第53話 星天堂祭り

 清々しい晴天に恵まれた十月の祝日、第一回の星天堂祭りが行われた。

 星野川の中心にある城山の緑が、爽やかな秋風に吹かれ、優しい葉ずれの音を奏でている。

 城山の頂きに聳える星野川城を見上げるようにして、山すその城門のそばに星天堂が建つ。明治初期に建てられた星天堂本店は、赤瓦の屋根と白亜の壁が美しい木造の洋館である。そのモダンな佇まいには、星野川藩に培われた進取の精神が今も息づいている。

 僕が株主となっている星天堂事業は、市長に宛てた一通の手紙から始まった。

 星野川市役所や図書館には、『市長への手紙』という投書箱が置かれている。そこに寄せられた一般市民からの提案が採用されて、現在の星天堂事業が形作られた。その内容というのが、全国各地の星野姓の人たちとの交流を通じて、日本中へ星野川市をPRするとともに、実際に足を運んで観光してもらうというものであった。

 星野川市の観光課は、交流から生まれる観光客をもてなすために、第三セクターである株式会社星天堂を作り、特産品を扱う店と郷土料理のレストランを設けた。そして全国から応募があった四十人余りの星野さんを星天堂の「支店主」に任命し、その支店主を迎えるホスト役として、「番頭」と称する十人の市民ボランティアを用意した。このメンバーが、星天堂事業の活動の基盤となっている。

 今日の星天堂祭りに、二十人に近い支店主が全国から集まって来ていた。祭りの進行と運営を担当しているのが、番頭である。僕もその中に混じり、一般のボランティアスタッフとして参加していた。

 支店主たちが持ち寄った各県自慢の食材で寄せ鍋を作り、訪れた市民に振る舞った。また、星天堂の屋根から饅頭まきを行った。星野川では婚礼の際、嫁ぎ先の家が近所の人を集めて、二階の窓や屋根から饅頭をまく風習がある。それに倣い、饅頭まきで星天堂祭りの開催を祝ったのである。

 その他、ビンゴゲームやガラガラ抽選などをして、一日が終わった。星野川市民に惜しげもなく景品を振る舞ったが、祭りの運営費をはじめ、すべて経費は税金である。

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