53.勝利の舞

 目の前から竜が消えた空間を信じられない思いで見つめる。

 ハッとして『無限収納』についている中身を判別すると、『悪意の巨竜×1』という項目が追加されていた。

 うひー。これこの後どうしようって感じだ……。


 しかし、何はともあれ。

 勝った。勝ったぞ。


「勝ったな!! マコト、さすが私の恋人だ!!」


 ファナさんが嬉しそうに笑いながら俺を持ち上げてくるくる回している。


「やりましたよ! やりましたファナさん!!」


 あははとお互い笑いながらくるくる回っていると、クレト様が首をかしげながら聞いてきた。


「もしかして、マコトさんの『無限収納』にしまえたんですか?」


 不思議そうにそうクレト様に聞かれて、テンションが上がりまくって若干壊れ気味になっていた俺とファナさんはちょっと落ち着いた。

 ファナさんに地上に降ろしてもらって息を整えながら、クレト様に頷く。


「……はぁはぁ……ええ、実は。俺の『無限収納』には魔力のないものしか収納できないのですが、あの竜に魔力がないかもと聞いて、もしかしてと収納してみたらできちゃいました。いま、『無限収納』の中に入っていることも確認できました」

「なるほど、収納する場所が変わっただけとも言えますが……この封印のための亜空間も限界が近づいていたようですし、僥倖でしたね。古代文明の際に悪魔が己の一部をばらまいたのが宝玉であるという説があったため、マコトさんたちが宝玉の光の方向に冒険に出ると聞いてご一緒させていただきましたが、予想以上の結果になり、教会関係者としても胸をなでおろしています」


 クレト様はそんな風に考えて俺たちの旅についてきたんだな。

 しかし、宝玉が悪魔の一部って有名な話なのだろうか? だとしたら、ファナさんって勇敢すぎません? さすファナです。


 しかも、そうだ。あの竜が自分で言っていた通り、力を少しずつ外に逃がすことで封印が解けかけていたと言っていた。つまり、ここの封印の間としての亜空間の力が弱まっていたということだろう。


「あとは、この『無限収納』の中の巨竜をどうするか、ですけど」


 使っているうちに『無限収納』はレベルアップして、最初は手に触れたものしか入れられなかったが、徐々に触れてなくても入れることが可能になって、その距離が伸びていった。

 俺が中にあるものをまとめて見たいと思ったら、『ソート』機能が追加されたりした。


 というわけで、よくあるパソコンのフォルダのように『削除』機能もいずれは追加されるのではないかなと楽観的に考えている。

 今までものを削除したいと思ったことがなかったからなぁ……とか、考えながら『無限収納』を開きリストを開くと項目の横に「▼」マークが追加されていた。


 ま、まさかね……。


 俺はおそるおそるその「▼」マークに指を伸ばした。もし仮に外に出す機能だったとして巨竜を放出しちゃったらたまらないから、とりあえず『拾った小石×5』の項目で。


「▼」マークに指が触れた瞬間、真ん中にポップアップしたのは「削除しますか? yes/no」という文章だった。


 俺は震える手で「yes」を選択した。

 ――『拾った小石×5』の項目がリストから消え去った。


「む、『無限収納』に『削除』機能が追加されました。中に入れたものを完全に削除できる機能の、ようです」


 動揺のあまり声が震える。ご都合主義すぎない? だって、欲しいと思った機能がその場で生えてくるなんて。

 もしかして、神様が俺のことを見守っているんじゃないだろうか。俺のこと転移させたのもその神様だったりするんじゃないだろうか。

 そんな疑念があふれてくる。……でも、今はいいか。

 目の前の大問題が解決できるのだ。


「マコト……やっちまえ!」


 ファナさんが親指を立ててニカッと笑った。俺は笑顔で頷いて、『悪意の巨竜×1』の横にある「▼」マークを押した。


「削除します、yes、と」


 あっけなく巨竜の項目が消えた。

 どこかから「ギュアアアアアア」という悲鳴が聞こえたような気がした。

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