第4話 ウルティミスの幹部達との邂逅
俺とルルトと共に制服を着用して教会に向かっている。目的はウルティミスの幹部達との会合に参加するためだ。
ちなみに会合の日はルルトに段取りを組んでくれと頼んだ次の日のことである。
当然段取りを組んだのは俺達じゃない、ルルトに頼むまでもなく向こうから連絡があったのだ。
これがなんの意味を指すのか見当はつくし、絶対にいい意味と思えない。
とはいえ願ってもないことだ、相手がどのような手段をうってくるか楽しみ、さてさて、王立修道院のブランドを大いに使わせてもらいますか。
と思って歩いているのだが……。
すれ違う全員が俺たちを白い目で睨まれている。そういえば、ここに入るときに自警団の対応もこんな感じだったな。
「なあ、薄々わかっていたが俺たち嫌われていないか?」
「まあ修道院の制服は目立つからね~」
「目立つからね~って、そんな理由じゃないだろう、というか前任者は何していたんだよ」
「前任者か、んーとね」
という言葉で始まったルルトの話。
ウルティミスの駐在官の枠の定員は5名、だが充足率は見てのとおり。
とはいえこれはウルティミスに限った話ではなく、大体が使えない烙印を押された奴、不祥事を起こした奴、後は定年間際の無気力なロートル下士官ばっかりだったそうだ。
もちろん、それが全て悪という訳ではなく、良い面もあるのだが、それは割愛するとして、美味い具合にその無気力なロートル下士官1人が退職したことに伴い、神の力を使って赴任したらしい。
とはいえルルトは神ではあるが当然のことながら神の力を使えるわけではなく、仕事と言えばウルティミスの子供たちと一緒に遊んでいたそうな。
「つまり何もしてこなかったのね」
「むむ、そう言われるのは心外だけどね、ここのために色々しているんだけどね」
「それを理解させない以上はその印象は改善されないだろ、というか、お前の加護がきっかけとはいえここは王国の領土だろう? この惨状をここまで放置していいものなのか、どうも不自然なんだがな」
「細かい事情は分からない、まあウルティミスの歴史はさっきボクが言ったとおり、いつの間にか王国民として溶け込ませたし、扱いは低いのもご存じのとおり、んで王国の保護は全く及ばない上に税金はしっかり納めなさいとくればね」
「なるほど、嫌われて当たり前だな、ちなみにお前はどういうポジションなんだ?」
「優秀だが不祥事を越して左遷された下士官って感じだね」
「…………」
「まあウルティミスだけじゃなくて、王国の辺境地に対しての扱いはこんなものだよ、だから特段不審に思われることはなかったな」
つまりこの街からすれば、不祥事の下士官が赴任してきた上に、さらに本来なら王立修道院卒なんていうありえないエリートが就任してくるってことなわけだ。
こんなところに就任するぐらいだからロクなやつじゃないだろうってことか。まあ全部否定できないのが悲しいところだけど。
とここで、教会に辿り着く。
(さて、赴任して最初の正念場だな、頑張らないとな)
そう、ウルティミス幹部達との会合、向こうが指定された場所は教会だった。
ウルティミスでは都市で大事なことを決めるときには必ず教会で行うのだそうで、いわゆる国会の役割を果たすのだそうだ。
教会を前にして呼吸と服装を整える。「よし」と気合を入れて両開き扉を開き入った先に、俺たちの来訪を察知したのだろう20人程度の都市の有力者達がすでに集まってこちらを見ていた。
「…………」
全員の目が冷たい。まあそれはやむなし……。
(え?)
