第33話 プレゼント
深夜一時半ごろ。
四角錐を上に引き伸ばしたような外観のキングキャッスルの最上階に住まいを持つ
照明の類は一切つけていない。しかしそれでも、室内はそれほど暗くはなかった。キングキャッスルが放つ優雅で蠱惑的なエメラルド色の光の余波もあれば、窓の向こうに広がる世界はだいぶ前から白銀色に染まっている。真夜中だが、むしろ外のほうが明るいくらいだ。
そんな情景に後頭部を向けながら、気取った富豪らしく年代ものの最高級ワインをグラスに注ぎ、それを手にとって香りや味を静かに吟味している。その表情は緩い。
正面にある膝くらいの高さをした木製のアンティーク仕上げの横長テーブルには、世間から『龍の瞳』と呼称されたバスケットボールほどもある大きさの鮮紅のルビーが、小ぶりで透明な玉座の上から異様な存在感を醸しだしていた。
「ふふっ……ふっふっふ」
ワイングラスを回しながら、
深い蒼色をした、円錐状の巨大なサファイヤ。それは、世間で『龍の牙』と称されている、『龍の瞳』と遜色ない程に華麗で、圧倒的な存在感を放つ、この世にふたつとない逸品である。
目を瞑り、
あの日──
同じ遺伝子工学の講義を受けていたことがきっかけだった。共に最前列の席の中央付近の席を狙っていて、そのせいか隣り合うことが多く、気付けば会話をするようになっていたという、どこにでもあるようなものだ。
今でこそ世界中に普及・浸透しているが、その当時は、まだ
しかし、
そんななか、異常とまで言えるほどに意欲的で熱心に学んでいたのが、かのふたりだった。この世代で、後の世に功績者として称えられるようになるのは、日本人では3人、世界中でもわずか17人。そして──
周囲との差が歴然であるほどに優秀だったふたりは、いつの間にかふたりは、まともな話ができるのはこいつくらいだな、と互いに認識し合うほどにまでなっていた。ふたりは、
やがて、あと1年で卒業を迎えるという頃になったとき、
というのも、有能という言葉で一括りになっているふたりも、実はその性質に大きな違いがあったからだ。
端的に言うと、
その予感は見事に的中し、ふたりで立ち上げた会社は、瞬く間にその分野の第一線に台頭した。やがてコネクションが増え、金が増え、地位や名誉も増え、
そうして順風満帆に経営が続くなかで、しかしふたりの欲望は留まることを知らなかった。いつしか、会社経営は部下に任せるようになり、ふたりはそれぞれ研究に没頭するようになった。
だが、それがいけなかったのだ。気づいたときには、すでに越えてはいけない一線を越えてしまった後だった。
ふたりがその才能をつぎ込んで開発した薬は、どれもこれも法に抵触するものばかりだった。ならば当然、市場で人の目に晒すわけにもいかない。やむを得ず、日の当らない裏稼業の者を相手に提供してみたところ、それが口火となって、その薬は瞬く間にその界隈で蔓延した。
こうしてふたりの名は、裏社会でも爆発的に浸透していったのだが、それに伴い、さらなる事業拡大という名目で、活動の拠点を国外に移すことにした。
真意としては、過剰なまでに制限や制約を明文化した日本の法律が煩わしいと判断したからである。
すなわちそれは、裏社会での躍進を決意した行動と読み取れる。
押さえつける法律がなくなったことで、ふたりの道徳心も次第に欠落していったわけだが、しかしこの辺りから、ふたりの進む道が、若干ばらつき始める。
進む方向性にわずかな差が生じてしまえば、進むほどにその差は大きくなっていく。衝突することも多くなった。ふたりの関係は徐々に険悪になっていき、ついには業務上のやりとりしか行わないほどになっていた。
そんなふうにして、ふたりで会社を設立してから十数年が経った、ある日。それは起こった。
この日、何の因果か、
たしかに、何かが盗まれるという予告をされておきながらわざわざ外出するというのも間の抜けた話だな、と他人事のように思いながら、
もちろん
そうして
そこで
やはりこいつは天才だ、と感じた。
同時に、この薬をどのようにしてより強力なものに──まさしく『強化』しようかと、すでにあれこれと思考を回転させいる自分に、子供のように高揚してしまっている自分に気づき、どうしてか
途中、
そうして
一瞬肝を冷やしたが、現れたのは
それで集中力が途切れ、ふと腕時計を確認してみたら、なんとサンタが予告した時間を少し過ぎているのに気付いた。
……
地上に向かうことにした
通路の先にある扉のその向こうから、けたたましい銃声が何度も聞こえてきたのだ。
部屋は、
亡くなってからだいぶ経過した今でも、その当時のままにしてあると耳にしていたが……しかし、そんな場所で何が? と不思議に思い、警戒を怠らずにゆっくりと近づいて行くと──そこでいきなり、扉の向こうから、全身が白尽くしの装いをし、先端に綿のついたニット帽とゴーグルで顔を隠した、子供のように小柄な背丈の人物が現れた。
格好からして、それは間違いなくサンタクロースだった。
しかしどう見ても子供にしか見えない体格だ。
……まさか、こいつが? こんな奴が?
これなら、私でも捕まえられそうだぞ?
いつからか金の亡者に成り下がった
そしてその結果、右手に重度の火傷を負うこととなった。
サンタが走り去り、
少女は空ろな目で
しかし、2度あることは3度あるという。もしかしたらまだ他にもサンタがいるのかもしれない。そんなふうに
警戒心を維持させたまま、扉をそっと開き、隙間から覗いてみる。するとそこには、ひとりの少女が大声で泣きわめている姿があった。
……あれは
だが一体、何をそんなふうに泣いて──っ!
そこで
もっとも、それが誰なのかも、近づかなくとも状況からしてすぐに理解できた。
茫然とした。ついさっきまで動いていた人間が、消し炭のようになって朽ち果てているのだから。
おそらくは、さっき目にしたあのふたりがやったのだろう。噛みつかれているように痺れる右手が、
それにしても、なぜ
点在する謎に顔をしかめていると、ふと煌びやかな光が目に飛び込んできた。目を向けると、室内の奥側に、深い蒼でありながらも透明感を持った、神秘的な円錐状の宝石があった。何を隠そう、『龍の牙』である。
おかしい、と思った。何故あそこにアレがあるのか。
サンタの目的はアレのはずだ。それがどうして?
……いや、まて。これはチャンスだ。
アレをあのままあそこに放置していたら、警察やらなにやらが何かと理由を付けて回収してしまうだろう。そんなことなら、今この場で私がこれを盗んでしまえばいい。なに、問題はない。罪は全部サンタが被ってくれる。あとは
こうして金の亡者である
案の定、警察は
その後。
事件が収束を迎え、
研究室には、先日持ち込んだ『龍の牙』をはじめ、これまでに
邸宅の主である
それからというもの、
なかでも、
善悪の論争はさておき、仮にこの真実を知っている者がいたとすれば、真に歴史に名を刻んだのは
おそらく
あの日から
目の上のタンコブであった
それだけではない。
おまけに、そのふたりが今、サンタと戦っている。それを皮切りに、数日もしないうちにサンタがこれまで世界中で盗んできた金銀財宝も手中に収まる手筈だ。
もはや笑いが止まらない。
高揚した気分の
普段なら漆黒を基調とした見事な夜景が地平線まで広がっているが、今日は白の飛沫が際限なく飛び散っている。だが、活発な動きをすればするほど、不思議といつも以上に静寂が蔓延っていくように感じる。
年に何度もない斬新な光景を堪能しながら、ワイングラスを口元に近づけてそっと、一口分すすろうとした──そのときのことだった。
「メリー・クリスマス」
不意に背後から、声がした。
単身の
グラスからワインが零れ落ちるほどの機敏さで反転してみると、ついさっきまで
「もっとも、クリスマスは2日──あ、もう3日前かな? に終わってるんですけどね。ナハハ♪」
足先の靴から頭にかぶったニット帽までの全身を白で統一させている恰好。ゴーグルも装着しているようだが、それは今、目を覆うことはせずに額に宛がわれている。そのせいで、素顔が露になっていた。
それは、まだあどけない少女だった。そして、どこか見覚えのあるような顔だった。いずれにせよ、目の前にいるのがサンタであることは明白だった。
そう咀嚼した瞬間、手下どもと戦っていたはずのサンタが平然としてこの場にいるということの意味までを嚥下して、気付けば
「き、貴様、どうしてここに」
「どうして、って……面白いことを言いますね。あなたじゃないですか。私たちを呼んだのは」
「何だと?」
「忘れたんですか? サンタが『龍の瞳』を奪うって
「そ、それが何だと──」
そこでニット帽のサンタは「だから、」と強調し、
「私は、帳尻合わせをしに来たんですよ。あの日私が奪ったのは、あなたが用意した真っ赤な偽物でしたからね。だから、今度こそ本物を──あ。今、私も面白いこと言いませんでした? 『真っ赤な偽物』って。ね?」
ニット帽のサンタは、
「そんなことを聞いてるんじゃない! 私が聞いているのは、どうして貴様がここにいるのかということだ!」
「どうして、って……だからさっきも言ったじゃないですか。あなたが偽の
一向に話が噛み合わない。
右手に力がこもる。だが、こんな挑発に乗ってはいけないと自制し、その手をゆっくりと開いた。
