第8話 夢現(1)

「…………」

「あ、気がついた?」

その声に驚いて眼を開ける。

と、自分の顔を上からのぞき込んでいる彼女の顔が飛び込んできた。

肩まである金髪が滑るように落ち、彼の顔に少し掛かる。

「ラティ?」

バーンは驚いて飛び起きた。

「急に倒れるんだもの、びっくりしたわよ。もう!」

公園の芝生の上で、足を折りながら彼女が座っていた。

膝枕をしてくれていたのだ。

淡い青色のジーンズと白いパーカーを着たラシスがいた。

ちょっとした木陰で、彼女はバーンを介抱していた。

大きな藍色の瞳にバーンの姿が映る。

状況が飲み込めないまま、彼は放心状態だった。

「…………」

「? 何?」

バーンはあたりを怪訝そうに見回した。

(俺は、今、何歳だ? 16歳?

今まで俺はどこにいた?此処ではないところにいたのではないのか?

なぜ、彼女が!?

何か美しい…ものを見ていた気がする。

何だ? あれは何だった?)

「バーン?」

ポンと肩をたたかれた。

「……あ」

「『あ』、じゃないでしょ。平気なの? 貧血? それとも朝ご飯抜いてきたわけ?」

本気で心配そうな顔をしたラティが、目の前に座っていた。

「いや、別に…。なんでも……ない」

何事もなかったように答えては見たものの、何かが引っかかっていた。

「そう? じゃあ、いいけど」

あまり追及しないように、あっさりと彼女は答えた。

「ラティ?」

「ん?」

「…………」

どもってしまった。

彼女もそれをわかっているのか、怒っているようなポーズをとってこう言った。

「言いたいことは、はっきり言う!!」

「Thanks…」

ちょっと恥ずかしそうにバーンが言った。

それを聞いてラティは微笑んだ。

「どういたしまして。顔色、あんまりよくないわよ。たまには、コンタクトはずしたら? 私といるときくらいは」

彼女が自分の右目を指さしながら、そう呟いた。

(ラティは俺の右眼のことを知っている。

知っていても、こうしていてくれる。

右眼これは俺の個性だと…言ってくれた。

あの時、俺は…彼女に……

いつだったろう? あれは?)

そして、足についた芝を両手でパンパンと払うと彼女は立ち上がった。

「行くね。明日、また学校で。」

「…………」

何も言わずに彼女を見送った。

ラティは、後ろを振り返らず颯爽と歩いていった。

バーンは彼女を呼びとめたい気もしながら、黙って見ていた。

公園の出口から数歩道路へ出たとき、彼女が急にバーンの方に振り返った。

そして大きく右手を振っている。

「バーン! あのねー、私…」

彼女が何かを言いかけた、その時。

一台の車が猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。

「ラティー!!」

彼女の名を叫びながら、バーンはすぐさま立ち上がって駆けだした。

「え!?」

彼女も振り返る。

まるでスローモーションのように、ゆっくりと白い車が彼女を跳ね飛ばした。

キキーッと急ブレーキを踏む音が響く。

フロントには血痕と一緒に蜘蛛の巣状にガラスが割れた跡がついていた。

彼女の身体は車にワンバウンドするような形で、地面に叩きつけられていた。

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