第4話後編.決められた運命に逆らって - 2
小さな神社だが、周囲一帯には木々がまだ多く残り、「ミーンミーン……」と複数のセミの鳴き声が聞こえてくる。今年になって、初めて耳にしたかもしれない。
つきねは鳥居や参道につながる道の脇にある駐輪スペースらしき場所に自転車を停めた。神社や寺院は、やはり他の場所とは違う雰囲気がある。
緩やかな傾斜をのぼっていくつきね。都心にほど近い土地柄のため、遠くに高層マンションが立ち並んでいるのがここからでも見える。
淡い期待だったが、参道の階段を踏みしめる度に高まっていく。
階段を上り切り、つきねは鳥居をくぐる。それほど大きくはないが、石で造られた鳥居だ。上の方には「鬼酒神社」とある。
社務所に出向き、つきねが自分の名を告げると、この神社の娘だという大学生の巫女がにこやかに対応してくれた。
何日も前に「神社と鬼の姉妹の伝承」について知りたいと連絡をしていたのが功を奏したのかもしれない。普段は社務所にも人がいない時のほうが多いようだ。
話は美癸恋[ルビ:みきこい]町がはるか昔は『見鬼囲』と呼ばれていたところから始まり、この神社の名前にも触れられた。その名にある鬼とはまさしくお伽噺に出てくる鬼の親子であるという。当時の価値観・常識では仕方のないことだったとはいえ、鬼の血を引く家族たちにひどい仕打ちをして、死に追いやった。
その結果、若い姉妹ばかりが奇妙な病で命を落とすようになった。
これを鬼の恨み——呪いのせいだと考えた村人たちが怒りを鎮めてもらうため、酒を奉納するようになったのがこの神社の起こり。
だから、この神社では神様ではなく鬼に酒を供えているのだという。
鬼の子供が酒をもらって喜ぶのか疑問だったが、つきねに重要なのはその点ではない。
「あの! お酒を飲むと、鬼の呪いは解けたりするんですか?」
気が逸るつきねは、一足飛びに質問をしていた。巫女の女性は驚いていたが、この町で発生した『死』の呪いと呼ばれた流行り病だと気づいたのか「よく勉強してますね」とつきねを褒めた。ただ、効果があったかについては首を横に振った。
伝わっている『死』の呪いは何世代に渡り、町の記録に残っているからと。
聞いてみたところ、古いと言っても鬼の姉妹の伝承が生まれてから、だいぶ後に建立されたらしい。病に苦しみ怯える人々の慰めるためという理由も大きかったらしい。
そして、肝心の呪いについての対処方は、見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます