第74話 無力なる弱者

「さて、知識の番人よ。次の問題を出すが良い。それがお主の遺言となろう」


……くそ……


「……第二問……」


息も絶え絶えに、スフィンクスが告げる。


くすり


パイロが冷笑する。


「円周率を全桁、10秒以内に言え」


3.14だあああああああ!

やばい、本当に難しい問題使い果たしてやがる。

小学生でもできるぞ。


「な……ふざけるな!」


パイロが叫び、


ゴウッ


パイロに光が降り注ぐ。


ダメージが通った?!


簡単な問題を間違えたから、それにより引き起こされる果は膨大で……

パイロの無敵装甲すら貫いたと言う事か!


「おやあ、どうした、全知なる者よ。我の遺言となるのでは無かったのか?」


「おのれ……許さん……神聖なる問答を汚すとは……問おう、知識の神よ!今の問答に不正は有りや無しや?!」


パイロが天を仰いで叫び──


「答えよう、不正などは無い」


スフィンクスが告げ、パイロに前足パンチを喰らわせる。


「お主には聞いておらん?!」


吹き飛ぶパイロ。


やりたい放題。


「円周率って何でしょうか……?」

「分からぬ……」


エメラルドとマリア姫が語り合う。

あ、この世界、円周率発見されてない?


「第三問」


「ま、待て……」


パイロが止めようとして。


「答えは簡単なり。一足すな、一は?」


パイロがふるふる……と震えて、


「……簡単か、2か、1か、田じゃ」


いや、2だよ。


ゴウッ


パイロに再び光が降り注ぐ。


「答えは当然2であるが、それ以外にも誤った答えを混ぜたので、運命の罰ゲームを受けよ」


ゴウッ

ゴウッ


やがて、降り注ぐ光が収まった時には。

パイロは、消し炭となっていた。


……パイロ、一周回ってバカだったようだ。

威力は高い罠だが、問題がアレ過ぎて、使い物にならん。

やっぱりこの罠は今後封印だな……


「……か、勝ったのですか……?」


エメラルドが、呆然と呟く。


「何だかしっくり来ない終わり方じゃな……?」


マリアも小首を傾げ。


だが、俺は勝利の余韻に浸る事はできなかった。


--


夜。


人心地ついた顔でくっついてくるエメラルド。

俺の険しい顔を見て、きょとんとして、


「どうしたのですか、ホダカ。何か悩み事でもあるのでしょうか?」


「ああ、今日の、パイロとの事でな」


「厳しい相手じゃったが……何とか倒せたのじゃ。今は少しくらい、気を緩めても良いと思うのじゃ?」


俺はパイロとの戦闘で無力さを痛感して……といった話では無い。


俺は、気付いたんだ。

この世界の理由に。


パイロが言っていた事、あれは本当なんだと思う。


此処は、性悪女神が悲劇を鑑賞する為に作った箱庭。

どうすれば悲劇となるかの実験場。


そして。


いくら悲劇を上演しても、観客がいなければ意味がない。

鑑賞して……そして、それを記憶に留めたまま、日常へと帰り、生きていく。

そんな観客が。


ただ、1つだけパイロが間違っていた事。

安全装置は、パイロでは無い。

パイロは、超える事が可能な壁。


なら、安全装置は誰か。


当然。


7体目の災厄、無力なる弱者ルシファー。


その考えを、エメラルド達に話すと。


「え、ルシファーは大丈夫ですよ」

「そうじゃ、ルシファーは対抗策すら不要な、災厄の中に含めるもおこがましい相手……警戒する必要はないのじゃ」


「だから怪しいんだよ」


そう。

こいつだけ、称号が弱そう。

みんなから弱い、弱い、って言われている。


で、実は最強。

勝利の音楽が流れている状況で、圧倒的な力の前に敗北……うん、実に悲劇的な話だ。


一点だけ解せないのは。


観客として配置された俺は……この名前を知っている。

最強の存在。

名前を聞いただけで警戒するのに……何故、この名前を与えた?


想像はつく。


他の名前は、良く分からない名前……つまり、適当に性悪女神が作った存在だろう。

最後の存在は、正に神魔……他の世界から連れてきた、ゲスト的な存在。

まあ、勝てない。


「ホダカがそう言うのなら……信じます」


エメラルドが真剣な面持ちで言う。


「妾も、当然、信じるのじゃ」


マリア姫も、頷く。


そう、勝利の余韻に浮かれる事など、できない。

残り3枚のカード。

その中に混じった、ジョーカー。


これは。


ジョーカーを引くまで、何とか足掻く……そんなゲーム。

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