第87話 渡りに船

 毎日、この三年余りの間に知り合った人のところへ立候補の挨拶に回り、政治への思いを語った。

 生協に勤める友人に選挙の状況を話し、店を出ると、携帯電話が鳴った。田村係長からだった。

「大丈夫? 運動は進んでるん? 相手は坪田さんやし、有名やで、しっかりがんばらなあかんよ」

 今回戦う相手は青年会議所のOGであり、建築家としてさまざまなまちづくりの活動に参加している。また、志学館まちづくり学科の受講生でもある。

「二人とも志学館の仲間やで迷うんやけど、倉知さんは先に挨拶に来てくれたで、やっぱり私は倉知さんを応援してるでの。がんばってや」

「挨拶には回っているんですが、選対を作るのに、どうしても町内のお年寄りが中心になってしまって。少し輪を広げたいのですが、どうしたらいいのか…、困っているんです」

「倉知さん、市長と仲良いんやろ。一回市長に相談してみたら。市長選はないって噂やし。市議時代から何回も選挙やってきてるから、選挙戦の上手い人もいるはずやで、力貸してもろたら」

 その二日後、自宅に市長から電話が入った。

「どうや、がんばってるか。一度会わんか」

 渡りに船だった。翌日二時に、市長室を訪ねることとなった。もちろん、協力を仰ぐつもりである。

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