追放賢者が旅をするまで

青水

1:

 賢者。

 それは、フィロマギア魔法国において、魔導を極めし者にのみ与えられる特別な称号だ。その称号を授与される者は、年に一人いるかどうか、といったところだ。

 賢者の称号を有している者は、一〇〇人にも満たない。

 フィロマギア魔法国は中央海に浮かぶ小さな島国だ。『魔法国』という名の通り、フィロマギアは魔法研究が盛んな『魔法先進国』である。

 国民のほとんどは、魔法を使うことができる。それも日常レベルではなく、実践レベルで、だ。フィロマギアの魔法練度は、世界一とも言われる。

 そんなフィロマギアにおいて賢者は、圧倒的な尊崇の対象となっている。

 徹底的な魔法実力主義の頂点に君臨する賢者。

 しかし、その立場は絶対的なものではない。いかに賢者と言えども、罪を犯せばそれ相応の罰が与えられる。

 例えば、逮捕される。

 例えば、処刑される。

 例えば、国から追放される。

 彼らがどのような罰を受けることになるかは、犯した罪の重さによって異なるが、よっぽどのことがない限り、処刑されるようなことはない。

 罪を犯した賢者に対する罰として一番多いのは、国外追放処分である。もちろん、その際には賢者の称号は剥奪される。

 犯した罪がどのようなものにせよ、罪人となった賢者は軽蔑の対象となる。

 ヒエラルキーの頂点から転がり落ちるのだ。翼をもがれた大鷲のように――。

 たとえ国外追放処分にならなくても、民衆からの軽蔑に耐えられなくなり、彼らはフィロマギアから出て行くことになる。

 そして、彼らは一生、祖国へ戻ることはない――。


 追放賢者。


 民衆は彼らのことをそう呼んだ。

 そして、今日もまた、新たな追放賢者が生まれるのだった――。

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