エルフの導き手
縁の下 ワタル
第1話 俺はエルフだ
俺はエルフだ。
エルフは耳が長く、真面目でルールを重んじ、他の国と交流することはほとんどない。
鎖国主義であり、宗教は自然崇拝。
そして、エルフは道具を使わない。
どうやって?
包丁ならいらない。
だって素手で切れるやつがいるから。
火を起こすものが必要?いらない。
だって何も使わないで火がつけられるやつがいるから。
エルフの祖先は他の種族とは違い、龍だと言われている。
龍はその強力な魔力を行使してあらゆるものを操るが故に、俺たちエルフにもそのちょっとした恩恵を授かっているらしい。
つまりは魔法が使えるから、道具を使う必要がないのだ。
俺はエルフだ。しかし、エルフといってもただのエルフじゃない。
ハーフエルフだ。
人間とエルフの間で生まれたので、俺は魔法が使えない。
里の全員は魔法で自分の役割を持っているのに自分だけは持っていない。
となると、俺は自然と肩身が狭いし、周りが白い目で俺を見てるように思えて常に俺は劣等感を感じ続けた。
だから、俺は里を抜け出し外の世界へ出た。
そして、意外にも俺は迫害を受けるなんてことはなかった。
逆に重宝されたのだ。
数が少なすぎるし、魔法が使えるからと。
(まあ、残念なことに俺は魔法が使えないのだが)
そして、今は一応薬屋をやっている。
エルフは薬屋がお似合いらしく、俺が商売をしていると何故かよく来るのだ。
商売を始めて、ある日、俺は少女と出会う。
会った場所は街と街をつなぐ道の原っぱで、黒髪の彼女は気持ちよさそうに寝ていた。
その黒髪を風が撫でて、それでいて彼女を太陽がぽかぽかと照らす。
なんて気持ちよさそうに寝ているのだろうか?
俺はあんな風に寝たいと思って眺めていると、俺はゾッとした。
なぜなら彼女の脇におぞましいダガー?いや、包丁だろうか?
それは何かの生き物の肉でできていて、赤黒くてグロテスク、剣の束のあちこちにある目の全てが俺を睨んでいた。
ヤバい、これは関わらないほうがよさそうだ。
そう思って彼女の脇を通り過ぎようとしたら、
ヘクシュン!
俺は飛び跳ねて彼女を見た。
汚らしく鼻水を垂らして寝そべっているところをみると彼女はくしゃみをしたらしく、その鼻水を袖で拭き取る。
何か見てはいけないものをみたような気がして、なんかすみませんと思った。
それに彼女をこんなとこに置き続けたら、彼女は間違いなく風邪を引くだろう。
はー、仕方がない。
俺はため息をついて彼女をお嬢様抱っこして、片方の彼奴ははっきり言って触れたくなかったが、人差し指と親指の両方でまるで汚らしい雑巾をつまむように持って、
「ん?」
俺はあることに気づいた彼女の手の甲に何やら光の刻印のようなものがあり、そこにはこう書かれてあった。
『汝、人を殺めることなかれ』
なんだ、これ?と俺は奇妙に思ったが、気にせず彼女を宿まで連れて行った。
俺は彼女をベッドの上に寝かせたが、その拍子に彼女は起きてしまったらしく、のそりと起き上がって目をこする。
「起こしちまったか、ほらこれ水」
俺はコップを取り出して水を注ぎ、彼女に手渡すとその水を一気飲みしたが、彼女はまだ眠たいらしい。
「眠いなら、まだ寝とけよ」
と俺が言うと、彼女は
「お腹が減った」
と言った。
俺は素直に返事をして店主に飯をもらって彼女に与えると、彼女はそれをバクバクと食べていく。物凄い速さだ。どんだけ腹減ってたんだろ。
俺は苦笑いをしていると、彼女は俺を睨んで、
「あげないよ…」
「いや、いらねえよ、というか持ってきたの俺じゃねえか」
と俺は返した。
彼女が飯を食べ終わった後、俺は正直言って彼女の出身など興味なかったのだが、一応形式上、こういう場合は出身を聞くのが常識だよなと思い、彼女に
「お前、どこから来たんだ?」
と俺が聞くと、彼女はしばらく考えて、
「わからない」
と答えた。
「わからない、生まれた場所は?」
と言うと、彼女は首を横に振る。
「親の名前は?」
彼女は首を横に振った。
「いつここに来たんだ?」
彼女は首を横に振った。
うん、どうやら覚えてないようだ。
「そっか、記憶なくしちまったのか、まあ、ゆっくりしてけよ、俺はお前がどんだけ泊まっても構わねえからよ」
俺は親切に彼女に言うと、彼女は周りを見て、
「汚い…」
「ん?ああ、汚いか?ああ、確かに女の子だもんな、まあ、気にするよな」
俺のベッドのシーツは黄ばんでいて、たまにハガチがわくことがあるから、彼女にとっては厳しいかもしれない。
まあ、俺はあんまり汚いとか綺麗とか気にしないからどうでもいいけど。
「どうする?店主に頼んで変えてもらうか?」
と言うと、彼女は「いらない」と言って首を横に振り、そのまま横になった。
「そっか、それじゃあ、俺は仕事行ってくるから留守番よろしくな」
と言って俺は仕事に向かった。
「へい、いらしゃい!エルフだよ!エルフの薬草だよ!」
ここは市場だ。
ここで商売したけりゃ風呂敷を引けという言葉通りにこの道に沿って風呂敷がひかれている。
「アンタこれ本当に、効くのかい?」
「ええ、効きますとも、ただ直すというよりは予防ですんでね、いやー無病息災が一番ですよ」
「ふうん、何かと胡散臭くないね、周りの薬屋は何かと万病に効くというがアンタは違うようだね、一つくれるかい?」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って俺は薬草を1束手渡すと、
「そういや、あたしゃ認めていないよ」
「ん?何がです?」
「何ってエルフが龍の子孫だというとこさ、どう見たってあたしらの方が近いじゃないかね?天帝様があたしらのことを蛇だと言っても私は信じないね」
「いやいや、お婆さま、この世で一番偉すぎて天の上で俺たちのことを鳥瞰する天帝様が言うんだからそうに決まっているよ」
「いや、あたしゃ認めないね」
このお婆さん断固として認めるつもりないな。まあ、別にどっちでもいいんだが。
「貴婦人?少しいいかな?」
と偉そうな男が
俺は舌打ちをする。
また来やがった。
「なんだい?今、重要な話をしてるって言うのにーーあら、素敵」
確かにその男は、女の人から見たらウケが良さそうな色男であるが、男である俺にとってはそんなことどうでも良かった。
「すまないな、俺はこいつ話をしなきゃいけないんだ」
「何の話だ?お前と話す話なんぞ一切ねえよ」
そう言って俺はその男を睨みつける。
「そう言うなよ、エルフの」
「いつも言ってるだろ!製造方法もアレもお前に渡せねえって!」
「そう言うなよ、ソレが有ればかなりの金が手に入ると思うだよ」
「俺は金が欲しくてしてるわけじゃねんだよ!それに別に金には困ってねえんだ!帰れ帰れ!」
「まああれだ、ここだと話しづらい、路地裏行くぞ」
「行かねえよ!」
「それじゃあ、グルッパ連れてけ」
男にそう言われたグルッパという名の大男は「フギ」と返事をして俺を掴んで肩に担いでそのまま、暗い路地裏に連れてかれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます