第2話後編.決意宿る瞳 - 4

「今晩、満月なのかな?」

 夜空を見上げながら、ここねの少し前を歩くつきねが呟いた。

 今いる公園内——目の届く範囲には二人の他に誰もいないけれど、時おり遠くから自動車が走る騒音が聞こえてくる。

「んー、そうかも」

 ここねが今朝話題に上がった春の流星群を見ようと、つきねを誘い出したのだ。

 春と言っても夜はまだ気温が低い。つきねには暖かい恰好をさせている。

「この感じ、なんだか小さい頃お母さんに黙って遊びに行った時に似てるね」

「帰ったらすごく怒られて、次の日オヤツ抜きだった」

 うんうんとつきねが頷いている。

「今回も怒られるよ、たぶん」

「それはバレる前に帰れば。そんな遠くじゃないし?」

 ちょっとした高台があるこの公園は、鈴代家がある住宅街の近くにある。

「おねーちゃん。この辺にする?」

 近くにベンチもあるが、ここねたちは立ったまま流星を待つことにした。

「うん。テレビで見た感じだと、そんないっぱい流れるわけじゃないし気は抜けないね」

 高台を風が吹き抜ける。雲もなく、流星を見つけるには好条件と言えるはずだ。

 ここねはつきねと、夜空を見上げた。

 しばらく眺めていると、一条の星が視界を横切る。

「あっ! 始まった!」

 咄嗟にここねが指をさす。

「おねーちゃん、願い事は決まってる?」

「もちろん!」

 その瞬間——夜空に明るい光が走り抜ける。ここねたちは祈るように手を組む。

(ここねからあの呪いを取り除けますように……! 私がつきねを守れますように!)

 ここねの願いは星に届いただろうか。

「つきねはどんなお願いをした?」

「おねーちゃんといっぱい楽しいことしたいって。歌をやりたいよ」

「そんなお願いなら、私が叶えてあげる。これから何度だって。——ずっと一緒なんだから」

 ここねは嘘をつく。

「まず、つきねは病気を治さないとね」

 音楽は——歌手はここねにとって叶えたい夢だ。

 しかし、自分の夢と命を引き換えにしてでも、つきねの心臓から呪いを奪い去るとここねは決めたのだから。

 ここねがつきねに一歩近づく。

「おねーちゃん?」

 ——すると、世界から切り取られたかのような感覚に囚われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る