第50話


「神様に名前はあるの?」

 しばらくして、泣き止んだ神にジアは聞いた。

「僕は神だから、名前はない」

「じゃあ、まずは名前を考えましょう」

 ルルが言った。

「必要ない。神……それが僕の名前だ」

「私は魔王。魔族で女、ビダル家の次女です。私を表す言葉はたくさんあるけれど、それ一つで私を言い表すことはできません。でもルルという名前は、それだけで私の全てを表してくれます。だって私はルルですから」

 そう言ってルルは笑みを浮かべる。

「神というのは立場です。だけどあなたには名前がないから、神という立場に必要以上に縛られることになるんです。だってあなたには神しかないのですから、神から逸脱してしまったら、あなたは何者でもなくなってしまいます。ですから、名前を考えましょう。神ではなくて、本当の自分になるための名前です。そうすればきっとあなたは神らしくではなく、自分らしく在ることもできるはずです」

「ジアはどうしたらいいと思う?」

 真剣な顔でルルの言葉に耳を傾けていた神がジアの方に顔を向けて問う。

「そうだね。これから友達になるんだから、名前で呼びたいな」

「友達になってくれるの?」

 目を大きく開いて、うれしそうに言う。しかしその明るい表情はすぐに消え去って、今にも泣き出しそうな表情に変わってしまった。

「でも……僕の所為でみんなは戦わされて、ジアの友達のリカルドも、ルルのお母さんも、エリナとマクシムのお父さんも死んだのに……それでも僕の友達になってくれるの?」

「もちろんだよ。君がそれを望んだわけじゃないってわかってる。だから大丈夫。みんなもいいよね?」

 みんなが頷く。

 それを見て、神に笑顔が戻った。

「うん。じゃあ、友達にしてもらう。名前も考える」

「自分でこれがいいって名前はある?」

「ううんん。ない」

 神はぶんぶんと首を振る。

「じゃあ、みんなで考えよう」

「うん!」

 神は大きく頷いた。

「俺は普通っぽいのがいいと思うんだよね。よくある感じでマイケルとかはどう?」

 マクシムのその提案に神は顔をしかめる。

「それって、男の子の名前でしょ? 僕は母なる神、性別でいったら女なんだけど」

「「えっ?」」

 みんなが揃って、驚きの声をあげた。

 その中でレミとルルの視線が若干鋭くなった気がしたが、ジアはとくに気にはしない。

「じゃあ、マリアとか……?」

 またマクシムが案を出す。

「マリア……まりあ……ま、りあ…………あっ、決めた。ぼくの名前はリアにする。ジアの名前にも似てるし」

「じゃあ、リア。これからよろしく」

 ジアはリアに手を差し出した。

 しかしリアはその手を取らずにジアに正面から抱きついた。リアはジアのお腹の辺りに顔をうずめて言う。

「僕は、リアはジアのお友達だから、これからジアにいっぱい幸せにしてもらう。ずっと一緒にいてもらう」

「うん。一緒にいよう。一緒に幸せになろう」

 そう言って、ジアは自分を抱きしめているリアの頭を優しく撫でた。

「なんか……結婚するみたいだな」

 アルベルトがつぶやいた。

「あー、それは思っても口にはしないでください……」

 そう言ってルルが肩を落す。

「私も幸せにしてもらう」

 今度は後ろから、レミがジアに抱きついた。

「あー!」

 それを目にしたルルも叫び声をあげながら横からジアに抱きつく。しかし抱きつくというよりもむしろタックルに近い感じだったので、みんな揃って倒れてしまった。

「せっかくだから私もまぜてもらおうかしら」

 そう言って、レーネも倒れている四人の上にダイブする。

 そんな光景を見て、残りのみんなは目を細め、笑顔を浮かべていた。

 だが一人、ベネディクトだけは複雑そうな顔で二人の娘を見つめる。

 そんな中……バティはつぶやく。

「自分は不器用ですから」

 一息で、詰まることもなく、今まで一番うまく言えてはいたが……なぜバティがそう口にしたのかは誰にもわからなかった。


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