俺たちの来訪をの有力者たちの一番上席に座っていた人物が立ち上がり俺たちを出迎えてくれた。
「ようこそ、神楽坂文官少尉」
「君が、街長だったのか、セルカ司祭」
「はい、ウルティミスの街長は教会の司祭も兼ねるのが習わしなのですよ、どうぞ座ってください」
ウルティミスは行政区画上では「行政単位」として扱われ、その長を勤めるものは王国議員に名を連ねることになる。
しかし他の都市の幹部たちはセルカ司祭の親の世代たちばかり、それなのにこんな年で務まるのかと思ったが、周りは敬意を払っている感じがするし堂々と振舞っている。
そんなセルカ司祭が指し示した席は、幹部たちと対面に当たる席がたった一つだけ空いていて、俺が座りルルトは後ろで控える形になる。
さて、これからいろいろ俺たちに対して不満を言うのだろうが、どう返すかは考えているし、どこに持っていくのかも想定している。
まず代表者たるセルカ司祭が口を開いた。
「まずは、神楽坂イザナミ文官少尉、ウルティミスへの赴任、おめでとうございます」
「ありがとうございます、セルカ・コントラスト司祭」
「さて、まずは議題に先立つ前に私から確認したいことがあります」
セルカ司祭は、視線を俺……ではなく傍らに座っていた中年男性に向ける。
「ヤド商会長、私は神楽坂少尉の出迎えに馬車1台と2人の人員とお願いしたはずです、この件について神楽坂少尉に説明してください」
セルカ街長の発言に驚いたのは商会長だけではない、幹部全員、俺もルルトも同じだった、何故ならその口調は明らかに咎める口調だったから。
ヤド商会長は顔をしかめながらセルカ司祭に報告する。
「王立修道院出身は最高のもてなしをもって期待を表す、だから俺たちの期待を現したんだよ街長」
「神楽坂少尉の能力を知らずに?」
「能力は知っている! こいつは王立修道院では最下位! 政治的繋がりも全くないって話じゃないか!」
「それだけですか?」
「十分だろう!?」
「紙の成績と風評のみですね」
「っ!」
「貴方の個人的感情を満たすために相手の信頼の失墜を招く、商売でそれだけはしてはいけないとはヤド商会長の言葉ですよ」
「…………」
「大変失礼いたしました。神楽坂少尉、ウルティミス代表としてお詫びします」
深く陳謝するセルカ街長、商会長もぐっと不快感を表情に出すが、それだけで言葉には出さない。
俺は驚いていた、威風堂々のセルカ司祭、やっぱりヤド商会長の態度を見ると一目置いているのか。
しかもこのセルカ司祭、一見して俺に謝っているように見えるけどと、思った時に、俺にしかわからないタイミングでセルカ司祭は微笑んだ。
(これはなかなかに遣り手だな)
つまり俺に「期待」しているってことだ、なるほどなるほど、ならばその期待に応えてやろうじゃないか。
俺は立ち上がると幹部全員に語りかける。
「セルカ司祭、私はむしろ商会長の「期待」は当たり前であると思いますよ」
俺の言葉に注目が集まり、確認して話し始める。
「改めて挨拶します、王立修道院を卒業し赴任した神楽坂イザナミ文官少尉です。さきほどセルカ街長はああおっしゃいましたが、商会長を筆頭に赴任するにあたっての歓迎は、私自身とても勉強になりました。事実私は修道院では最下位なんです、しかも政治力もありませんし、有力貴族の次期当主は私のことを嫌っていることも事実、ですが……」
「間違いなくお力になれると断言します」
若干挑発めいた俺の言葉に全員が厳しく、本当にできるのかと不審な視線を送るが俺は不敵な笑顔で返す。
さてここからが本番、本題だ。
「突然ですが、私は王立修道院には外国人枠で入学しました。そんな私の祖国は日本という国なのですが、この中で日本という国をご存じの方はいますか?」
俺の問いかけに、幹部たちは顔を見合わせて知る知らないを確認するが、誰も発言をしようとしない。当たり前だ、異世界の国なんて知らないのは当たり前だ。
「知らないのも無理はありません、何故なら我が祖国は神の力を使わない限り到達できない場所にあるのですから」
この発言には今度こそ全員がセルカ司祭も「ええ!?」と声をあげて、ルルトすら驚いた。
「それこそ普通の人間では行くこともできません。それはなぜか、日本国の民は、神が世に降臨したときに人と交わり子をなした民の末裔だからです」
