02 群狼シリウスと見えない剣の人
《群狼シリウス》、その威圧感はちょっとやめてほしいくらいにはしんどい。重いんだよ空気が。
「来たぞ、群狼だ! 前線部隊、命を燃やせ! 伝令は中央騎士団に連絡を! 今日はウチが当たりだ!」
その声と同時に、戦士達は己の武器に何かを込めていた。
それと同時に、武器の存在感が変わった。オーラ的なものが見えるのならば多分炎のように燃えているのだろう。まぁ自分には見えないのだが。
さて、自分にはなにができるだろうか。
狼の死体は血を残して消えている。あの群狼の素材になったのだろう。
そして、あの高さ3メートルサイズのスーパー狼に対して空手空拳でどうにかできるとは思えない。ひたすらにローキックで足止めでもしようかと迷うが、まぁ効かないだろう。
せめて剣でもあればいいのだが。
そうして前線部隊と群狼が交戦を始める。
群狼は、凄まじい速さと攻撃の際に
アレ、攻撃の瞬間に分裂したか?
『はい。私にもそう見えました』
だが、兵士たちは死ぬ前にボロボロの体で群狼に一太刀を入れていた。それは微かな傷でしかないが、それでも誇り高いものに思えた。
「騎士団が来るまで死守するぞ! 命を惜しむな! 一瞬でも奴を止めろ!」
……あー、こういうのに弱いんだよなぁ畜生! ゲームで熱くならないでどうすんだ! 馬鹿になってくぜ!
『ではどうするので?』
デスペナ上等! 特攻さ!
まず、状況を確認。先程喰われた戦士達の剣は存在感を放っている。アレは多分俺でも触れることができるだろう。
だから、アレを回収するのが大前提。それを使って肉壁をすれば多少の時間は稼げるだろう。
だから、最短で走り込む。
戦士達は狼の速度に目が慣れたのか攻撃の的にされても数合打ち合えている。ブレる攻撃には対応できていないが、それは近くの仲間が対応している。本当に歴戦の戦士たちだ。
だが、目に見えて練度に差がある。後方の方の戦士達は目に見えて臆している。それもそうだろう。あの威圧感は並みのものじゃない。
けれども、武器を落としている者は誰もいない。恐怖に震えていても、戦う意志だけは消えていない。
本当に、俺のツボを突いてくるなこのゲーム!
そうして、落ちている剣を拾って群狼を斬りつける。
不思議と、力が湧いてくる。肉体的なものでなく、精神的な温かいものが。
これがきっと剣に込めていた魂的なものなのだろう。
「剣が勝手に動いている⁉︎」
「奴を攻撃してるならなんでもいい! 詳しくはコイツを撃退したからだ!」
「だな!」
剣を手に入れた事で、俺には攻撃力が手に入った。
これならば、群狼に嫌がらせするくらいはできるだろう。
対モンスター用の剣術はまだまだ未熟だが、基本は変わらない。
避けて、切ればいいのだ。
群狼の前足を狙って一閃を放つ。皮膚は硬く、通りは浅い。だが、通らない訳じゃない。
その剣を追いかけてか戦士達が足への攻撃を重ねてくる。だがやはり浅く、群狼の動きに支障は見えない。
そして、その反撃にブレての噛みつきを放ってくる。今度はしっかりと見えた。口の数は3つ。最初の反撃を警戒してか、確実に命を断てるように俺たちの頭を狙っていた。
しかし、それは読めていた。だから俺は剣を持ったまま一回転し、俺の首を狙う狼に合わせて上段切りを叩き込んだ。
その剣は群狼の一体にジャストミートし、そのまま脳の辺りまで切り裂いた。しかし、そこまでだ。
剣を体で止められた感覚がした瞬間に、即座に剣を離して横に飛ぶ。
すると先ほどまで自分がいた所ならおおよそ25匹の狼による噛みつきの嵐が放たれ、空間を抉り喰われていた。
いや、そのスピードは生物としてどうなんだよオイ。というか空間を食うな。冗談抜きに風で引っ張られんだよ。
だが、どうにか踏ん張れた自分は即座に離脱。最初に喰われた戦士さんの剣を再び拾い構える。どうにも感触が違うが、この剣にもオーラ的なのが籠もっている。それも、先ほどよりしっくりくる感じのが。
相性とか属性とかだろうか?
