物理演算が壊れたならすぐに星から逃げろ!
ちびまるフォイ
壊れろ! 物理法則!
「う、うわぁぁぁーー!」
目の前には大型トラックが迫っていた。
俺はどこにでもいるごく普通の高校生。
そしてここであえなく命を散らして別世界で新しい生活が……。
ドン!!
ぶつかった車は後輪が浮き上がり、
きりもみ回転しながら空へとぶっ飛んだ。
ふっとばされはずの俺はというと、
なぜか地面のコンクリートに下半身が埋まっていた。
「なんじゃこりゃあああ!?」
この世界の物理演算はどういうわけかぶっ壊れていた。
コンクリートを両断するレスキュー隊の到着まで
俺は通行人のくすくす笑う声にさらされながら上半身を地上に出して待った。
「はぁ……早くこないかなぁ……」
ぽつぽつと水滴が落ち始めた。
この身動き取れない状態で雨が降るなんて最悪だ。
雨雲から勢いよく雨粒が降ると、その方向は真下ではなく斜めや横や上へと縦横無尽。
傘をさしているのに内側から濡れるという怪現象。
「ぶっ壊れてる……」
物理法則が壊れていると再認識させられる。
本来は雨粒が当たれば、雨粒のほうがはじけ、水滴が飛び散って終わる。
それだけのはず。
雨粒が当たった人が前転しながらガラスのショーウィンドウに突っ込んだり、
他の人と肩がぶつかっただけで、腕が360度回って止まらなくなることはない。
世紀末すぎる。
重力すらガン無視された世界では車がジャンプしながら走行し、
犬と散歩している飼い主がリードで浮いている。意味不明。
「このままじゃ人類は終わりだ!」
これまでさまざまな物理法則をもとに生み出された人類の発展。
それがあるとき物理演算が壊れたことですべて台無しになんてさせない。
俺は研究チームを結成して物理演算をもとに戻すアベンジャーズを結成した。
「みんな! この世界に物理演算を取り戻すぞ!!」
「「「 おおーー!! 」」」
そこから数多の時間を費やして研究を積み重ねて、
ついにこの異常現象の核を突き止めることに成功した。
「教授! 物理演算が壊れている原因がわかりました!」
「なんだって!?」
「ネットで見たんですが、どうやらこの星のコアプレートが壊れたため
物理演算がぶっ壊れてしまっていたようです!」
「ようし、これで一歩前進だ!
そのコアプレートを直しさえすればもとに戻るんだな!」
「はい! というわけで、コアプレート修復ボタンを作りました!」
「でかした!!」
これでなにもかも元通りになる。
迷わずスイッチを押すと体にズンと重力が戻ったのを感じた。
「教授、やりましたね! 物理演算が戻りましたよ!!」
「ありがとう! みんなのおかげだ!!」
スーパーボールを壁に投げてみると、
壁にぶつかり、まっとうな角度で跳ね返ってくる。
以前では壁にぶつけると浮き上がったり、埋まったりとメチャクチャだった。
物理演算が戻ったんだ。
「ああよかった……これでなにもかも……」
「きょ、教授! テレビを見てください!」
助手が慌てた表情でテレビをつけた。
『ここで臨時ニュースをお知らせします。
現在、この星に向かって巨大隕石が近づいています。
研究所の発表によると衝突は確実で、この星の消滅は免れないとのことです』
「な、なんだって……!?」
頭が真っ白になった。
シミュレーションでは巨大隕石は地球にぶつかるや
この星を粉微塵に四散させるという絶望的な結果をはじき出していた。
シェルターや宇宙への避難も無意味。
地球に住まう人たちは破れかぶれになり、
物理演算が治った世界なのに、理性演算がぶっ壊れてしまっている。
「きょ、教授……まさか私達はとんでもないことをしてしまったのでは……」
「どういうことだ?」
「物理演算が壊れていたのは、この隕石の衝突を防ぐための
地球による防衛反応だったのではないでしょうか!?」
物理演算が壊れていれば重力もおかしくなる。
トラックにぶつかっても、トラックが吹っ飛ぶような世界だ。
「それじゃ我々が物理演算を戻してしまったがために、
正常に重力が適用されてしまい隕石が向かってきてしまったのか!?」
なんてことだ。
人類のためだと思ってやったことが裏目に出るなんて。
「教授どうするんですか! このままじゃ……」
「わかってる! だから今知恵袋に質問してる!」
「教授、もう一度核プレートを壊しましょう!」
「おまっ……正気か!?」
「もう一度、物理演算を壊せば隕石が衝突したとしても
物理法則が無視されて甚大な被害にはならないはずです!」
「だが! 物理演算を再度壊せば、今度は直せなくなるかもしれないのだぞ!?」
地球のコアは一度修繕されているが、
もう一度破壊することになればより傷は深くなる。
初回は直せても、傷が深まった2回目が治せる保証はどこにもない。
確実性はぐっと低くなる。
『隕石が大気圏に入りました! みなさん、さようならーー!!!』
肉眼でも隕石が見えるほどに接近している。
雲を押しのけ、空から巨大な黒い影が迫ってくる。
「教授!! このボタンを押せばコアプレートにダメージを与えられます!」
「ぐっ……しかし……」
「今、ここで押さなかったらどのみちにこの星は終わりです!!」
「ちくしょう! どうにでもなれ!!」
俺はスイッチを押した。
コアプレートにダメージが入る。
「どうなってもしらないぞ……」
腹立ちまぎれに壁にスーパーボールを投げつけた。
ボールは重力に沿って壁に跳ね返ってごく普通に戻ってくる。
「……ん?」
そんな馬鹿な。
もう一度ボールを投げる。
反射したボールは浮き上がったり埋まったりトルネードすることもなく
重力にしたがい手元に戻ってくる。
「壊れてない……物理演算が壊れないぞ……!?」
「そんな! たしかにコアプレートには衝撃を与えたはずなのに!」
「現実を見ろ! この通り物理演算がききまくってるじゃないか!」
物理演算が壊れれば隕石の直撃ルートもあらぬ方向へとねじ曲がる。
けれど、隕石はまっすぐ地球を滅すべくこちらへ向かっている。
太陽を覆い隠すほどに迫る隕石に人類の終わりを確信した。
「我々は間違っていた……この星に住まう生物のはしくれごときが
この星の活動を無理にでも変えるべきではなかった……」
「教授……私達は教授と一緒にこの星のために研究できたこと、誇りに思います!」
「みんな、ありがとう。さあお別れだ。みんなで手をつないで蛍の光を輪唱しよう」
ラボは涙声の歌唱につつまれた。
そして、ついに隕石は地表へと到着した。
隕石はそのまま地球をすり抜けて、宇宙の果てへと消えていった。
あっけにとられていた我々はすぐに原因を特定した。
「もしかして……この星の当たり判定、壊れてる……?」
物理演算が壊れたならすぐに星から逃げろ! ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます