第76話 勇者のやる事ではない

「エルフィア王家は滅んでおったのじゃな。良い人達だったのじゃが……」


マリア姫がショックを受けた様子で言う。


「隠れ家の場所は、我が王家にも伝わっています。まずはそこを調べてみますか?」


「そうだな。何か手掛かりが残っているかも知れない」


エメラルドの提案に頷く。


さて、久々の街か。

少しくらい羽を伸ばしても良いのだろうか。


--


「勇者様、是非うちに寄って下さい!」

「勇者様、これは我が家に伝わる伝説の武具……是非受け取って下さい!」

「勇者様、うちの自慢の料理を召し上がって下さい!」


歓迎、勇者様


そう書かれた看板が掲げられ。


涙を流して駆け寄ってくる者までいる。


……どういう事だ?


「妾の姿ならともかく、何故ホダカ殿の事が……?」


マリア姫が怪訝な声で呻く。


「以前神託はありましたが、我が国でも、そこまで勇者様歓迎という訳では無かったのですが……そもそも、ホダカと勇者をどうして結びつけられているのか……」


エメラルドが小首を傾げ。


「ゆーしゃさま!わちしのはじめて、もらってください!」


女の子が駆け寄ってくる。

初めての何だよ。


「あの……勇者様ですよね。もう今夜の宿はお決まりですか?」


可愛らしい女性が、話しかけてくる。


「いや、まだ街についたばかりで」


「なら、今夜は私の宿に泊まって下さい。勿論、お金は結構です」


俺は、エメラルド、マリア姫と視線を交わし、


「宿屋は探していたから、世話になろうかな。ただ、お金は払うぞ」


別にお金に困ってはいないしな。

勿論、ぼったくられたら困るが。


女性の経営する宿屋……正確には、女性の両親が経営する宿屋は、すぐ近くだった。


真新しくは無いが、小綺麗で温かみのある宿屋。

今晩はゆっくりできそうだ。

……野宿は嫌いなんだよ。


「さっそくで悪いですが、何か出して頂けますか?」


エメラルドが尋ね、


「えっと……お金とか宝石とかでしょうか?」


「おかしいのじゃ。温かい食事を出して欲しいのじゃ」


女性のボケに、マリア姫が突っ込む。


出てきた料理に舌鼓。

エメラルドの料理は絶品だが、こういう所で食べる食事もまた格別。


「少し早いが、今日はもう休ませて貰おうか?」

「はい、そうしましょう」

「嬉しいのじゃ」


日は高いが、たまにはのんびりしたい。

エメラルドとマリア姫も疲れているようだ。


「あの……勇者様」


女性が上目遣いにこちらを見て、


「すみません、相談したい事がありまして……少しお時間を頂けますか?」


「ああ、構わないが」


ああ……ふかふかのお布団……


俺はエメラルド、マリア姫を見て、


「2人は先に休んでおいてくれ」


「ん……分かりました」

「分かったのじゃ」


さて。

さっさと用事を終わらせて、俺もお布団と仲良くしよう。


--


歓迎的なムードの中、俺は女性と連れ立って歩き。

何処に行くんだ?


まあ。


薄々、予感がしてきた。


何かがある。

何というか……そもそも、俺が勇者だとばれている、そこから……災厄の企みに落ちているんじゃ無いかと。


酷い臭いが漂う家。

女性の案内で家の中に入り。


家の中では、男性を女性が滅多刺しにしている所だった。

うおうい。


殺人鬼は俺を見ると、


「夫の目の前で私を強姦、夫を殺害し……あまつさえ、財産を差し出させる……それが勇者のやる事ですか?」


勇者のやる事ではないが、そもそもやってないし、夫?を殺したのはお前だ。


殺人鬼は、自らの服を破りつつ、尚も怨嗟の声を上げ。

俺は家の外へと逃げ出し。

そして、最悪のタイミングでエメラルドとマリア姫に。


そして──


「ブラッディムーン!」


マリア姫の魔法が発動。

周囲の住民の意識を刈り取る。


おっと、俺が対象じゃなかった。

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