……いずれにせよ、やはり、あの兄妹がサンタに敗北したに違いない。
このサンタに問答したところで、どうせはぐらかされるのがオチだ。
「チッ。あの役立たずどもめ」
サンタの態度と、そのサンタにあの兄妹が敗北したことによる計画の頓挫。たまらず、
だがその言葉に、まるで装着していた仮面を取り払ったように、ニット帽のサンタは急に表情を消して押し黙った。今までが今までなだけに、その目つきが余計に冷ややかに見える。
空調はつけているが、それとは別の気流がこの室内で発生し、それが頬を撫でている。そんな感覚に捉われながら、
……それにしても、どうする? どうすればいい?
まさかこんなことになるとは……まさか、奴ら、
大丈夫、この私なら考えつくはずだ。
そもそもこいつは、本当にやつらと戦ったのか?
あの服の汚れ具合からしても、おそらくそれは間違いないだろう。ところどころに赤いシミができる。やはり、さすがにあいつらを相手に無傷では済まなかったということだろうか。
ということは、こいつはこんなふうにふざけているが、実は手負いなのかも──ん?
もしかしてこいつ……あのときの。
そこで、
この部屋に唯一ある武器──自動式拳銃『コルト380ガバメント』を取りだすために。
しかし、こうして正面を向け合っている手前、どうしても隠密に行動することができない。棚にたどり着く前に挙動不審を咎められて制圧されかねない。まるで綱渡りをしているような心持ちで、一歩ずつ、横にずれていく。
だが意外にも、ニット帽のサンタは、視線でそれを追うだけで、制止することはなかった。しかし
「質問させてください」
「し、質問だと?」
「あなたは、あのふたりのことをどう思っているんですか」
「あのふたり?」
「あの兄妹のことですよ」
最初、
返答はもとより、このサンタが何を考えているのかに意識が向かい、口をつぐんでしまう。
「答えにくいなら、質問を変えましょうか。……あなたは、本当は知っていたんじゃないですか? あのふたりが、あなたの作った
「……まるで私が、あのふたりを使い捨ての駒のように、ぞんざいに扱っている、とでも言いたげだな。仮にそうだとして、だったら何だというのだ? 貴様に何の関係がある?」
「別に。ただ、あの兄妹の父親である
「フ……フフッ……フハハハハハッ!」
そこで
「何がそんなにおかしいんです?」
「
「でも、あなたの数々の功績は、
「フッ。二人三脚とは笑わせる。
「……そうですか」
けれどそれ以上に、自分がその天才の金魚のフンと思われるのは耐え難く、そして認め難いことだった。
激高したことで抑圧された気持ちが少しは解放されたのか、幾分軽やかな足取りで
そうして収納棚まで辿り着くと、背を向けながら(つまりはサンタに正面を向けたまま)逆手で引きだしを漁り、お目当てのものを取りだす。そして、素早くニット帽のサンタに銃口を向けた。
いくらか会話し、動き、高笑いし、そしてこうして武器を手にしたことで、
銃口を向けながら、亀のような鈍足で、今来た道を散歩でもするようにのんびりとした足取りで辿り、先ほどまでの位置にまで戻る。
「お喋りはここまでだ。今ここで、私がお前を……始末してやる!」
ニット帽サンタは、1メートルほどしか離れていない銃口を、白けたように見ていた。
「そんなものじゃ、私は殺せませんよ」
「とぼけても無駄だ。私はたしかに見たぞ。6年前のあの日、サンタが──おそらくは当時のお前が、肩に銃弾を喰らっているのを。それにこの至近距離だ、いくらなんでも、避けることもままならんだろう。え?」
「
「何を言っている。自信作だからこそ使わないのだ。アレを服用すればどうなるかなど、作ったこの私が一番理解しているからな。あのバカな兄妹じゃあるまいし、貴様なんかのために自分の余生を台無しにして……たまるかっ!」
どさくさに紛れて、
──だが、不可視の速度で放たれた銃弾は、サンタへ到達することはなかった。
サンタのこめかみからおよそ20センチ手前で、時が止まったかのように、空中に固定されていたのだ。銃口から微かに立ち上がる煙だけが、ゆらゆら動き回っている。
それから少しして、静寂に染まった室内に、命を失った銃弾が落下した音がわずかに響いた。
何が起きた? と
……くっ、やはり通用しないのか?
