるような事があってはいけません。

 だから話させていただきます」


 クリスティアンが真剣な表情で切々と話します。

 いえ、真剣というよりも、不安と恐怖に顔が引き攣っていると言うべきでしょう。

 これから話す内容は、とんでもない事なのでしょう。

 団員たちも不安気な表情をしています。

 何時もと変わらないのはアンゲリカだけです。

 本当に頼もしい戦士です。

 アンゲリカが男だったらと、事あるごとに思ってしまいます。


「最初に大前提を話させていただきます。

 この国で王太子以上の権力者が誰かという事です。

 グレイスが籠絡できたら、王太子を斬り捨てる事のできる相手です」


「「「「「まさか!」」」」」


 私も頭に思い浮かべてしまいましたが、多くの団員も思い描いたようです。

 その驚きを全員が口にした訳ではありませんが、静まり返っていたこの場の、緊張した静寂を破るには十分な大きさでした。


「みなさんお気付きになられたようですね。

 そうです。

 国王です!

 グレイスが手に入れる事ができたら、王太子を切る捨てる事ができる相手。

 それは国王以外には存在しません。

 グレイスは国王を籠絡することに成功したのでしょう。

 しかも子種を宿すことにも成功したのでしょう。

 なんらかの方法、恐らく魔法で宿った子供が男なのも確認したのでしょう。

 だから王太子を捨て駒にしたのです。

 王太子が団長を殺してもよし、団長に返り討ちになってもよし、どちらにしても国王が後ろ盾についているのです。

 何の心配もないでしょう」


 私は呆然自失に陥ってしまいました。

 多くの団員も同じでした。

 なにも考えられず、何もできない状態でした。

 恐ろし過ぎます。

 権力を手に入れるために、国王と王太子、父子を同時に誘惑していたのです。

 しかも同時に肉体関係を持っていたのです。

 少なくとも国王はその事を知ったうえでです。

 私たちが思考停止になるのも仕方ないことだと思います。


「クリスティアン。

 そこまで想像していたのなら、この後の事も考えているのか?

 どうなると考えている?」


 アンゲリカは全然動揺していません。

 もう次の事を考えてくれています。

 なんと頼もし事でしょう。


「恐らく、国王は団長以下私たちを皆殺しにするつもりです。

 団長が王太子糾弾の使者をお送るのを、いえ、団長自身が王宮に王太子糾弾に訪れるのを、手ぐすねを引いて待ち構えているはずです」

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