第41話 作戦会議を行います
侯爵家の馬車がセシルとフィオナを積んで、クリスチンとマークが待つ田舎の屋敷まで走り出した。
「これから二人で頑張ろう。でないと結婚できないから」
想像していたのとだいぶん違う……とフィオナは思った。
結婚式まで、親族や周りがいろいろと気を使って段取りをして気が付いたら教会だった……みたいなことを想像していたのである。みんな、アレクサンドラまで含めて、誰もがフィオナの結婚推しだったのだから。
そうはならなかった。
結婚推奨までは全員の意見が一致しているが、相手が違う。
結婚の場合、相手が違うのは大問題。フィオナは必死になった。
確かに結婚が最終目的だった。しかし、こうなったら、誰と結婚するかである。フィオナも頑張らないと、思う相手と結婚できないらしい。
思う相手……並んで座ったセシルをちらりと見ると、ニコリと微笑み返された。
ダメだ。とろけてしまいそうだ。
何が何でもこの人と結婚したい。
グレンフェル侯爵は近寄りがたい雰囲気の冷然とした大人のはずだったが、知り合ってみると、フィオナにはどこか素直で無邪気な一面を見せる幼馴染だった。(フィオナがその顔に夢中だと言うことはまだ内緒だ)
そして、穏やかで人当たりの柔らかいジャックは、実は自分の人脈という強みを生かしてフィオナとの婚約を既成事実化してしまう策略家だった。
じゃあ、フィオナはどうなのか?
彼女はまだ若い。経験もないし、やり方もわからない。
だが、彼女の心は決まった。
修道院はあきらめるしかない。社交界デビューではなくて、彼女の本当のデビューが始まったのだ。
借りた屋敷では、頬を赤らめたクリスチンがマークと一緒に待っていた。
「予定を早めて、街に帰ることにしようかと思うの」
クリスチンが言った。
マークに説得されたらしい。
それはそうだ。マークから逃れるために田舎に来たクリスチンは、マークに見つかってしまった以上、ここにいる必要はない。
彼女のばかばかしい計画はマークに看破されて、そして、それで彼女はとてもうれしそうだった。
マークも満足そうだったし、多分、内心では今日このままクリスチンを連れて帰りたいくらいだろう。
街に帰るのが嬉しくないのはフィオナだけだった。
伯爵家全員がジャックとの結婚を歓迎していると言うのだ。どうしたらいいのだろう。
本気で家に帰りたくなかった。
「アパルトマンの話はどうなった?」
セシルが聞いた。
「貸すわよ。どうやら、そうするしかないみたいね。ジャックのやつ、我が弟ながらやるわね」
クリスチンが答えた。
「でも、私はジャックの評判も心配しているの」
フィオナが意外なことを言い出して、みんなを驚かせた。
「どんな話になっているのかわからないけど、ジャックは一生懸命だったわ。もし、振られたなんて街中で噂になったら、かわいそうだわ」
「……自業自得って呼ばない? それ」
クリスチンは姉のくせに、かわいそうなことを言いだした。
「そうかも知れないけど……」
「ざまあみろだ」
セシルはそう言ったが、急にフィオナの方にかがみ込んで、尋ねた。
「まさか、ジャックがかわいそうとか言う理由で、ジャックと結婚したりしないだろうな?」
「何言っているの、セシル」
みんなは笑い、二人の男達は侯爵家の馬車に乗り込んだ。彼らは今すぐ帰らねばならなかった。仕事があったのだ。
代わりに翌々日やってきたマルゴットは、仏頂面を絵に描いたようだった。
元々、マルゴットは仏頂面っぽい顔だったが、すっかり見慣れたフィオナには、今日のマルゴットの顔が正真正銘の仏頂面だと言うことがわかった。
なんでも、アンドルーとアレクサンドラの機嫌が最悪なんだと言う。
「私に遺言の中身を知っていたのに、なぜ、教えなかったのだと責め立てるのでございます」
クリスチンは聞いてもかまわないかと断った上で、神妙にマルゴットの話を聞いていた
「いくら専属侍女でもそんなことは知らないと思うわ。それに秘密条項だとすると、フィオナだって知ってるとは限らないわ」
クリスチンが言った。
「あれはどうにもおさまりません。お金の額が大きいだけに、お二人とも平静でいられないのは無理もないのですが……」
アンドルーはともかく、アレキサンドラが興奮するとどうなるかよく知っているフィオナは戦慄した。
そんな家には帰れない。帰りたくない。怖い。
マリアが台所からのぞき込んで、みんなの了承を得て、居間に入ってきた。
「そんなわけで、フィオナ様、作戦会議でございます」
「作戦会議?!」
どういうわけか、フィオナではなくてクリスチンの目が輝いた。
「一体、何をやろうと言うの?!」
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