いや、まだ弾は残っている。諦めるのはまだ早い!
逡巡は一瞬だけだった。すぐさま拳銃を握りなおし、また引き金を引こうとする。
そこでサンタが、「思った通りだ」と、その双眸を
薄暗い室内に浮かび上がるサンタの、およそ人とは思えない禍々しい瞳をそばで見て、
「やっぱりあなたは本当に、根っからのクズですね」
「っ……サ、サンタである貴様なんかに、そんなことを言われる筋合いはない。この薄汚いコソ泥めがっ!」
狼狽したのはたしかだ。それに、今この瞬間もこの瞳が恐ろしいと感じている。
ただ、だからといって、自分に向けられた罵声は容認できやしなかった。
コルト380ガバメントの装弾数は7発。そしてすでに1発を消耗した今、合計で6発の弾丸が発射された。
だが、弾丸はどれひとつとしてサンタに着弾しなかった。さっきと同じように、6発の弾丸が点々と、サンタの直前で宙に固まっているのだ。
衝動に駆られてすべての弾丸を使い果たしてしまった
新しい銃弾を補填するか? それならまたあの棚から取りださなければいけない。くそっ、何故あの場に留まらなかった? いや、それともいっそ、下に控える警備員たちを呼ぶか? そもそもあいつらは何をしていたんだ、どうしてこいつの侵入を許した? というか、こいつはどうやってここに現れたのだ?
追い詰められれば追い詰められるほど、思考が本筋から脱線していく。と、そこに突然、先ほど放ったはずの銃弾が、逆にこちらに、同時に迫ってくるのに気付いた。
まさに目と鼻の距離だ。回避する間もなく、それらが点々と、上半身に着弾した──と同時に、
手から剥がれ落ちたコルト380ガバメントも、磁力で吸いつけられたかのように、すぐさま一緒になって窓ガラスに張り付いている。
「では──そんなコソ泥からあなたへ、プレゼントを贈りましょう。招待されたお返しにね」
そこで、今まで腰を下ろしたままのサンタが、そっと立ち上がった。同時に、サンタとの間に唯一障害物として存在していた黒のソファが、まるで王者に道を譲る平民の如く、勝手に横にずれる。おそらくは、
明け渡された道を、一歩ずつ噛みしめるようにしてサンタは
やがて、バリッ、という音が聞こえた。
大小様々なガラス片が一斉になって、白い夜空に散り散りにぶちまけられる。それと同じように、
……ばかな。
こんなところで、私の人生は終わってしまうのか。こんな簡単に。
プレゼントというのは、つまり死のことだったのか。それならむしろ、命を奪うと言ったほうが正しいではないか。いや、そんなことはどうでもいい。そんなことは……。
この高さからの落下など、無事で済むはずがない。今まで天才だなんだと称賛されてはそれに胡坐をかいてきてわけだが、それにしては、なんと無力で矮小なことか。
情けない喚きが口から洩れる。溺れかけの幼児のように手足がバタつく。生存本能のせいか、体が勝手にもがき続ける。
だが、総じて無意味なのは当の本人が一番理解している。
そうして自室から10メートルほど落下した辺りで、
その感触を追って見上げれば、視線の先にはサンタがいた。例によってサンタにしかない、空に浮かぶ力を使っているらしく、空中で停滞して、右腕を伸ばして
しかし今、
「たとえばですけど」
しがみ付いた生の余韻に浸っているところに、サンタは呟く。
「さっきの時点で、あなたが
「な……」
「そうは思いませんか?」
サンタは、左眼に妖艶な光を保ちながら、邪な笑みを浮かべる。
な……何を言ってるんだ、こいつは?