「…………」
俺の言葉に全員が絶句している。神の力を使わないといけない場所にある、というのは本当だが、神の末裔なんてのは当然大嘘だ。
日本でこんなことを言えば頭のおかしい奴で終わるが、神が実在するこの世界なら今の話は絶大な威力を持つ。
「そして我々日本の民たちは古来より神が修めたと言われる日本剣術の使い手なのです、さしあたってウルティミスに巣食うブート山賊団を退治して、皆様の信用を得ようと考えています」
ここで俺は発言を終えて着席する。
「あ、あ、貴方は文官ではなかったの?」
こう発言したのは別の女性幹部だ。
「はい、ですが文武両道が我が国の美徳、私が文官課程を選んだのは、そちらでより王国に貢献できると考えたからに過ぎません」
俺の発言を受けて今度はヤド商会長が手を挙げる。
「さ、最強の剣術の使い手は分かった、だがどうやって山賊団を退治するんだ? 奴らは30人はいる、悪いがウルティミスからは人員は出せないぞ。お前はここにいるフィリア武官軍曹含めて2人しかないだろう、作戦は何かあるのか?」
「作戦? 正面突破ですけど?」
「はあ!?」
「ですから、私の祖国の剣術をもってすれば造作もありません、後援はここにいるフィリア武官軍曹で十分です」
「ほ、ほんきなのか!?」
びっくりしすぎて声が裏返った商会長、だがこれは大嘘じゃなくて大マジだ。
「本気です。それにあたり私からお願いしたいのは、幹部の方々に私が山賊団を壊滅させたら、ここらを管轄する憲兵地方本部に連絡をしていただきたいのです。壊滅させた山賊団たちの見張りをする必要がありますし、私も現場を離れることができませんから」
「…………」
俺の自信を持った言い分に、全員が開いた口が塞がらないようだった。
●
「大見得切ったね~」
就任の挨拶を終えた後、戻った執務室でルルトは呆れたように言った。
「何事も最初が肝心だ、インパクトはあっただろ、まあ神頼みなのが情けないけどな。しかしもっと激しく反対されると思ったけど、結果的に承認してくれるとはね、修道院出身のエリート様ってのは便利だね」
「それでいつ攻め込むのさ」
「ん? もったい付けてもしょうがないから出来るのなら今日中にでも壊滅させようか」
「今日中に? ずいぶん急だね」
「それ以上のインパクトはないだろ? それで一つ提案というか質問なのだけど、壊滅作戦にあたりセルカ司祭を同行させようと考えている。戦闘中は俺とセルカ司祭の両方に加護を与える必要があるけど、それはできるのか?」
「まあ、それは造作もないけどセルカ司祭は呼ぶ必要ないんじゃないか? 大丈夫だとは思うけど危険が0とも思えない。ボクたちだけでいいじゃないか」
「いいわけあるか、お前は今回の戦いの位置づけはどう考えているんだよ」
「え?」
「え? って、本当になーんも考えていないな、お前は俺をカモフラージュとかスケープゴートとして呼んだんだろ? そのために周到な準備をしたのに俺をどう運用するのか全く考えていなかったのか?」
「か、考えていたさ! 君が提案したそのもの、神の加護を使ってキミを強くしてやっつける! そうすればうまくいくんだよ!」
「それは強いものが偉い神の理論だろうが。俺は「神の力を使わないと辿り着けない、神と人が交わって生まれた民族の末裔」なんだぜ」
「それって、適当にハッタリで言ったんじゃないの?」
「適当はお前だ適当神、あのね、人は知らないってことに対して何もしないとマイナスの方向に思考が働くが、アクセントを加えてやれば神秘的に思考が動くんだよ、そのためにあのセルカ街長は適任だ」
「どう、適任なの?」
「セルカ司祭はあの若さで幹部たちに一目置かれている存在だ、必ず同行させた俺の意図に気付く、そして効果的に俺の力を宣伝してくれる。今後俺の「威光」を利用するためにね。だから適任なんだよ」
「…………」
俺の言葉にルルトは圧倒されながらもポカーンと口を開けてきたがうんうんと頷いてくれた。
本当に分かってんのかなぁ。
と一抹の不安を抱えるも、ブート山賊団退治のため、俺とルルトは動き出した。
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