第1話前編.クローバーに約束を - 2

 目を覚ますと、ここねは自室のベッドの中だった。

 青々と一面に茂る白詰草も温かな陽だまりもなかった。あるのは自分の体温のぬくもりだけだ。

「真実の愛……かぁ」

 ここねはまだ知らない気がする。歌詞でよく見かける言葉ではある。

 興味はあるし、学校の男子から告白を受けたこともあるけれど、恋人がいたことはない。

(いつか私も……好きな人ができたらわかるのかな? キスしたりして……)

 ふと自分の唇に指先をあてて、ここねは気づく。朝から何だか恥ずかしいことを考えている。あの夢のせいだ。

「だいたい私には最愛の妹がいるから、真実の愛もばっちり知ってる知ってるっ!」

 声に出して意識を無理やり切り替えると、ここねは枕元に置いたスマホを手に取った。

 三月九日。

 今日はここねの中学校の卒業式だ。

 時刻はあと少しで六時半。アラームが鳴るより早い。もしかしたら気づかないうちに緊張しているのかもしれない。

「寒……」

 ベッドから出ると思わず声が出た。春だというのに朝はまだまだ寒い。

「さて、お寝坊さんの妹を起こしに行きますかー」

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