そんなことをしたら、落下してしまうではないか。
普段の
そこでサンタは空いた片方の手で、胸元から半透明の、手のひらに収まるほどの小瓶を取りだす。そのなかには何かしらの液体が入っていた。
「そして──なんとなんと、ここにその
「なん……だと」
……どういうつもりだ?
まさか……まさかこいつ、この私に……。
「察しがついたようですね。さすが聡明と名高いだけのことはありますね。……さあ、早く口を開けてくださいな」
サンタは、親指だけで小瓶の蓋を外すと、あろうことか醜悪な笑みを浮かべて
『プレゼント』とはつまり、このことだったのか。
しかしこの状況で断れば、最悪、放り捨てられるかもしれない。
かといって、
万が一サンタの手を潰そうものなら、それこそ地面に叩きつけられてしまう。
つまりは──八方ふさがりだった。
「何を躊躇しているんです? ……仕方ないですね。自分で飲めないというのであれば、私が飲ませてあげますから。もう、特別ですよ?」
瞬間、まるで栓をされたかのように、不思議と鼻での呼吸が困難になった。
否応なしに
「っく……ハア、ハア、……き、貴様、なんてこと」
ついに飲んでしまった。これを飲んでしまえばもう、たとえ何をせずとも、体の組織のいずれかが不調をきたすことになってしまう。
「ほら、これで私の手を握り潰せますよ。早くやってみせてください」
そう言われても、もちろん
まさに圧倒的強者の玩具。案の定、行動に移せないでいる
自分以上の悪を目にして、
「うっそぴょーん!」
始めに顔を合わせたときのように、サンタがおどけた態度でそう言った。訳が分からず、
「すいません、今のが
「な、に? それじゃあ、今のは……」
「色を付けただけの、ただの水です。すごく怯えてましたけど、そんなに怖かったんですか?」
そして再び、サンタは声をあげて笑った。
ここまでくると、さすがの
だが、再びそこで
「……少しはわかりましたか? あなたが生み出した薬を使った人の気持ちが」
その言葉に、
「さっきだって、あなたの部下にも
悪魔の眼を宿したサンタは、鬼の形相で声を荒げた。
それは、油断すれば食い殺されてしまうかもしれないと思わせるほどに恐ろしい目つきだった。それに周囲が同調するように、舞い散る雪の乱舞が、そこだけが吹雪のように一際荒々しくなっていた。
「──さてと、ここまでは私の個人的な感情による余興です。夜も遅いし、そろそろ本題に入りましょうか」
……ここまでが、余興?
これからが、本題?
「い、一体、なにをする気だ」
「さっきも言ったでしょ? あなたにプレゼントを贈る、って」
「プ、プレゼント、だと? ……まさか、結局ここから落とす気か?」
「ナハハ、そんな非道なことはしませんよ。結論から言うと、これから
何が「それだけ」だ。植物人間だと? ふざけるな。
──と声を大にして言いたいところだったが、この状況下での優劣はもはやはっきりしている。
「なぜだ? なぜ私が、そんな目に?」
「あらら。そんな目とは随分な言いようですね。あなたの
「っ……ということはやはり、さっき私に飲ませたのは……」
「だから、アレは偽物だって言ってるじゃないですか。まったく、そんなに信用ないかな、私。とにかく安心してください。私の
そうして、サンタの左眼が、エメラルド色の輝きをさらに強め、辺りにまき散らし始めた。
その眼が、その輝きが、具体的に何をするのか、
「た、頼む、お願いだ、許してくれ。もう二度と
「そうですか? そこまで言うなら……どうしようかな」
「すまない、恩に着──」
「うっそぴょーん」
九死に一生を得たと思った
ただしそれは、さっきのそれとはまるで調子が違っていた。
さきほど
鬼火のように妖しく、だがエメラルドのように煌びやかな左眼からの鋭利な視線が、怯え切った心に突き刺さる。
「お生憎さま、私にはあなたみたいな最低の悪人に瞑るような純潔な目なんて持ち合わせてないんですよ。ご覧の通り、ね」
「よ、よせ、やめてくれ! た、頼む、何か失礼があったのなら謝る、この通りだ! だから──」
「だから……違うでしょ、謝る相手がっ!」
まるで今まで
それを耳にしたが最後、幻惑な翡翠色の光輝を両目から存分に取り込んだ
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