第4話後編.決められた運命に逆らって - 3
「おねーちゃんの言ったとおりになっちゃった……」
そう呟きながら、つきねは神社の階段をゆっくり降りていく。
父のビールをここねに飲ませたら呪いが消えたりしないか——と考えなかったわけではないが、つきねはこのアイデアは不採用にする。
「ダメだった時、大変だもんね……」
停めてある自転車のところに向かおうとしたつきねの目に意外な人物が映った。
響かさねだ。
「奇遇だね、かさねちゃん。家、この近くなの?」
偶然こんな場所で会うとは思えず、つきねはそう尋ねた。
「いや、あー。そうだな。つきねこそ何してる?」
かさねはじっと見つめてくる。
何かを咎められいるわけでもないのに、つきねはドキッとする。
「なんていうか……ちょっと神頼みにね」
「神頼み? そんなもの……意味ないぞ」
つきねはその明け透けな物言いに目を瞬かせた。
「そう言うなら神様の代わりに相談に乗ってくれないかな? ちょっとでいいから」
年下と思われる少女にこんなお願いをするのは格好悪いが、誰かに話を聞いてほしかった。
「役に立てるか分からないけど……。つきねは悩んでるの?」
つきねは大事な姉とケンカしたこと。姉のために行動を起こしたいけれど、それで傷つけてしまうかもしれないこと——など、ここ数日ずっと考えていたことを話した。もちろん「鬼」や呪いに関しては、一切触れずに。
「おねーちゃんのことを助けてあげたいと思って、やったことでも……」
自信がなくて、つきねは一度言葉を切る。
「もし本人が望んでなかったら……その行動は自分勝手で、悪いことなのかな?」
本当にここねを助けたいなら方法は一つしかない、とつきねも薄々は気づいている。
かさねは軽く握った拳を口元にあて、思案している。その伏し目がちな表情は外見に反して、大人びて見えた。
「本当に大事なら、後で悔いないようにするしかないと思う」
肯定でも否定でもない。しかし、つきねには有難い援軍だ。
「ありがとう。いきなり変な相談に乗ってくれて」
「思ったことを言っただけ。どうなるかは知らない」
ぶっきらぼうに言うその様子は子供っぽくて、微笑ましくなる。
「それじゃあ。用が済んだから行く」
「あ、ごめんね。呼び止めちゃって」
「気にしないで」
かさねは背を向け、歩き去っていく。つきねは送って行こうとも思ったが、家もこの近くだと言っていたので我慢した。お節介が過ぎる。
しばらくして、つきねはうるさいセミの声が戻ってきたことに気づいた。
つきねは一度石の鳥居があった方を振り返る。
「お守りは、もう買わなくていいもんね」
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