月ノ心ニ音、累ナル。

ココツキプロジェクト

第1話前編.クローバーに約束を - 1

  窓の外には白い月が浮かんでいた。

 まん丸のお月さま。普通の満月。

 平穏に暮らしていけば、これからも数えきれないくらい見ることができるはずだ。


 視線を落とすと、鈴代ここねの手には開いたままの日記帳がある。

 以前書いていたここねの日記。小さな鍵がついていて、昔ながらの鍵穴に差し込むタイプだ。

 パラパラとめくってみると、たくさん書いてある日と少ししか書いてない日がある。日記をつけなかった日もあったりして、たまに日付が飛んでいる。

「つき」という文字がやたらと目に付くのは仕方ないことだと、ここねは諦める。

 もとよりプライベートなものだ。好きに書けばいいし、その時々に思ったことを書き残しただけだ。


 ここねは大丈夫だと分かっていながら、もう一度窓の外を見る。

 さきほどと変わらず、黒い夜空に白い月が一つ。

 部屋の電灯を消せば、きっと柔らかい光が差し込むことだろう。

 ここねが日記帳を閉じた。


 ……もうあの紅い月を見ることはないのだから。


 ◇              ◇


 春のような陽気の中、河原で鈴代ここねは妹のつきねと四つ葉のクローバーを探していた。

 どうしてだか理由もはっきりしない。

 つきねは地面を覆うほど群生する白詰草を真剣に睨んでいる。見つけた者に幸福をもたらすと言われるクローバーを見つけるために。

 その真剣な顔すら愛おしく思い、ここねは我がことながら姉バカを痛感する。

「……なかなか見つからないね」

「そ、そだねー……」

 何となくつきねの顔を見てたから探してないとは言えず、ここねは下を向いて探す振りをした。

「おねーちゃんは四葉のクローバーの花言葉って知ってる?」

「幸運とか、ラッキーとかそんな感じ?」

 ラッキーアイテム的なイメージから、ここねはそう答える。

 すると、つきねは珍しく悪戯っ子っぽく微笑んだ。

「ぶぶー。おねーちゃんハズレ」

「花言葉とか詳しくないしー」

 つきねは大事な秘密を教えてくれるかのように、そっと告げた。

「正解は……『真実の愛』なんだって」

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