「……剣の人! 次からは俺が投げます! 前で集中してて下さい! いや、人かどうかは知りませんけど!」
『これは嬉しい声援ですね』
本当だ。喋れるならば応! と答えたいところだが声は響かない。なのでせいぜい体で頑張るとしよう。
そうして群狼を見てみると、先程のカウンターで殺せたと思わしき狼が1匹捨てられている。体から切り離されたのだろう。
つまりコイツには、反撃などに使う狼を殺せば大ダメージを与えられるのだろうか。流石に学習するタイプの奴だろうから二度目はそう簡単には通じないだろうが。
そうして、俺とベテラン戦士3人で前線を作りながら時間を稼ぐ。
その姿を見て本来の動きを取り戻したのか、中衛の戦士達も援護に入ってきてくれる。特に盾の人と弓の人が特にいぶし銀な感じだ。
だが、それが逆に群狼の危機感を煽ったのだろう。奴は大きく飛び退いて。20匹の狼へと姿を変えた。
リーダー個体のようなものはなく、どれも姿は一緒だ。
そして、そのスピードは大きかった頃と対して変わらないッ⁉︎
「防衛ラインを下げろ! 連中に足を使わせるな!」
そんな声を上げた指揮官は、3方から一斉に飛びかかってくる狼のブレる噛みつきによりその体を食いちぎられた。
それに遅れて反応して剣を振るった護衛達は、回避してからのブレる噛みつきにより命を落とした。
「クソ、抜かれた!」
「体勢を立て直す! 全班作戦通りに!」
そうして、各グループに一人ずつ殿を置いて戦士達は引いていく。島津かこの連中は畜生! 捨て奸かよ!
「剣の方! 我々も殿に! 連携を取って被害を最小限に!」
覚悟ガンギマリだなぁもう! 率先して逃げる奴より好きだけどさ!
『疑問、マスターもそちら側なのでは?』
いや俺は割とノリで動いてるだけだし。
殿をしている戦士に襲いかかる狼達、彼らも奮闘しているが速さと攻撃のスピードは如何ともし難いようで、徐々に傷を負い押されていた。
それでも、誰一人として逃げ出す者は居なかったが。
『マスター、殿の彼らの奮戦にて新たなデータを確認。分裂した群狼の耐久力は低下しています』
つまり、分裂してる今はチャンスってことか!
『はい』
ならば突くさ! その弱点!
そうして殿に襲いかかっている狼の首を狙って一太刀入れようとする。
それを見た殿の人は、その体を持って狼を拘束した。それは一瞬で振り払われてしまったが、その一瞬で剣は届いた。
『まず、20分の1ですね』
瞬間爆ぜる群狼。中身は狼の群れだったもの。同じく首を落とされた狼が約50匹。つまりシンプルに考えると1000匹の狼が合体したのだろう。いやそんないなかったろこの平原には! どっから取り寄せて来た!
『推定、合体する前の狼がそもそも何匹分かの狼だったのでは?』
かもな。まぁ何にせよ狼狩りだ。分裂した事で奴らは弱体化した。
被害の出ないようにしっかりと殺させて貰おう。
だが、先ほどまで最前線にいた自分たちに向けられた狼は五体。向こうの一足の射程で、俺たちが本陣に戻るのを妨げている。
「クッ、我々を押し留める気か!」
「んー、矢を見てから避けられる距離に居るよ連中。しんどいッね!」
「ならば俺が切り開こう。盾はここにあるのだから」
そうして突出する盾の人。その後ろについて走り出す皆。
先頭の狼はさらに分裂し、5匹になる事で盾の人のカバー範囲を潜ろうとした。しかも、弓矢の人の射線を人で隠すようにして。
「……ここが切り時か。
瞬間、盾の人の存在感が爆発する。
それはまるで、命を燃やす炎のようだった。
盾の人はその存在感のままに、大盾で狼を薙ぎ払う。それはクリーンヒットであるようには見えなかったが、しかし盾に触れた狼を
その原理はわからないが、狼は死んだ。これで2/20。
「……ロックス、防御任せるよ!
「今だ、突っ込め!」
そして、狼が怯んだ隙に放たれる連射。その速度はこれまでの矢よりも速く、狼は回避しきることはできていなかった。それによって両翼に広がっていた狼は動きを制限され、道ができた。
この道を作った、二人の大きな消耗と共に。
瞬間、躊躇う。この二人を置いて行って良いのだろうかと。あの存在感はとても薄れている。戦う力も相応に低くなっているのだろうと分かったからだ。
しかし、その躊躇いは見抜かれていたようだ。命をかけた二人には。
「行って剣の人! 君の目的は知らないけど、君が守る側の人である事を信じてる!」
「俺たちは、ここで命を燃やし切る!」
そして、近接戦闘に移行する二人。その動きは鋭くはなかったが、それでも気迫は凄まじかった。
だから、信じた。
彼らに襲いかかる狼は多い。そう遠くなく死ぬだろう。
だから、俺の選ぶべき最適なルートはただ一つ!
道を切り開いて取って返して二人を助ける!
『無茶が過ぎると思いますけれど』
ゲームなんだから、無茶も馬鹿も上等よぉ!
『では、お好きなように』
……アドバイスとかくれても良いのよ?
『では、寄って切って下さい』
何て的確なアドバイスなんだ! まぁ考えるより剣を振るった方が早いし、ね!
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