遍歴

桜雪

高校生の章

第1話 安い女

 20代となって数年…

 幾人かの女性と付き合い、唇を重ね…肌を重ねてきた。

 恋愛と呼ぶには稚拙で、性欲と呼ぶほどのSEXに固執もしていなかった。

 とりあえず、3度も会えば、そういう関係になるものだと思っていた。


 転勤先でアルバイトの子に声を掛ける、パートに声を掛ける、そんな中で、幾人かと肌を重ねる…それは特別なことではない。

 サービス業に努めていれば、そんなにおかしなことでもない。


「桜雪…仕事、言いつけてきて嫌い」


 高校生のバイトの娘が僕のことを嫌っている。

 そんな話が耳に入ってきた。

 社員がバイトに仕事を言いつけられて逆らうくらいなら、バイトなどしなければいい。

 とはいえ、不思議とその子は、僕の所へ来るのだ。

 他にも社員はいるだろうに…その時は、気の強いだけで、とりあえず僕に逆らいたいだけなのだろうと思っていた。


 バイトの給料日は、社員と数日ズレていた。

「給料貰ったら、ラーメンくらい奢ってくれよ」

「はっ? なんでアタシがアンタに?」

 終始、こんな感じで会話していたのだが…

「ラーメンでいいの?」

 彼女が仕事終わりに、僕に話しかけてきた。

「なにが?」

「奢るの、ラーメンでいいの?」

「えっ? 奢ってくれるの?」

「アンタが奢れって言ったんじゃん」

「そうか…そんなこと言ったな…冗談だったんだけど」

「いいよ…今月、結構働いたから」

「そうか…給料前で金ないから…ご馳走になろうかな」


 近くのラーメン屋まで僕の車で向かう。

「アタシもラーメン好きなんだ、彼氏にも安い女って言われるよ」

「彼氏いるの?」

「いるよ、中学生から数えて…3人目の彼氏」


 そんな会話をしながらラーメンを食べた。

「家まで送ってよ」

「今日、自転車じゃないのか?」

「うん、今日、ラーメン奢って、そのまま送ってもらうつもりだったから」

「そうか、じゃあ送るわ」


 彼女の家は、僕が住む会社の寮から、そう遠くはなかった。

「じゃあね」

「あぁ…ありがとうな」

「うん、でもさ、アンタの給料日には奢ってもらうからね」

「ハハハッ…あぁ解った…何がいい?」

「アンタ、アタシの話聞かないよね…ラーメンでいいの」

「そうだったな」

「また明日ね」

「あぁ…休むなよ」

「解ってます~、ちゃんと行きます~」


 髪の長い綺麗な子だった…。

 見た目も派手だし、まぁ遊んではいるのだろうな…

 その時は、彼女と付き合うなど考えていなかった。



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