第1話前編.クローバーに約束を - 7

 すぐ側につきねが立っていた。つきねも一瞬少し驚いた表情を浮かべていたが、

「卒業おめでとう、おねーちゃん」

「ありがとう~! 本日鈴代ここねは中学校を卒業しちゃいました~!」

 元気いっぱいな感じで応じると、ここねは疑問を口にした。

「でも、どうしてこんなところにいるの? つきねの教室こっちじゃないでしょ?」

「なんとなくだけど、こうしてたらおねーちゃんに会える気がして」

「ふふ、何それ? 普通教室に来ない?」

 偶然会えて、ここねはなんだか楽しい気分になっていた。

「そうだけど、こうして会っちゃってるし……それにね」

「ん?」

「教室に行ったら、まね先輩たちいると思って。おねーちゃんに……伝えたいことがあるから」

 つきねが真剣な面持ちでここねの瞳を見つめてくる。

 真摯な眼差しと緊張で微かに震えた声が漂わせるこの雰囲気に、ここねは既視感があった。

 以前に告白してきた同学年の男子と同じだ。そんな気がした。

「待っ……つき――」

「毎日、起こしてくれてありがとう」

 つきねが言葉を続ける。


「毎朝、髪の毛きれいに編んでくれてありがとう」

 もう一つ言葉が重なる。

「いつもどんな時でも、つきねの味方してくれて……ありがとう」

 それはどれも姉であるここねにとっては当たり前のことだ。

 しかし、つきねにとってはとても大切なことであるかのように。

「…………」

「いきなりでビックリしたよね。でも、絶対伝えたくて。家だと恥ずかしくて言えない気がしたから……」

 照れくさそうに一度視線をそらすつきねだが、またすぐ笑顔を向けてくる。

「高校生になったら、おねーちゃんには夢に向かって頑張ってほしいんだ。一緒の時間は減っちゃうと思うけど……つきねは大丈夫だから!」

 ここねの歌手になるという夢を応援してくれる。そのために軽音楽部を作って活動するというここねの目的をつきねは誰よりも知っているから。

 嬉しい。大好きなつきねが後押ししてくれる。

 絶対に夢を叶えたい。

 それでも――

「おねーちゃん?」

 ここねは思ってしまった。


 ――つきねとずっと一緒にいたい。

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