第39話 悲劇を鑑賞する為の箱庭

「おはよう、ホダカ」


朝……には程遠い、昼下り。

既に身だしなみを整えたエメラルドが、近寄ってくる。


「おはようエメラルド。早いね」


「ホダカはまた徹夜ですか?ほどほどにしないと……」


「あと2日……もっと、もっと強くならないと……」


初日。

探索中。


あっさり闇堕ちさせられかけた。

当時理性を失っていたキース君……彼の魔素は極めて強く、耐性ポーションを追加でがぶ飲みさせられた。

まあ、おかげで聖鎧スキルが凄く上がったんだけど。


エメラルドが運んでくれた、遅めの朝食を食べ、


「ホダカ、昨日言ってた通り、色々情報収集をしてみました」


「ほう」


エメラルドは溜め息をつくと、語り出した。


「そう多くは分かりませんでした。不明……それが、多用され……恐らくは……」


「災厄、だな」


そもそも、災厄の存在を知らないのだ。

眼の前の事象と結びつけはしないだろう。

まあ、システムメッセージのフレーバーテキストで名前だけは出ているけれど。


エメラルドは、こくりと頷くと、


「突如、王都は死の都となり。アンデッドの群れはそのまま他の都市へ……衛星都市は全て全滅……異変に気付いて逃げ出した辺境都市の住民が、生き証人……」


まあ、あの物量で襲われればね。


「あとは、聖職者が集まり、少しずつ、少しずつ、浄化を進めています。一応、ホーリーシェルターは点在、王都の傍にも有るので……ホーリーシェルターを伝って王都に近づき、昼の間を中心に探索……それしかなさそうですね」


「なるほど……」


「私が得られた情報は、そのくらいです。ホダカは、調整、してるのですよね。あと2日……明後日の出発で大丈夫ですか?」


「ああ、問題無い。うまく仕上がってきた」


肩にでっかい十字架乗っけてんのかい、的な。


「それと、俺の方でも情報は得られたから、共有しておく」


「はい」


まあ、システムから聞いた内容そのままなんだが。


オラリドゥの暗躍、20年かけた儀式。

王女、マリアの吸血鬼化。

本来、正義感と慈愛に溢れ、聖女と呼ばれていたが……美しい歌で多くの人を救ったその口で、次々と人々の魂を汚し……


力の強い王族、貴族からは、上位アンデッドが生まれ。

初夜で、王城は滅びた。

次の夜、王都は滅びた。

次の夜、衛星都市が滅びた。

次の夜、辺境都市が滅びた。


聖王国オランディは。

4日目の朝、死都となった。


聖者や、聖騎士が集いし国。

病気や、その死者の徘徊など、とるに足らぬ事。


最悪の悪夢、ヴァンパイアクイーンのマリア。

それが、全ての滅びをもたらした。


溢れる死者は。


ある者は流水に阻まれ。

ある者は招かれざる地に入れず。

ある者は聖職者の結界に阻まれ。


一国が滅びるだけで済んだのは、僥倖。


俺が語り終えると、エメラルドは悲痛な表情で、


「そんな……マリア……あの子が……」


「友達か?」


「いえ……友人という関係ではありません。ただ、隣国の王族、近い歳……それなりに交流はありました。命を落としているのは覚悟していましたが、まさか魂を汚され、その手を血に染めていたとは……本当に、優しい子だったのに……」


「普通に滅ぼした方が楽に滅ぼせるだろうに。わざわざ胸クソ悪い謀略を巡らせ、絶望的な滅びをもたらす……災厄とやらも、神とやらも、つくづく性根が腐っているな」


「はい……」


<称号『ちょっと聞きました奥さん』を獲得しました[1]>

<称号『この人間、同意した……神の性根が腐っているに同意しましたよ?』を獲得しました[1]>


性根が腐っているからな。

災厄を世界に組み込んだのも、ホイホイ復活させてのさばらせているのも。


まるでこれでは……悲劇を鑑賞する為の箱庭のようじゃないか。


<称号『タイトル回収来たあああああ』を獲得しました[1]>


何の話?!

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